タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
問答無用で初投稿です。
大イワナの原作での基本的行動パターンはふたつ。
ひとつ。巨体を活かしての突進。大きく弾き飛ばされたなら儲け物、当たり方が悪いとそのまま連続ヒットで確実に体力はゼロになる。自分が余裕を持って回避することも大事だし、戦闘前に仲間への指示で間合いの調整も怠ってはいけない。
もうひとつ。巨大な水弾による爆撃。万有引力のニュートン先生は帰ってどうぞとばかりに器用に上体を起こして口からポンポンと水の塊を吐き出して攻撃してくる。ゲームでは突進のようにリングアウトの危険性はなかったが、この世界では弾けるときにちゃんと衝撃波が発生するので油断はできない。
どちらの攻撃方法も範囲が広いぶん、大イワナにはわかりやすい弱点が用意されている。目が退化していて視力ではなくエーテル波動、あるいは人間の体内に蓄えられた霊力を目印にして行動するという設定があるのだ。
プレイヤーを直接狙うのではなく“プレイヤーの方向”に攻撃を仕掛けてくるので、相手が動き出してから走り始めれば簡単に避けられる。だからこそコレ案外殴れるんじゃないか? と欲張るプレイヤーたちが跳ね飛ばされたりもするのだが。
高い攻撃力と広い攻撃範囲を持つが、狙いが粗くじっくり戦えば意外と楽勝。スキルシステムによる派手なアクションも含め、ここまでの戦闘でイケイケの精神になっていたプレイヤーの自信を丁寧にすり潰してくれる手頃な中ボス。
だがそんな大イワナもシステムという枷から解放されることで恐ろしい強敵へと昇格していた。突進と水弾から逃げ回る姿はコメディのような光景だが、どんどん足場が悪化するというハンデは戦っているほうにとっては非常に厳しいものがある。
ただでさえ削れて抉れてボコボコになったところに、水弾によって生成される瘴気の水溜りがゲームのように時間経過で消えないのが凪菜たちを追い詰めていた。
更紗とフロストポルカが凍らせることで封じてはいるが、いくらアイテムで霊力を補充しても疲労は誤魔化せないし集中力も落ちる。あと単純に氷の上は滑りやすいので、緊急時の足場はともかく戦闘で活用するのは難しい。
土属性を扱える棗と更紗のふたりがかりで整地する、という作戦は提案するのとほぼ同時に却下された。破壊のペースが早過ぎて普通にムリだからだ。
(この手の大物は内側から仕留める、っていうのがおとぎ話とかの頃からセオリーだったりするッスけど……まぁ大イワナ相手じゃ成功率0パーだってわかってるし、試すだけ無駄ッスね〜)
ゲームでは体力を半分ほど削ったところで、大イワナの行動パターンにこちらを飲み込む攻撃が追加されていた。復活系のスキルも無効化する即死攻撃であり、飲み込まれた仲間はそのまま学園へと戻される。
問題はそのメカニズムにある。設定では大イワナの体内は別の迷宮へと繋がっており、飲み込まれたモノは暗い海の底で水圧によって一瞬でバラバラにされ、瘴気によって一瞬で腐り果ててしまうのだ。
異界の海に繋がるモノ、故に異湾魚。フレーバーテキストに苦しめられるのもゲーム転生の醍醐味……なのかもしれない。
「ま……手札は使ってナンボみたいなところあるし、よっぽどの貴重品でもなければ出し惜しみして負けるのはタダの間抜けッスからね。さぁ〜て、な・な・な・ナニが出るかな〜♪ ハイ、特製タル形爆弾〜! ────そぉぉぉぉいッ!!」
使えるものはなんでも使う。前世の知識で大型の鬼が出ることを知っているのだから、それらを討伐するための手段も兄と妹で事前に相談して用意してある。
なので、もちろん凪菜が力いっぱい遠投したタルの中身は普通の火薬などではない。大イワナが高いエーテル感知能力を有していることを逆手に取り、エーテル結晶をタップリと詰め込んで破裂させて気絶を狙う。
「ハハッ、すっげッ!」
「ヘタに近寄ると起き上がろうとするときに巻き込まれるッスよッ! ウチがエーテル爆弾で気絶をキープするッスから、その間にとにかく全力で魔法スキルを叩き込むッスッ!!」
「動きを封じることができるのなら、守りは意識する必要はないわね。全身の霊力を、全て破壊力にッ!!」
◆◇◆◇
「ふぃ〜ッ! ふたりとも、お疲れ様ッス……」
「大きさに違わない頑丈さだったわね……霊力が枯渇しそうなほど魔法スキルを使ったのは、ずいぶんと久し振りな気がするわ……」
「疲れ、マジで疲れた……ッ! ナギーのおかげで楽勝だっけど本気の大マジで疲れた……ッ! メンタルが筋肉痛になるわ、コレ」
作戦は成功した。
突然の閃き(本当は事前準備)に合わせてくれた棗と更紗も今回の戦いのMVPと言っていい。
消耗したエーテル爆弾に使ったエーテル結晶を補充するのが多少手間ではあるが、それはまた稼ぐだけのこと。
強制タイムアタックでボス鬼を完封できたのだから、戦果としては大勝利と言えるだろう。
ただ3人の巫女のメンタルは限界に近い。本来なら水弾爆撃のタイミングで接近し、大イワナの攻撃を避けつつ柔らかい腹の部分を殴って倒すことになる。
だが今回の戦い方では運悪く腹が下側になり弱点を攻撃できなかった。結果、ダメージが大幅にカットされ倒し切るまでに霊力も集中力もスタミナもすっかり枯渇してしまったのだ。
とはいえ……中ボスを倒すことはできた。奥の院へと続く道が見えているが、こうも集中力が落ちた状態では満足な探索などできるワケがない。
ここは素直にアイテムを使って離脱しよう。3人の意見が一致して、あとは帰るだけとなったそのとき。
「あぁ……なんて哀れなんだろう、人間という生き物は。その程度のザコを相手に、そんなにもエーテルを消耗してしまうなんて。本当に、哀れな……哀れな下等生物だね、人間という生き物は」
露骨に怪しいイケメンが現れたッ!!
誰何の問答をするよりも速く、棗が錫杖を構える。蜂眼坊のときにも感じた不穏な妖気を目の前の気障ったらしい鬼から感じ取ったからだ。
棗が臨戦態勢になったことで更紗も異変を理解して錫杖を構えるッ!
そして凪菜はインベントリからドリンクを取り出して飲み始めたッ!
「……あの、凪菜さん?」
「いや、だって霊力カラッポじゃないスか。状況的にどうみても敵側なんスから、回復しないと戦いにならないッスよ。ホラ、向こうも優しく微笑みながら待ってくれてるッス」
「アレは優しく微笑む、ってカンジの笑い方じゃないっしょ……どう見ても……あーしらのこと、完全にナメてる笑いじゃん……」
知っているから回復しているんスけどね〜。
静流ルートで戦うことになる上位の鬼、鬼豪『周防道人』の存在を知る凪菜に驚きはない。彼方が静流のイベントフラグを潰してしまった可能性を聞いたときから、そのシワ寄せがどこに来るのか様々なパターンをシミュレーションしていたからだ。
巫女が3人のタイミングで仕掛けてくるこのパターンは……控え目にいって最高。紅蓮と静流が彼方とパーティーを組むことになり、巫女3人で文曲の迷宮を攻略する流れになった時点で襲撃を期待していた。
遠距離攻撃のエキスパートである喜多静流の敵役だけあって、周防道人は物理・魔法の両面で遠距離攻撃を封じる手段に長けている。彼にとって巫女3人という歪なパーティー構成は確実に狩ることができるオモチャでしかないのだ。本来ならば。
「フフッ……舐めている、だなんてとんでもない。僕は人間のことをそんなふうに考えたことは無いよ? 本当さ……。君たちだって、道端のアリや羽虫のことをいちいち気に掛けたりなんて「とぁッ!」ほぼッ!?」
なぎな は あきびんをなげた !
すおうどうじん の かおに1のだめーじ !
ただ空き瓶を投げただけであり、スキルでもなんでもないので普通に有効なのだ!
「あら〜、冗談のつもりが命中しちゃったッスね〜。なんか偉そうにペラペラ喋って隙だらけだったから、きっとコッチの油断を誘うためなのかな〜と思ってたんスけどね〜。タダの間抜けだと気付けなくて申し訳なかったッス。失敗失敗」
「お、おま、お前ぇぇぇぇッ!!!!」
「しかし、なんというか……アレな感じッスね。こうもアホ丸出しだと、話に聞いた上位の鬼って雰囲気もあんまりしないっていうか。あ、もしかしてそういうことッスか? さてはアンタ、蜂眼坊とかっていう鬼の手下ッスねッ! だから全然強そうじゃないんスね、いわゆる虎の威を借る狐ってやつッスッ!!」
ビシッ! と周防道人を指差す凪菜。
別に無意味に煽っているのではない。挑発によって冷静さを奪うためだ。原作同様に周防道人のプライドが高いことを期待しての下っぱ呼ばわりである。
間抜け扱いしたことにバチクソにキレている時点で必要ない気もするが、可能であればここで逃がすことなく殺しきりたいと考えている凪菜にしてみれば大真面目に気が抜けない場面だ。周防道人の襲撃イベントでは一般人に被害が出ている描写があったからだ。
「なにも知らない無知な下等生物のクセにッ!! この僕をッ!! 最強の水術使いであるこの周防道人をッ!! よりにもよってあんな、あんなッ!! 人間如きを敵と認めるような鬼の下衆の手下などと「雷獣シュートッ!」ごぱッ!?」
なぎな は あきびんをけった !
すおうどうじん の ぷらいどに1のだめーじ !
「御託はいいから、さっさと戦いを始めるッスよ玉無し野郎。こっちはデカくて太くて立派なヤツを相手にしたせいでヘトヘトなんスから。さっさと終わらせて迷宮から出たいんッスよ。だから────
徹底的に挑発を繰り返す凪菜。これだけの好条件で戦える機会などそうそうあるものではない。たかが巫女だと油断しているところに、存分に接近戦を挑めるタイミングはきっとココしかない。幸運に次を期待するほど凪菜は戦いを甘く見ていないのだ。
もしも周防道人が大イワナの戦いだけを見ていたのであれば、魔法スキルをメインにして攻撃しているところしか見ていないのであれば。いや、その可能性は充分高い。だからこそ鬱陶しいセリフと一緒に姿を現したのだろう。圧倒的に有利な状況で人間を嬲り殺しにするために。
なんの相談もなしに棗と更紗を巻き込んでしまったことだけは申し訳ないが……そこは諦めてもらうしかない。そもそも別にウチが周防道人を意図的にこの場に呼び付けたワケじゃないッスからねぇ〜。バチクソに挑発しただろって? いや、冷静になって撤退されると困るんで。そこは必要経費ってコトでひとつ。
しゃらり、と。ギリギリまで手札を隠すため錫杖を向ける凪菜。おそらく周防道人に遠距離攻撃が通用しないことは鵺も把握しているはず。わざわざ伝えなくても、こうして剣ではなく杖を構えていることで棗はきっと察してくれることだろう。更紗については────とりあえず祈るしかない。
本来であれば静流のパワーアップのための負けイベントである周防道人の襲撃が本人不在で始まった。これで真白と静流が結ばれる可能性はほぼ完全に消え去ったことになるだろう。
これも一般人への被害を減らすため、いわゆるコラテラルダメージというヤツだ。その代わりに兄の彼方と一緒に男子学生らしい青春をタップリ楽しんでくれ。そんなことを考えながら、凪菜は錫杖に雷属性の霊気を纏わせた。
どんな遠距離攻撃でも簡単に防御できる鬼
VS
別に近距離の殴り合いで普通に戦える巫女3人
ファイッ!
※但し、巫女側の3人の内ひとりは兄の影響により勝利のために手段は選ばないものとする
鬼は、生き延びることができるか……ッ!
(できない)