タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 BL要素はないので初投稿です。



自分のことを平凡な普通のジジイとか言うジジイは基本的に平凡でも普通でもない。

「……どうッスか?」

 

「……いい。とても、いい。むふ〜♪ 凪菜ちゃん、ありがとうね!」

 

「へっへっへ。真白先輩に喜んでもらえるなら、ウチとしても嬉しいッスッ! しかしほかの先輩方も太っ腹ッスね〜、妖樹の王のエーテル結晶を真白先輩に譲ってくれるなんて。たいていは侍を優先するんスけどね。経験値のリスク的に苦労させちゃうし」

 

「うん。私も最初はそのつもりだったんだけど、なんかみんな普通に譲ってくれたよ。私がトドメを刺したワケじゃないし、ちょっと申し訳なかったんだけど、あんまり遠慮しても逆に失礼かな〜って」

 

「へー。さすがは四神の加護持ちの侍、行動もイケメンッスねー。ま、ぶっちゃけウチとしては結晶は侍の全取りって学園側でルール作ってもいいぐらいだと思ってるッスけどね。それで真白先輩、どっか手直しとか必要ッスかね?」

 

「そこは実戦で使ってみないとなんとも、かなぁ。でも、きっと大丈夫だよ!」

 

 妖樹の王のエーテル結晶から造られた大太刀『薄緑』を構えてご満悦のヒロイン朝比奈真白。そこで特別なスキルだったり特別な防具やアクセサリーだったり錫杖のパワーアップだったりを選ばないところに彼女のヒロイン力が溢れている。

 そしてこの薄緑、ボス鬼のエーテル結晶を素材とするだけあって特殊な効果もバッチリ付与されている。攻撃をするたびにエーテルを吸収できるようになるのだ。獲得経験値としては微々たるものだが、同時に体力と霊力を微量に回復する効果も得られる。

 

 つまり、今後の戦闘ではよりしぶとく戦うことができるッ! 

 

 より、しぶとく、戦うことができるのだッ! 

 

 

「あ、それとこれは兄貴からの頼まれ物で真白先輩にって」

 

「これは……指輪?」

 

「なかなかレアな素材が使われてるだけあって、この『惜別の指輪』は便利ッスよ。いざというときに体力を復活させてくれる……はずッスから」

 

「おぉ〜、それは頼もしいね! ありがとう、凪菜ちゃん!」

 

「錬成したのはウチですけど、素材を集めたのも真白先輩にプレゼントするって決めたのも兄貴ッスからね。お礼は是非とも兄貴に言ってあげて欲しいッス」

 

 手紙代わりに朱雀が置いていった羽根を有効活用して錬成されたこの惜別の指輪の効果は、瀕死になったときに体力を半分だけ回復してくれるというもの。あくまで瀕死なので体力をゼロまで削られてしまえば効果は発揮されない。

 だがこれはこれで使い道があるものだ。毒などの状態異常による継続ダメージはもちろんのこと、体力減少のリスクがある強化系スキルとも相性が良い。敵の攻撃で瀕死になる→スリップダメージで回復する間も無くゲームオーバーのコンボを防ぐことができるのだから。

 

 つまり、今後の戦闘ではよりしぶとく戦うことができるッ! 

 

 より、しぶとく、戦うことができるのだッ! 

 

 

「彼方くんにはいっつもお世話になってるし、今度なにかお礼でも……ねぇ凪菜ちゃん、彼方くんって甘いモノとか平気かな?」

 

「あ、ウチの兄貴はお菓子とか大好きッスよ? カフェとかでも普通にパフェとか食べるッスから」

 

「そっか〜。じゃあ今度クッキーとか、ちょっとしたお菓子でも作ってみようかな。喜んでもらえるといいなぁ」

 

「兄貴なら確実に喜ぶから大丈夫ッスよッ! …………うん?」

 

 ここで無銘凪菜は思い出す。

 

 本来ならば惜別の指輪は紅蓮との好感度イベントによるもの。その返礼としてお菓子をプレゼントするのだが、実は甘いものはそれほど得意ではないと後から知ることになる。そこからさらに今度は違う形でお礼をしたいから……と、紅蓮ルートのイベントが進むのだ。

 

 だが、指輪をプレゼントしたのは兄の彼方。

 

 そして真白はそのお礼にクッキーを焼くという。

 

 そこから導き出される結論とは。

 

(なるほど、なるほど……これはつまり、モブキャラ転生者の兄貴にもお菓子を作ってくれるっていうことは、それだけお菓子作りが好きってことッスねッ! 公式からの供給、助かるタスカル……まてまて、冷静に考えろ凪菜……コレは、もしかしなくとも、間違いなくッ! 一緒にお菓子作りを楽しむチャンス到来ッスッ!! 好きなゲームのキャラクターと一緒にクッキー焼く? 焼いちゃう? 究極の推し活ここにありィィィィッ!! あ、でもクッキーばっかり食わされたら兄貴もキツいだろうから、ウチはどら焼きでも作るッスかねぇ〜)

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「磯辺焼きってスゴいよな。最後までモチたっぷりだもん」

 

「お前はなにを言っているんだ。だが、磯辺焼きが美味いことにはオレも同意しよう。餅と、醤油と、海苔だけのシンプルな料理だが、いくらでも食える気がする」

 

「そもそもお餅ってご馳走感あるよね。正月とかもそうだけど、イベントっていうか、昔からある行事ではだいたいお餅が主役みたいなところあるし」

 

「増永の家でも神霊のための祭事で、オレも毎年餅つきをするぞ。もち米を用意するところから増永に関わる侍たち全員で始めてな。ちからもち、と言葉遊びの願掛けだとおばあちゃんが言っていた」

 

「へ〜。いいな、それ。地域で楽しむ伝統行事ってヤツだろ? アイドルとかのライブよりもずっと面白そうだな、俺的には。…………なぁ、付き合い、長いんだろ? なんか言ってやれよ」

 

「…………仕方ない。おい、静流。いい加減にだな、その、アレだ。見ての通り彼方はなにも気にしていないのに、お前がいつまでも落ち込んでいてどうする。……そうなる気持ちもわからなくはないが」

 

 

「はい……申し訳ありません……」

 

 

 Q,玄武の家系に認められた職人たちが、加護すら持たない一般の侍を連れてこられたときの反応は? 

 

 A,加護すら持たないクセにここの武器使うとかwww味噌汁で顔洗って出直してこいやwww

 

 

 もちろんここまで露骨な態度ではない。だが良かれと思って招待したのに歓迎されていないことはすぐに気が付いた。このまま居座れば静流の立場が悪くなると判断した彼方は、職人たちと衝突してしまうより先にさっさと外に出てこうしてお茶屋さんで一服することにしたのだ。

 落ち込んでいる静流には悪いが、正直なところ原作知識を持つ彼方にしてみれば想定通りの流れでしかない。正式に黄龍の巫女として認められている真白のときでさえ、ならばその実力が本物であること証明してみろとレア素材のお使いイベントが始まるのだ。そりゃあなんの実績もない若造に武器なんか作ってくれるはずがないだろう。善人の努力家だけに、静流はその辺りの想定が甘いのかもしれない。

 

 だが自尊心も用法と用量を正しく守ればプロ意識にもなる。彼らとてボランティアではなく仕事で武器を作っているのだ、学生相手に甘い対応をしてほかの客に舐められるようなことになれば面倒なことになるかもしれない。職人仕事を安く買い叩かれたのでは生活が成り立たないことを社会人経験者の彼方は想像できるのだ。

 

 

 これでイベントは終了だな。気持ちが完全に帰宅モードに切り替わった彼方は呑気に追加の白玉あんみつを食べている。

 だが無銘彼方は冥界童女のお気に入り、悪しき縁と遭遇したならば善き縁との巡り合いがやってくる。もちろん本人の意思なんて関係あるワケがない。

 

 

「おや、静流じゃないか。なにやら纏う気配がいつもより沈んでいる様子じゃが……何事かあったかね?」

 

「東風先生! ご無沙汰しております」

 

「うむ。久しいな。息災なようでなにより、とはならなかったのが残念だが。そっちは増永のボウヤのところの紅蓮と……はじめまして、じゃの。儂は東風三郎太(こち さぶろうた)という、まぁ……ちぃとばかし金物の扱いを生業としとるジジイじゃ。よろしくの」

 

「あ、はい……無銘彼方と申します。どうも……」

 

 これだけ意味深に登場する年寄りがタダの通行人なはずがなかった。個別ルートでは真白と攻略対象の、誰とも結ばれない友情ルートでは真白と棗の最強武器を作ってくれる超重要人物である。

 実はとっても高名な武器職人なのだという説明を静流と紅蓮のふたりから聞かされつつ、当たり前のように彼方は三郎太の工房まで連行された。どうして自分が……などと思う反面でワクワクしてしまうのが男の子というしょーもない生き物なのだ。

 

 そんで。

 

「そうか、そうか。武器をなぁ。うん、そういうことであれば儂が引き受けてやるとしよう。若者に戦わせておきながら、こうして畳の上で暮らしているのじゃ。それぐらいはしてやらねばジジイとしての面目が立たんというものよ。カッカッカッ!」

 

「東風先生、本当によろしいのですか? いえ、彼方さんのための仕事であれば私が口出しするようなことではありませんが……元はと言えば私の不手際によるものですし、それで先生にご迷惑をお掛けするのは……」

 

「かまわん、かまわんよ。まったく、静流は相変わらず真面目が過ぎるんじゃよ。それに、儂にもいろいろと都合があるからこそ武器の錬成を引き受けようと提案しておる。使わぬ技術は簡単に錆びつくからのぉ〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その都合というのは、現世での鬼との戦闘に備えることですか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「彼方……?」

「彼方さん……?」

 

「ほぅ。彼方とやら、何故そのように受け取った?」

 

「人間が鬼の領域に踏み込めるのだから、鬼もまた人間の領域に踏み込めるようでなければ道理に合わないと考えます」

 

「ふむ。続けなさい」

 

「巨門の迷宮で難易度に見合わない鬼に襲われました。それの名は鵺が知っていたとのことでしたが、学園の管理下にある迷宮の鬼を、義塾に所属する巫女の守護神霊が把握しているのもおかしな話でしょう」

 

「しかし、それを疑問に思ったところで儂の用向きがそうだと判断する材料にはならんじゃろう?」

 

「はい。なので賭けました。静流の説明を聞いて、東風先生のお立場やお役目を考えれば、一般には秘匿されている事情に触れる機会もあるだろうと。ご興味を持っていただけてなによりです、友人たちに道化扱いされずに済みましたから」

 

「賭けッ! そうきたかッ! カッカッカッ!! 静流、お前なかなか面白いヤツを友人に選んだのぉ〜ッ!!」

 

 大笑いする三郎太を見てようやく彼方の緊張が少しだけ解けた。賭けなどというのは大嘘であり、三郎太の性格を知っていることも含めての消化試合でしかなかったが、いざ実行してみると心臓の鼓動が煩く感じるほどハラハラしっぱなしであった。

 原作では鬼たちの現世襲撃に対して増永、望国、目白、喜多の4家全てが後手となった。情報として知ってはいたが、迷宮攻略が順調に進んでいることから万が一が起きても大丈夫だと慢心したのだ。当然、攻略対象の4人も襲撃による犠牲者が出てからそれを聞かされることになる。

 

 大人の都合と思春期男子がぶつかれば、それはもう拗れに拗れるのは避けられない。だからここでネタバレができたのは彼方としても僥倖というもの。襲撃そのものを防ぐことはできなくても、被害を減らすことはできるかもしれない。

 その代わりに大人たちの心労は増えることになるが、それは彼方の知ったことではない。大人なら自分の役目に対して責任取れ、人の命が掛かっているのだから尚更だと言いたいぐらいだ。そもそも自分たちが迷宮を攻略してるワケでもないのに油断してんじゃねぇよ、となる。

 

 ひとつの大きな戦闘に、これで多少は有利を取れる。いまのところ1番の懸念材料について知識チート系転生者としての役目を果たせたと彼方も満足である。

 あとは四神の加護を持つ自分たちでさえ知らなかった事実に自力で辿り着いた男となってしまった彼方が、三郎太とのやり取りの間ずっと沈黙していた紅蓮と静流にどう見えるのかまで想像できていれば完璧だったことだろう。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

『静流。大丈夫か? 今日はなんとも心労が重なるような出来事が続いたからな。あまり無理をするなよ』

 

「大丈夫ですよ、玄武。疲れというよりも、驚きのほうが強いですから。それで、彼方さんが言っていたことは、やはり玄武も知っていたのですか?」

 

『あぁ。余計な混乱を避けるために黙っていた。仮に喜多の家の者が教えなかったとしても、頃合いを見て私が静流に教えるつもりでいたのだがな。まさか自力でそこにたどり着く者が現れるとは』

 

 彼方の説明を認めた三郎太から、後日改めて話をするから今日のところは帰るようにと提案された。

 静流としてはその場で詳しい話を聞きたかったが、風魔と大地にも教える必要があると言われては素直に引き下がるしかない。

 

 それならせめて、と。相棒である玄武に聞いてみればその通りだと肯定される。タチの悪い冗談でもなく、悪趣味なイタズラでもなく、鬼による現世への襲撃は起きる可能性があるのだ。

 

「私は鬼が迷宮から出てくるなど、想像したこともありませんでした。ですが、彼方さんは違ったのですね。黄龍の巫女である朝比奈さんが信頼するのも納得です。……そういえば玄武、あなたも彼方さんに対してはわりと好意的でしたね? 喜多の職人たちを紹介したいと話したときも反対しませんでしたし」

 

『あの男はそれなりに信用できると感じていたからな』

 

 冥界童女に取り憑かれているぐらいならば、本人の人間性は問題ないだろう。本人の人間性は。神霊のほうは論外だ。

 

「そうでしたか。しかし……この話を大地さんにどのように伝えたものでしょうか? 東風先生は無闇に広めることはならないと仰っていましたが、大地さんの性格的に考えると……誰かが危険な目に遭うかもしれないのに、なぜ黙っているのだと怒りそうな気もしますね……」

 

『そこは丁寧に説得するしかあるまい。白虎もそのことは承知しているはずだ、そう悪いことにはならんさ。それ、噂をすればなんとやらだ。教えるなら間を置かずに教えたほうがスッキリするぞ?』

 

 

「お、静流じゃねェか! 用事はちゃんと終わったのか?」

 

「え、えぇ、まぁ。そういう大地さんは今日もトレーニングに励んでおられたんですね。纏う霊気がとても……おや? なんだかいつもよりも力強い波動のように感じますね。なにか特別な修行方法でも試したんですか?」

 

「いや、別にいつも通りだぜ? トレーニングってのは日々の積み重ねが大事なんだからよォ、新しいやり方を見つけたからって急にメニューを変えるってのはなァ。下手すりゃせっかくの筋肉を痛めて、逆に朝比奈の足を引っ張ることになっちまうだろ?」

 

「そうですね……禄存の迷宮を攻略したことで、新たな迷宮へ挑戦できるようになりましたからね。このタイミングで怪我や病気で探索に参加できない、などということになれば私も玄武の侍としての立場がありませんね」

 

「そうそう! 朝比奈のヤツも次の迷宮攻略のために錬金工房でなにかやってたみてェだし、オレたちもいつ朝比奈に呼ばれてもいいようコンディションを万全にしておかねェとな!」

 

「そうですか、朝比奈さんも錬金工房で────うん?」

 

「どうした?」

 

「あ、いえ。その……なんというか」

 

 

 朝比奈さんを名指しで呼ぶ率、高くないですか? 

 

 

「なんだよ、言いたいことがあるならハッキリ言えって。別にオレに対する文句だとしても怒りゃしねェって。お前がそういうコトを言うときってのは、ほぼ確実にオレがなんかやらかしてるときだからよ!」

 

「あー、別にそういうことでは……。ちなみにですが、大地さん」

 

「なんだ?」

 

「もしも禄存の迷宮で戦った妖樹の王のように、多勢に無勢の状態になったとき、大地さんならなにを最優先に考えて動きますか?」

 

「そりゃ、もちろん()()()()()()を1番に動くだろ? なんでそんな当たり前のことをお前がオレに聞いてンだよ、普通は逆だろ、逆!」

 

「あ、はい。そうですね」

 

 

 仲間を守る……では、ないんですねぇ。

 

 

「あぁ、お時間を取らせてしまい申し訳ありません。実は東風先生から私たち四神の侍に話したいことがある、ということでしたので。詳しい日程などは後ほど話し合いましょう」

 

「ふ〜ん? あのジイさんからの用事かァ。なんか新しい武器でも錬成してくれンのかねェ? それの素材集めとかなら喜んで引き受けるけどよォ、武器の扱いについて説教とかだったら勘弁だぜ。っと、じゃあまたあとでな!」

 

 

 

 

 

 

「玄武。私の気の所為でなければ」

 

『良いのではないか? 命短し、人よ恋せよ。まだまだ無自覚の、小学生並みの春のようだがな』

 

「あの大地さんが、ですかぁ……」




玄武
『聡いからこそ無銘彼方は取り憑かれたのか、それとも取り憑かれたから聡いのか。静流の友人としては頼もしくはあるが』

冥界童女
『なにもしなくても推しの活躍の場が勝手に増えるッ! いいぞぉ〜これぇ〜』

玄武
『付属品が問題だらけで素直に喜べんな……』
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