タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
物欲センサーとはお友達なので初投稿です。
貪狼、巨門、禄存の迷宮を主人公である朝比奈真白がクリアした。
ゲーム的な都合とこの世界の事情がどの様に辻褄合わせされているのか彼方は知らないし興味ない。最強を目指すSランク冒険者としてお姫様やギルドマスター経由で王様にお呼び出しとかそういうプレイではなく、あくまでただの一般人でしかないからだ。
ついでにクラスメイト以外の学園生からの評価は微妙、親しい友人たちからも更紗と歩いているところを目撃されてメッチャ文句を言われた。それでも紹介しろよ〜とウザ絡みしてきたり下世話なことを言ったりせずに、ちゃんとフォローしてやれよとなる辺りに人柄が現れている。
だからといって攻略を手伝ったりはしてくれない。加護持ちの巫女と一緒に行動するには、同じように加護を獲得していなければ男の子としてのプライド的に辛いからだ。
これが加護持ち侍と加護無し巫女のパターンでも同様である。そんなの関係ねぇッ! と豪語していたカップルが巨門の迷宮らへんを攻略中に破局するのは学園生なら見飽きた光景でしかない。
それでも加護が足りないならば勇気で補えばいいッ! というメンタル強者たちの筆頭である彼方が新たに解放された迷宮を前に尻込みするはずがなく。
学園管理下の残り4つの迷宮、文曲・廉貞・武曲・破軍というそれぞれの攻略対象に対応した迷宮を強くなるため好奇心を満たすためガンドコ突き進む気マンマンだ。
そもそも原作知識を持っている彼方と凪菜はこのあとに襲撃イベント→ラスダンという流れになるかもしれないと知っている。もっと厄介で面倒な戦いが後に控えているのだから、ここで立ち止まるという選択肢を選ぶワケがないのだ。
しかしやる気があるからといって迷宮にブッ込みができるとはならないのがゲームと違い現実の辛いところ。
黄龍の巫女や四神の侍ばかりを特別扱いするのは如何なものか、ここは教育機関なのだからほかの生徒にも平等にチャンスを与えるべきだ。そんな話題で職員会議が白熱すれば、さすがに理事長を含む上層部も簡単に突っ撥ねるワケにはいかなかった。
それでも海千山千の政治的駆け引きを続けてきた妖怪どもである。本命となる真白たちのパーティーのための情報収集として活用してやればいいと、ならばまずは3年生の加護を持つ生徒たちに限定して攻略を認めましょうと言って納得させることにした。
なのでしばらくの間、迷宮攻略はお休みとなった真白たちは。
「炭水化物ッ! 食わずにはいられないッ!!」
「食べたぶんだけ霊気にすればカロリーゼロッ!!」
「はむっ……うん、なるほど……次はこちらを……はぐっ」
商業エリアの中心から少しだけ外れた下町風情が楽しい商店街で欲望のままに買い食いを楽しんでいた。
侍も巫女も一般人より腹が減る。なんならしっかりスケジュールが管理された仕事として迷宮で戦うプロの能力者よりも、自分のペースで迷宮探索をする学生のほうが食事量が多い。
彼方も、真白も、棗も。あちこちのお店で買い込んだ食べ物を飲食コーナーのテーブルにどじゃーんと広げてがっついている。
「こんだけうら若き乙女に囲まれているってのに、色気もなにもあったもんじゃないねぇ」
呆れてます的な雰囲気を出しながらサンドイッチをつまむ雅だが、そんな彼女も牛肉と長ネギの串カツと豚肉と玉ねぎの串カツをそれぞれ10本、あさりの炊き込みご飯のおにぎりを5個、モツ煮込み2杯を完食してからのカツサンドという流れだ。一般人なら成人男性でもギブアップしかねない量である。
この場にいない凪菜と更紗もふたりで仲良くお蕎麦からうどん、そしてラーメンへとハシゴしている真っ最中だ。強くなりたければ喰らえの精神、ここにあり。商店街の皆さんも大食いの若者を見かければ「あぁ、学園のところの侍や巫女の学生さんが来たんだな」と接客も慣れたもの。料理漫画の登場人物の如く次々と注文された料理を仕上げることができるのだ!
(ん。もうちょいなんか……汁物とか食べたいな。ちょっと追加でなんかないか、見てくるとするか)
主人公とライバル、ふたりの美少女に挟まれて正面には美人の先輩がいてもなお色気より食い気の転生者がさらなるカロリーを求めて商店街を歩き始める。健康の不安なく食事を美味しく楽しめる幸せを知る彼方には、最強やハーレムを目指す理由など無いのでしょうがない。
あれもいい、これも美味しそう。
そんな誘惑に惑わされる喜びの中、歩くことしばし。
「よぅ、そこのおニイちゃん。よかったらワシと一緒に一杯やらんか? ここの焼き鳥はンまいぞ〜? いまならウーロン茶もセットで奢っちゃる」
「……えぇと、俺、向こうに連れがいるものでして」
「まぁまぁ、ちょっとぐらいいいじゃねぇの。こんな機会、なかなかないぞぉ? 神霊・黄龍とサシで飲めるなんて機会はな。ん? 異界の魂を持つ者、無銘彼方くんよぅ。ホレ、座れ座れ」
派手なアロハにサングラス。原作で初登場したときほぼそのままの格好で人間界の食事を楽しむ神霊の姿に、転生者として名指しで呼ばれた驚きよりも「この世界でもマジでこういうキャラなんだな……」という呆れに近い感情のまま彼方は招きに応じる。
椅子に座った瞬間に霊気の動きが不自然に途切れた。おそらくはなんらかの効果を持つ結界のようなもの。不快感が無いことから、おそらくは黄龍が会話の内容を周囲に知られないためにわざわざ用意してくれたのだろう。それでも店員さんへの注文の声は届いているので、声を遮断するのではなく認識を歪めるタイプの結界なのかもしれない。
「どれ、乾杯しよう乾杯。お前さんにとっては不名誉な話になるが、才能がありすぎる人間にはワシの神気は強すぎるらしくてな。それが必要な場面があるってのもわかるんだけどさ、ワシとしては気楽にして現地の話を聞きてぇのよ。この気持ち、伝わる?」
「現地の声を聞きたいのなら、せっかくなんですから朝比奈に会ってくださいよ。貴方が巫女として認めて加護を与えたんでしょう? 私の知る原作がどうとかいう話ではなくて、会えないような特別な事情があるとか、そういうことでないなら彼女の戦いに協力して欲しいんですけど」
「お、いいね〜。さすが人生2回目だけあって順応が早い。うん、そうね、確かに真白ちゃんのことは気に掛けてるつもりではあるよ? でもワシのほうから手助けしてやろう、なんて押し掛けるつもりはないワケ。もちろん真白ちゃんがそれを望めば別だがの〜」
「そういうことでしたら……私からはもうなにも言うことはありません。できる範囲で助けになりたいとは思っていますが、知らないところで余計なお世話を焼かれるのも面白くないでしょうし。もちろん、本音としては死にたくないので黄龍様には是非とも真面目に働いて欲しいんですけどね?」
「ヒヒッ、そりゃ〜まことに申し訳ないが期待しないこったな。全ては黄龍の巫女である朝比奈真白の選択次第、ワシが人間の運命に口出しすることはない。そう、
具体的には日本神話の長である神霊・太陽神母『天照』は転生者である彼方のことを知っている。なんなら「転生者ッ! 面白そうッ! 異世界から流れてきた魂なら私が加護を与えてもワンチャンなんとかなるよねッ!」と人間界に遊びに行こうとしたところを神霊・月光神姫『月読』から「お姉様、ステイ」と捩じ切るぐらいの勢いで足首の関節をキメられて神界に女神にあるまじき絶叫を響き渡らせていた。西洋神話に所属する天使たちはともかく、日本神話はだいたいこんな感じなのが鬼切姫の世界である。
「左様で……」
「アッサリしてんのぉ? 前世の原作知識とやらで、この世界の主役になってやる、みたいな気概はないのかね?」
「嫌ですよ、面倒くさい。英雄なんて冗談じゃない」
「正直だな。いいことだ。いつの世も英雄は早死にして悪党ばかりが爺になる。お前さんのような臆病者こそが平和を支えとるんだ、命を無駄遣いしないでくれよ。もったいないからな」
「肝に銘じておきましょう。あくまで可能な範囲で、になってしまいますが。私は臆病者でして、目の前で誰かを見殺しにする罪悪感に耐えられないかもしれませんので」
「そうかそうか。そういうことなら仕方ない。ワシが頑張る若者のためにプレゼントをやろう! ……だからそんなにイヤそうな顔をするんじゃない」
「無茶言わないでください……そこで黄龍の巫女の専用武器を錬成するための素材である『龍玉』を取り出されたら、こんな顔にだってなりますよ」
「その通り。これは歴代の黄龍の巫女にも与えてきた、ワシの神気が込められた錬成素材じゃ。少なくとも人間たちはそのように使ってきた。だが、異界からの転生者であるお前さんなら別の使い道を見つけることができるかもしれん」
「別の使い道、ですか……前世の知識によるスキル構築も、この世界から見れば未知の技術。なら、俺にだってゼロから新しいなにかを生み出すことができないとも限らない……か」
彼方の呟きに黄龍が満足そうに微笑む。
安易に「そんなことができるのか?」と答えを求めるのではなく、簡単に「そんなことできるワケがない」と諦めるのでもなく、可能性を求めて「どうすればそれを成せるか」と前向きに考える。
それは人間の未来は人間の選択に委ねるからこそ意味があり価値があると信じている黄龍が欲していた姿。神霊や精霊の加護とその恩恵により強化されるスキル、それらに頼り切りになってしまったこの世界の人間が忘れつつある姿であった。
「ま、あまり深刻に考えずに楽しみながら考えてくれや。困難に立ち向かうためには肉体的な強さよりも精神的な強さが求められる。頭が固いヤツは苦難さえも正面から受け止めるばかりで回り道ができんからな。さて、色男をあまり引き止め過ぎるのも良くないし、もう行ってもいいぞ〜。ついでに焼き鳥をお土産に持ってけ。大事なことだから繰り返すが、ここの焼き鳥はうンまいぞ〜!」
◆◇◆◇
「……食欲、完璧に売り切れたわ。まさか俺が黄龍と会話することになるとは。しかもお前よう、なに龍玉なんか受け取ってんだよマジでさぁ。これ大丈夫? 紅蓮と静流のイベントはたぶんもう俺が潰しちゃったんじゃないかとは思ってるけどさぁ、風魔と大地にチャンス残ってんのかね?」
人の恋路を邪魔するつもりはない。だが本来ならば結ばれるはずの相手か、もしくは棗と一緒に手に入れるはずの龍玉を渡されてしまった。
どうにか手を尽くして大地か風魔、あるいは棗に譲渡できれば楽になれるだろう。だがそれは転生者というイレギュラーである自分を信用してくれた黄龍を裏切る行為だ。本当に善意で渡してきたのかは怪しいところだが、それでも自分が“新しい使い道”とやらを考えるのが筋というものだろう。
「誰とも結ばれない、友情ルート……いや、アナザールートみたいなものか? なら、ボスクラスの鬼との戦闘がどうなるか……少しは原作知識が役立ってくれると助かるけど、期待しないほうがいいな。高度な柔軟性を保ちつつ、臨機応変に……かぁ」
お願いだからモブキャラにメインストーリーのボスを押し付けるような展開にだけはならないで欲しい。そんなことを考えながら、ラーメンを食べ終えたらしい凪菜と更紗が合流したテーブルへ焼き鳥を持ち帰る。
主人公が知らないところで超重要人物と世界観に触れる会話をして超レア素材を渡されて保有しているとか味方ならかなりの強キャラだし敵なら危険な黒幕でしかないが、彼方の自己評価が変化することは無かった。
黄龍
『転生者は面白かったし、焼き鳥も美味かった。よし、あとで天照を煽りに行こうそうしよう』
世界の理
『龍玉ががががが』