タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
日本神話は何でもありの集団なので初投稿です。
順番に攻略しなければならなかった前半戦の迷宮と違い、後半の4つの迷宮は自由な順番で攻略することができる。
基本的には攻略対象となる4人のイベントフラグとセットになっているため、プレイヤーは目的に応じて挑戦する迷宮を選ぶことになる。
ただし、ここからはパーティーの人数によって鬼が強化されるという制限が発生してしまう。3人までなら変化はないが、4人以上のパーティーだと強敵枠の鬼が追加されることになり……レアドロップ狙いのプレイヤーに追いかけ回される哀れな光景が繰り広げられた。
だがレアドロップマラソンという狩りの概念が薄いこの世界、そもそも貴重品を落とすかも? という期待が無い状態で強敵に襲われてテンションが上がるはずもなく。
心が折れるほどではないが中ボスらしき鬼の姿も拝めず全滅した3年生パーティーの皆さんの情報を整理した学園側は、3人以下での攻略を推奨すると定めた。
限定しなかったのは真白+4人での攻略を期待してのこと。暮間の扱いはなんかこう配慮が〜とか雰囲気でいくらでも言い訳ができるのだし、ここは繋がりの深い四神家の面子を優先するほうが良い。
もちろん名誉ヒロインの真白がそんな大人の都合に合わせるようなことなどあり得ないワケで。
紅蓮と静流のふたりから視野を広げるために彼方と一緒に攻略したいと相談されれば後方理解者の顔で快く送り出すし、余った白虎と青龍の侍は自分に協力してくれるのでそれで良しとした。
彼方への評判? 美少女と一緒に攻略する様子に嫉妬していた男子生徒に、今度はイケメンと一緒に攻略する様子を不快に思う女子生徒が加わったところで本人はまったく気にしないだろう。
◆◇◆◇
「……と、いうことで。兄貴は増永先輩と喜多先輩と一緒にパーティー組んで、真白先輩は望国先輩と目白先輩と一緒にパーティーを組むということで、余ったウチらで文曲の迷宮に突撃ッスよッ! よろしくお願いします棗先輩ッ! あとついでにサラも」
「いやあーしはついでか〜いッ! それはそれとしてナギ? とりま、しばらくは3年生だけが攻略するみたいな話じゃなかったっけ?」
「3人パーティーならそこまで苦戦することもなかった、ってコトで加護持ちと一緒ならオッケーって話になったッス。これで精神的にまいってリタイアする先輩が出てたら別だったかもしれないッスけどね〜」
「だけど、神霊や精霊が力を使い果たして封印状態になってしまっている先輩方も少なくないわ。凪菜さんも、それに更紗も、決して油断だけはしないよう気を付けて。もちろん、私のほうが気を緩めてしまうようなことがあれば遠慮なく指摘してくれて構わないわ」
「ん〜、たぶん大丈夫だと思うッスけどね〜? 油断できるほど、気を緩めるスキがあるほど楽な攻略にはならないと思うッスから。学園が保管してた資料もどこまで信じていいのか怪しいトコですし、それに……なんとな〜く、イヤな感じしてるんで」
具体的には原作知識による危険予測である。
本来なら文曲の迷宮では喜多静流のイベントが進行するのだが、兄の彼方からうっかり仲良くしてフラグ潰しちゃったかもテヘペロ☆ と報告されたことで、凪菜は迷宮の主だけではなくストーリーイベントのボス鬼との戦闘が起きる可能性を考えていた。
八雲姫と同じ鬼神レベルの鬼ではないが、蜂眼坊と同じ『鬼仙』の格を持つ鬼が。あるいは、登場するのがそれよりワンランク落ちる『鬼豪』だとしても苦戦は免れないだろう。当たり前のように戦う前提で考えていてゲームでも使えた離脱用アイテムを使おうという発想にならないのは流石である。
(あんまり知識チートに頼ると想定外の流れになったときに混乱してマイナスにしかならないッスけど……心構えをしておくかどうかでボス戦の動きは変わるッスからね。鬼側が集団行動できないヤンチャな性格のままであることを期待して、取り敢えず殴れるかどうかだけでも試して情報を兄貴に持ち帰るのが大事ッス!)
原作崩壊のリスクについて警戒しながらも鬼が出たらまずブン殴ってから考えようの精神で文曲の迷宮に乗り込む凪菜。そこにはゲームでも何度と見た光景が、美しい“水上の院”をモチーフにした迷宮が広がっている。
3人で戦うには少々手狭と感じる小さな陸地と雰囲気タップリの木造建築が橋で結ばれた構成は、見ているぶんには空が明るいこともあってピクニックでもできそうなほど美しい。
だが攻略するなら常に落下して水没からの即死を警戒する必要があるので難易度はここまでの迷宮より確実に高い。重装備の侍は簡単に沈んでいくし、軽装備の巫女でも戦闘中に水に落ちれば冷静な対処など不可能だろう。
死に戻りした3年生たちの神霊や精霊が力尽きて眠りについたのも、窒息死によって心が壊れないよう加護を与えた者を護ったからだ。ほかの迷宮も似たような事情であり、ゲームでは即死トラップだったギミックもこの世界ではハイ終わり! とはならなかった。
「落下による戦線離脱……これは確かに厄介ね。なるべく建造物の近くで戦うように気をつけましょう。挟撃のリスクはあるかもしれないけれど、鬼が攻めてくる方向を限定できると考えれば悪くないと思うのだけど」
「異議な〜し! っつか、さっそく水の上をアメンボみたいに移動してるヤツがいるんですけど。うわ〜、なんだアレ……? 虫? 動物? わかりやすくヒトの形をしてないって、あんなん義塾でも見たことないし」
敵の強さとは単なるステータスの上昇だけではない。ここまではどこか人間的な動きをしていた鬼がメインだったが、ここからの鬼は明確に異形の姿となって襲い掛かる。
水上は6本の足で移動していた半獣半虫に見える鬼も、陸地に上がれば2本足で歩行して4本の腕による連続攻撃を繰り出してくるなかなか厄介な相手だ。
「思ったよりナマモノっぽくねーし、なんかメカっぽいヤツと思えば……ギリセーフかな。で、ナギー、彼方センパイからなんかアドバイスとかねーの? 資料見てたんでしょ?」
「一匹でも二匹同時に相手してると思うッス」
「うん? どゆこと?」
「腕が2倍で攻撃力2倍って考えるんじゃなくて、それぞれの腕がそれぞれ別の鬼だと思って戦うッス。現実の虫も手足を器用に使ってエサをとったりしてるッスからね。ま、こういうのは盾持ちのウチが一番槍を引き受けるからイイ感じに観察しておくッスッ!」
まずは一匹。
鬼が集まる前に先手をとる。
(腕。鉤爪にカマキリみたいなギザギザ。どう見ても水に浮くような造りをしてないッスねぇ。水の妖気で浮いてた感じ? とにかく、アレを正面から盾受けしたら
ゲームでは正面からの攻撃は正面に盾を構えることで防ぐことができる。だがこの世界ではそんな単純な攻防が通用するのは禄存の迷宮まで。
その腕の形状から自然と曲線的な動きで攻撃してくること、それに鉤爪や棘の並んだ外骨格が組み合わさることで盾受けが機能しなくなる。
押される攻撃に耐えるのは簡単だが、引っ張られる動きに対抗するのは難しい。ステータスとしての腕力が高いだけでは力の流れの変化をコントロールすることはできないのだ。
その微妙な違いに3年生は対応できなかった。斬撃耐性で防御力が強化されても武器を絡め取られては戦えないし、斬撃見切りで反応力が強化されても適切な受け方ができなければ意味がない。
ならば無銘凪菜はどうなのか?
この世界を死にゲーの世界として認識している凪菜がスキルに依存することはない。あくまでスキルは“使うもの”として考えている。
ソウルライクの語源となったであろう『デモンズソウル』がロングソード一本でクリアできるように作ったと言われているように、一部の死にゲーは伝説扱いされるような素晴らしい武器に頼らなくても神や悪魔を倒せるよう難易度が調整されている。
兄の彼方の影響もあって、鬼切姫以外にそれらもプレイした凪菜にとってはステータスも装備も加護もスキルも絶対ではない。勇者のために用意された最強の剣など無くても、使い慣れた量産品の鉄の剣があればどんな敵とも戦える。大事なのは
横方向、盾を持つ左手側から襲い来る鉤爪をパリィで弾く。だがカウンターは狙わない、少しぐらい体勢を崩した所で残る3本の鉤爪は容赦なく凪菜の首を狙っている。
だが、半歩下がる程度の隙はできた。剣で受け流したくなる気持ちを我慢して冷静に間合いを調整し、得意とする雷属性のエンチャントを剣に────ではなく、自分自身に使用した。
自分に雷属性の適性があること、そこに雷蛇の加護を得られたことで凪菜は考えた。人体の動きというモノは神経を伝わる電気信号で制御されている的な話を聞いたことがあると。なら、雷属性の霊気を身体の内側に流せばあらゆる能力を強化できるのではないか……と。
「見える……そこぉッ!!」
狙うは腕部の関節。相手が自由に動けるのだから、こちらも自由に戦う権利があって当然。原作では一部のボス鬼だけのギミックであった部位破壊もこの世界ならザコ鬼にだって発生するのだ。これを使わない手は無いというもの。
「なーる。手が多いなら減らせばオッケーって、シンプルでわかりやすくてあーし好みのヤリ方じゃん! ポルポル、ダンスの時間だよッ!」
『『『『れっつぱ〜り〜ッ!!』』』』
うさぎ、しろくま、トナカイなどなど。さまざまな着ぐるみをきた妖精のような姿の神霊フロストポルカが鬼の周囲を氷属性の霊気で満たす。外骨格がどれだけ頑丈だろうと、表面全体が凍り付けば動きは鈍る。
「そんで、彼方センパイからコピーした魔法スキルもせっかくだから使っちゃうよ〜? 忍法・氷牙乱舞の術ッ!!」
オリジナル? の使い手である彼方は、この氷の塊を出現させる魔法スキルを敵の動きを制限する手段として使っていた。高い氷属性の適性と熟練度、フロストポルカの加護を持つ更紗であれば全身を氷の棺に封じることもできた。
だが、あえて更紗は全身ではなく関節の一部分に氷の霊気を集中させる。全身を対象にできるほどの霊力を持つ更紗が一点を集中して狙えば、その凍結効果は外骨格を蝕むほどの威力となる。
「乾坤一擲……砕ッ!!」
気合一閃、三節棍の一撃で鬼の腕が砕け散ったッ!
「むぅ……。鵺、私たちも遅れている場合ではありません。仮にも先輩である私が後輩たちの後ろで傍観していた、などと彼方くんに報告するワケにはいきませんから」
『接近戦ならふたりのほうが先輩だがなァ?』
「煩いですよ、鵺。準備はいいですか」
『応ともよッ!』
棗が前に出る。
そう、前に出るということは……今回も二刀構えでの迷宮攻略である。つまり遠目に見れば巫女3人のパーティーだが、近寄ればその実態は女侍3人のパーティーということ。一応、全員が物理も魔法もどちらも使えるのでバランス自体は悪くない。
(外骨格の表面を水属性のエーテルが流れ落ちている。妖気でもなく、霊気でもなく、水属性そのものを弾く性質の殻? なら、その特性を逆手に取ることも可能……。素材としてドロップしたら優秀な防具素材になりそうですが、その辺りは後で考えることに)
生粋の殴り巫女である後輩ふたりと違い、仮にも名門・暮間家の巫女である棗はエーテルの流れを見る能力に長けている。
鬼の外骨格に水属性を弾く性質があるのなら、自分は霊力を水属性の霊気に変換して防具とすればいい。武器を絡め取られる心配が無くなった棗は4本の腕から繰り出される乱打を二本の刀で丁寧に捌き、一息で距離を詰めて鬼の顎らしき部分を蹴り上げた。
ダメージを与えることが目的ではない。次の一手のために怯ませて動きを鈍らせるための攻撃。かくとうタイプの巫女としてはまだまだ未熟でも、エスパータイプの巫女としては優秀な棗であれば、このわずか一瞬の隙でも核の位置を探し当てることができるのだ!
「────穿てッ!!」
高い投擲スキルの熟練度を活かし、投げ付けた刀を楔として蹴りで押し込み核を貫いたッ!
◆◇◆◇
道中、危うく水に落ちそうになったところを更紗が水面を凍らせることで難を逃れ「その手があったか……ッ!!」と凪菜が感動した以外には特に何事も起きることなく順調に攻略は進む。
「ふたりとも、ストップ」
「凪菜さん?」
「ナギー?」
「来るッス。たぶん、水中から。もしかしたらウチらが中ボス一番乗りかもしれないッスよ?」
ここまで渡ってきた小島と比べて広めの陸地に踏み入れたそのとき。
凪菜の警告に合わせて棗と更紗が身構えるのとほぼ同時。
水中から、巨大な影が飛び出したッ!
「はぁ〜ッ!? ナニッ!? なんなんアレ、空飛ぶトカゲッ!?」
「場所を考慮するならサンショウウオが正しいかもしれないわね……突進、来るわッ!!」
文曲の迷宮、奥の院へと繋がる道の番人……もとい、番魚『大イワナ』がゴリゴリと地面を削りながら3人のいる方向へと突っ込んでくる。
決してスピードは速くないのだが、如何せんその巨体は人間程度なら一撃で圧殺するほどのサイズ。反撃のチャンスになるかと欲張ってギリギリの回避を狙うにはかなりの度胸が要求される。
仮に押し潰されなかったとしても、大イワナはとにかくデカい。ただの体当たりでも質量がある。もしも3人にタンクローリー相手に根性勝負を挑めるぐらいの体重があれば真っ向勝負も挑めたかもしれないが、残念ながら3人とも美少女と言えるほどスタイル抜群なので確実に吹っ飛ばされて池ポチャすることだろう。
「うはぁ。迫力あるッスねぇ。ここは素直にじっくりと相手の動きを観察するところから始めるっていうのはどうッスか?」
「賛成よ。幸いにして動きは鈍いようだから、突進も尻尾にさえ巻き込まれなければ回避も容易。飲み込まれないようにだけ注意して、丁寧に戦えば勝機は充分ね」
「あ〜、いや。なっちゃんセンパイも、ナギーも、大事なコト忘れてんじゃないかな〜って」
「大事なこと?」
「大事なこと?」
「いや、ホラ。あのでっけぇのが通ったあと。地面ごっそり無くなってんじゃん? これさ……時間使って戦ってたら、あーしらの足場がまるっと無くなるんじゃね?」
「…………あ」
「…………あ」
大イワナの動きやエーテルの流れにだけ注目していた棗も、ゲームシステムの記憶から地形が破壊されていることなどまったく気にしていなかった凪菜も、更紗の指摘を受けて改めて大イワナの突進の被害を確認して……言葉を失った。強制タイムアタックの開始である。