タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 噛ませ犬の表現は苦手ですが初投稿です。



いうてボス格が弱いということもない。

(鵺。実際のところ、あの鬼の強さはどの程度なのですか? 異質な妖気を感じるのは確かですが、完全に凪菜さんのペースで手玉に取られているようにしか見えないのですが)

 

『アレは妹のほうが巧いってだけだ。内包する妖力は上位の鬼である鬼豪レベルで間違いねェ。詳しい能力までは己はヤツを知らんからなんとも言えんが……妹のほうがお得意の直剣じゃなく錫杖を構えてやがる。あの小僧の妹だからな、なにか意味があるはずだ』

 

(接近戦を警戒している……? いえ、それなら黙っている必要はないわね。凪菜さんは相手側のなにかに気が付いている。だから魔法スキルを使う素振りで────カモフラージュ? 巫女が魔法スキル主体なのは鬼側も承知のはず。それでも敢えて見せつける……もしかして、魔法スキルしか使えないと錯覚させるため……?)

 

 

 無銘凪菜、ここで痛恨? のミスッ!! 

 

 ゲーム知識による認識の違い、鵺だって別になんでもは知ってない。学園と義塾では管理している迷宮が違うように、地域によって縄張りのようなものがあるのだから鬼の知識もバラバラなのだ。ただ、蜂眼坊のような鬼仙クラスの格を持つ鬼ならあっちこっちフラフラしているから有名なので知っているというだけで。

 しかしそこは成長した棗の洞察力により事なきを得る。どっかの誰かさんが錫杖に刀を仕込んでいたのを目撃した経験が生かされているのだろう、バカ正直に戦力を見せびらかすのではなく隠すことの重要性を知っている。どれだけ強力なスキルを使えるのだと自慢したところで実戦では役に立たないことを学んだのだ。

 

 未知の強敵を相手に手加減する理由はない。

 

 それでも剣スキルの使い手がわざわざ魔法スキルで迎え撃つのなら、そこに意味があるとすれば剣スキルを使えることを相手に隠すため……かもしれない。

 

 どのみち周防道人とやらの情報はなにも無く、宣言通り水属性の魔法スキルが得意だとしても肝心の戦闘スタイルはわからないのだ。ここで無策のまま殴りかかるなんて……ほかでもない、暮間の侍にはいるだろうと思い至った棗の表情はちょっとだけ苦そうである

 

 ちなみに更紗は普通に危険なニオイを嗅ぎ取って警戒していた。2代目主人公の相棒ポジションとして“学校が舞台ということも含め、せっかくパーティーを組めるシステムなのに序盤だけとはいえソロ攻略をプレイヤーに強いるのはどうなのか“という反省点から誕生したキャラクターだけにこういう場面でも頼もしい。

 

 

「さぁ、踊れッ! 踊れッ!! 無様に踊り狂って僕を楽しませてみなよ下等生物ッ!!」

 

 

 周防道人の周囲に複数の水の玉が浮き上がり、そこから大量の槍のようなモノが放たれたッ! 

 

 前衛と後衛の役割分担が重要なゲームにおいて、盾となり壁となる前衛を飛び越えて直接後ろを狙ってくる敵というものは厄介であり面倒なものだ。単純な耐久性の問題はもちろんのこと、攻撃や回復、補助などの役目を潰されることで状況を悪化させられるからだ。

 それは鬼切姫でも例外ではない。遠距離攻撃は必ずどこかのタイミングで立ち止まる必要があり、弓スキルと水属性スキルを得意とする静流にとって周防道人の攻撃方法は相性最悪である。属性的には玄武の加護によりダメージは減らせるのだが、あらゆる行動を阻害されて戦力として機能しなくなる。

 

 

 得意とする水属性の扱いで手も足も出ないまま、黄龍の巫女である真白を危険に晒すことになり……というのが本来のイベントの始まりなのだがここにいる巫女たちにはそんなの関係ない。

 

 

 魔法スキルの発動には集中力を高める必要がある。それはそう。だがこれだけ水の槍がぼんがぼんが飛んでくるときにわざわざ足を止めてスキルを使おうなんて考えるのは相当なアホだろう。攻撃パターンを知っていた凪菜はもちろん、棗も更紗も避けることに集中して周防道人の様子を冷静に伺っている。

 だが自分の圧倒的有利を信じて疑わない純粋な心の持ち主である周防道人は巫女たちが逃げ回る姿を見てとてもご満悦であった。巫女は魔法スキルを使って戦うのが当たり前、そして自分は遠距離攻撃に対して堅牢なる防御手段を持っている。まさか殴るためのタイミングを丁寧に丁寧に狙っている……などと想像できるはずがない。

 

(いやぁ、なんとも楽しそうッスねぇ〜。そりゃ楽しいッスよねぇ〜。原作通りの性格なら、周防道人は自分より弱い相手を選んで自尊心を満たすために戦っているタイプだし。それで玄武の侍である静流先輩の自信をへし折って、それで真白先輩が励まして……って流れだったッスからね。ま、ウチがわざわざそれに付き合う理由はないッスけど、もう少しだけエサを与えて逃げ道を塞いでおくッスかッ!)

 

 模擬演武という名の()()()()()に興味を持たず、黙々と自己鍛錬に時間を費やしてきた凪菜にとって、逃げ回りながら魔法スキルを準備することなど朝飯前である。常識的な巫女の姿しかしらない周防道人には、おそらく悪あがきにしか見えていないのも好都合。

 

 

「雷蛇ッ!」

 

『いぇ〜いッ!』

 

「行くッスッ!! ファングッ!!」

 

 

「あぁ、なんて哀れな……僕の真似をすれば君のような下等生物でも強くなるとでも思ってしまったのかな? ごめんよ、無駄な希望を持たせてしまったようだね……残念だけど、僕には届かないよ?」

 

 

 水の盾が雷の牙を受け止める。四方八方から同時に襲い掛かるソレを、指先のひとつすら動かすことなく全て無効化したのだ。

 

 

「棗先輩ッ!! サラッ!!」

 

「暮間十八番・六枚目ッ!! 焔走狗ッ!!」

 

「いっけぇッ!! クリスタルアローッ!!」

 

 

 炎と氷、ふたつの魔法スキルによる攻撃────も、ダメ。3人の攻撃を完璧に防いだことに気分を良くしたのか、周防道人の攻撃がさらに激しさを増す。

 移動しながらの魔法スキル使用にまだまだ不慣れな棗と更紗は回避だけで手一杯となってしまったが、周防道人が水の盾を展開して防御する様子を見ていた凪菜のとても良い(悪い)笑顔のおかげで焦る気持ちはまったく無い。

 

 

 

 

「くッ!? このぉッ!!!!」

 

 

 魔法スキルが通用せず自暴自棄になった凪菜が錫杖を大きく振りかぶって周防道人に飛び掛かるッ!! 

 

 

 

 

「あぁ、巫女の非力な腕力で僕に挑んてくるなんて。本当に……本当に、本当にィッ!! 哀れな下等生物だな人間という生き物はァッ!!」

 

 

 それを大笑いしながら周防道人が水の槍を実体化し撃ち出して、凪菜の胸に突き刺したッ!! 

 

 

 

 

 一瞬だけ驚愕の表情を浮かべ、そのまま凪菜は地面に倒れ伏した。

 

 自分を散々虚仮にした身の程知らずの生意気な巫女を最初に始末できたことがよほど嬉しいのか、だいぶ余裕の生まれた笑みで「次は君たちだよ」とでも言いたげにゆっくりと棗たちのほうを向く周防道人。

 

(い…………たぁ〜ッ!? くぅ〜、性格はともかく強さだけはガチのマジなだけあるッスね……。雷バフで思考速度もブーストしてなかったら意識を持っていかれてたかもッス。これ、奇襲を仕掛けるとしてもかなりの覚悟がいるッスよ)

 

 周防道人の襲撃は別として、大イワナの存在を知る凪菜は水属性対策をしっかりと準備していた。電気の力で水を水素と酸素に分解するように、雷属性の霊気で水属性のエーテルそのものを分解してスキルを無効化できないかと試行錯誤を重ねていたのである。

 

 結果としては納得のできるスキル構築はできなかった。そもそも大イワナの水弾が単純に大きいというのが厄介で試す気にすらなっていない。ゲームと違って衝撃波が凄まじく、リングアウトの危険性を考えたら受けてみようなどとは思えなかったのだ。

 だが、胴体に雷属性の霊気を集中させて防弾チョッキのように使えるかもしれない……という試みは成功した。簡単に挑発に乗ってきたものの流石はストーリーのボス鬼、胸を貫通こそされなかったが全身を振動が駆け巡り脳震盪で気絶するのではないかとヒヤヒヤしていたが……演技も含めて大成功である。

 

 

「────テメェッ!!!!」

 

 

 凪菜とバッチリ視線を合わせて生存確認を終えた更紗がブチギレを装い周防道人に殴りかかる。迫真の怒号はうっかり笑ってしまいそうになるのを誤魔化すため。

 

「あぁ、仲間を殺されたのが哀しいんだね。羨ましいよ、ひとりで戦えてしまう僕には理解できない感情だ。だけど僕は慈悲深い鬼だからね、下等生物の君にも優しくしてあげるよ。そう……君も後ろのゴミと一緒に殺してあげるね?」

 

 再び、大量の水の槍が展開されるッ! 

 

 だがここからは反撃のターン、自分の役目は凪菜の準備が整うまでの時間稼ぎ。錫杖を投げ捨てて武器スロットに登録してある愛用の三節棍を取り出して、更紗は迎撃の体勢を整えたッ! 

 

 

「ナントカと攻撃スキルは使いよう、ってねッ! リズム良く、テンポ良くッ! ────スマッシュビートッ!! DA・DA・DAッ!!」

 

「な……ッ!? 僕の水術を、そんな力任せに……ッ!! こ、の……ッ!! そんなに僕を怒らせたいのかいッ!? なら、お望み通り下等生物に相応しい死に方をプレゼントしてあげるよッ!!」

 

 

 増える。

 

 さらに増える。

 

 もはや、周防道人の頭の中には更紗を串刺しにして始末すること以外の思考は存在しないほどに水の槍は苛烈さを増している。

 

 

(重ぇッ!? クッソ重いし手がメッチャ痛い〜ッ!! ナギーの挑発が効きまくってたけど、コイツ強さはあーしよりずっと上のヤツだッ! ヤバい、コレ本当にヤバいってッ! でもなっちゃんセンパイのターンを温存するためにもあーしが踏ん張らないとダメなヤツだし……くぉぉぉぉ〜んッ!!)

 

 

 更紗、普通にピンチ。

 

 単純に相手が強いのだから仕方ない。

 

 

 だが、一瞬で終わらせるはずが次々と氷の槍を砕かれているのだ。事実として追い詰めているとしても、その光景を見てしまえばプライドの高い周防道人では冷静さを保てない。

 

 

(────いまッ!!)

 

 

 凪菜の切り札、雷属性スキル『神速のインパルス・絶』

 

 全身に限界以上の電気を巡らせ、神経や筋肉に致命的な損傷が発生するのも構わずにステータスを強化する捨て身のスキル。

 

 兄が兄なら妹も妹ッ! 必要ならば自分の手足も必要経費でしかないのだッ!! 補足しておくがこの兄妹、転生前はごく普通の一般家庭で育っているッ!! 

 

 

「────ッ!? 霊気、さっきの女が生きて……ッ!? 僕の水術を受けたクセに、下等生物のクセに、死に損ないが────は?」

 

 

 突然、背後に鋭い霊気の波動を感じて周防道人が振り返る。が、そこにはなにもいない。

 

 それも当然のことだ。これから騙し討ちをしようというのに堂々と立ち上がったのでは意味がない。凪菜は地面を這うように姿勢を低くして周防道人の『脚』に狙いを定めて突っ込んだッ!! 

 

 

「一意専心、斬ッ!!!!」

 

 

 脚一本。

 

 格上相手には上出来。

 

 それが自分自身の腕と引き換えでも。

 

 

(あー、こりゃダメッスね〜完全に。死に戻りじゃなくても、普通に迷宮から脱出しても入院コース確定ッス。今度はウチが兄貴に看病してもらうしかないッスね〜)

 

 なお、その兄貴も次回からストーリーのボス鬼と戦うことになるものとする。どの程度の強さかって? 原作では友情ルートの終盤で蜂眼坊と一緒に真白に協力してくれるポジションって説明から自由に想像して、どうぞ。

 

 

 自分の役目を終えた凪菜が呑気に自己診断をしている最中も状況は変化する。

 凪菜と更紗、ふたりの後輩が与えてくれたチャンスをみすみす逃すようでは鵺の認めた巫女に非ずッ! 

 

 まぁ、せっかくのチャンスで選んだ攻撃が蹴りなのは巫女としてアレだが。周防道人には魔法スキルを含む遠距離攻撃が効かないのだから仕方ない。

 派手に蹴り飛ばされた周防道人に馬乗りとなる棗。更紗が全ての水の槍を引き受けてくれた時間で核の位置は把握している。あとは全身全霊の力で刀を突き立てるのみッ! 

 

 

「……ッ! それ、が……貴方の、本当の姿……ですか……ッ! ふふ、下等生物である、私たちを……真似るよりも……ずっとッ! 男前ですよ……ッ!!」

 

「お前、僕の、顔を見────おんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!!」

 

 

 そこにあったのは、青と藍色の斑模様の皮膚に覆われたカエルの頭。

 

 

「鵺ッ! 私に構わず全力でッ!!」

 

『死ぬなよ棗ェッ!! 耐えてみせろッ!!』

 

 

 腕力だけでは貫けない。

 

 体重の全てを載せてもまだ足りない。

 

 ならばどうする? 雷と土の複合属性『重力』の魔法スキルで自分ごと押し潰せばいいッ! 

 

 

 それでも力比べならステータスの差でまだ周防道人が有利。この場にいるのが棗だけなら、ひとりで戦っていたなら勝ち目はなかった。

 

 

「……ひとつ、良いことをお教えしますよ。頭上、注意です……ッ!!」

 

「なにを言って────あ」

 

 

 周防道人の眼前に槍の穂先が迫る。

 

 それは凪菜の予備の武器であり、使い物にならなくなった右手の代わりに更紗が一緒に支えていた。

 

 

 咄嗟に。周防道人は眼前に迫る槍の穂先を止めようとした。してしまったのだ。

 

 

 人のモノでは無くなったその両手が穂先を掴むより速く、棗の刀が核を貫いて破壊した。

 

 そして下等生物である人間に敗北した絶望の断末魔よりも先に、凪菜と更紗の槍が顔面を貫いて破壊する。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「……ふたりとも、生きてる?」

 

「どうにかッス。もう指一本動かせないッスけど」

 

「同じく〜。交換学生、おもしろそーって立候補したけど……義塾のトレーニングなんかより何十倍もツレーのウケる……いやウケないし……」

 

「そう、ね。私もこんなことになるとは想像も……い、つ……ッ!」

 

 手首と肩の骨が歪んだらしく、さすがの棗も苦痛に声が漏れる。それでも先輩として少しでも後輩たちを安心させるために立ち上がり、エーテル粒子となって消えていく周防道人に近付いた。

 そこには本人の性格とは真逆の美しいエーテル結晶が落ちている。水属性の、青く美しいエーテルをタップリと蓄えた大きなエーテル結晶が。これなら上位の鬼の襲撃があった証拠として充分だろう。

 

(アレ、どうなるッスかね? ゲームではドロップアイテムとかは基本的に全部プレイヤーが自由にできるッスけど、この世界では大人の事情が強いッスから……。ま、原作に近い性格だったし、周防道人が復活する可能性が低いってだけで良しとしておくッスか……)

 

 人間が心折れて戦えなくなるように、鬼もまた心が折れれば復活に膨大な時間が必要となる。

 

 黄龍の巫女と玄武の侍という人間の中でもトップクラスのブランドを相手に敗北したときでさえそうだったのだ。

 気まぐれにザコを相手に遊ぶつもりが、素顔まで見られて核を破壊されてしまったのでは……さて、自分たちが生きている間に復活できるのだろうか? 

 

 このことを凪菜は伝えるつもりもなければ仄めかすつもりもない。それで油断するぐらいなら、大人たちには警戒を続けさせたほうがいい。

 世界の都合と言うべきか、学生たちが中心となって活躍するためには優秀でまともな大人が邪魔になるのはわかる。しかし痛みを伴い血を流す立場から言わせてもらえば「ナメんな」と一発ブン殴ってやりたいと思うぐらいは許されるはず。

 

 

(……もう、いいや。考えるのや〜めた。なんでウチがそんなことまで心配しなきゃならないんスか。負けイベを潰せただけでも上出来ってことにするッス。あ〜、腹減った……けど右腕が丸ごと使えない〜。やっぱ、負けイベって転生者的にはクソそのものッスねッ!)

 

 満身創痍でも勝ちは勝ち。

 

 無銘凪菜、暮間棗、祁答院更紗。本来なら敗北の運命である周防道人を相手に無事勝利であるッ!!




大イワナ
「なわばりあらそいでまけた。くやしい。でもにぎやかでおもしろかった。もういちどたたかう。こんどはかつ」

大イワナは復活した!
大イワナはレベルが上がった!

今回はカットしましたが、そのうち彼方くんとでも踊ってもらう予定。
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