タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
四人だと思ったら五人だったりするので初投稿です。
(加護持ちの3年生を中心に、禄存の迷宮を攻略したという話題が増えてきた……)
(加護を持たない連中は火力不足か、そもそも妖花の乳母を突破できずにいるようだが……それでも、攻略法が広まったことで以前ほどの諦めに満ちた空気は無い……)
(違いは黄龍の巫女と四神の侍が活躍したという程度……旗印としての役目とはこういうものか……情報としては聞かされていたが、それでもかつてのオレのままだったらどう感じていただろうか……)
ピコンッ♪
「……ヤツからのメッセージか」
『これから4人で妖樹の王を倒しにいってくる。加護無しの俺を含めた4人でいってくる。ところでこのへんにぃ〜、ボス鬼を倒すために加護持ち6人がかりで乗り込んだパーティーいるらしいっすよwww』
「…………」
スッ……スススッ……ピッ
◆◇◆◇
ピコンッ♪
「お、返信きたか。どれどれ」
『ボロ負けしたとしても泣き言ぐらいなら聞いてやる。ところでオレたちは1回目の挑戦で全員生存で突破したが?』
「……はは」
「兄貴、どうしたッスか?」
「別に、ただなんてことはない普通ってヤツを楽しんでいるだけだよ。さて、そんなことより攻略だよ攻略。えー、今回はですね。なんと義塾のほうからとても頼りになる素敵なゲストにお越しいただいております」
「わー、パチパチ〜♪」
「まずはこの方、鵺の加護を持つ巫女の暮間棗さんです。えー、暮間さんはですね、妖樹の王との戦闘は経験済みということでして、今回の挑戦でも活躍が期待できると思います。本日はよろしくお願いしますね」
「え、あ、ハイ。よろしく……おねがい、します?」
「そんな巫女としての活躍が期待されるはずの暮間さんの装備は、我が妹の趣味で黒系統の色で染められた“若武者の中鎧”シリーズとなっています。そこに風と雷の使い分けを意識した二刀流の刀がとてもよいアクセントになっていますね! スキル習得に協力した俺が言うのもなんですが、どうしてこうなるまで放っておいたんですか?」
『誰かさんの戦いぶりに影響されたからだよ。棗がそれを望むなら己もそうするまでだ』
「えー、そしてもうひとり。神霊フロストポルカの加護を持つ祁答院更紗さんです。まだ1年生ですが義塾でもけっこう攻略を進めていたということで、短期間で貪狼と巨門を突破できたその実力は本物でしょう」
「うぇい! 彼方センパイ、協力ありあした! 義塾の男子と組んだときより百倍は戦いやすかったっしょ!」
「そんな祁答院さんの得意武器は三節棍ということでですね、その服装も、えー、チャイナドレスと拳法着を組み合わせたかのような上に……うん、無双初期の趙雲みたいな鎧ですね。えぇ、いかにもスピードタイプの戦士って感じで整っていますね。だれかこの格好を見てこう、疑問に思ったりとかはしなかったんでしょうか」
『『『『しなかったねー』』』』
「えー、ちなみに雅先輩は進学の準備でね、大学のオープンキャンパスに行ってるので攻略はお休みです。しかしどっかの大太刀ブンブン丸からお誘いを受けているので後日改めてボスに挑むことになります。以上、確認終わり! ……え、これ俺が補助スキル係やんの? 侍なのに? 巫女3人の後ろで錫杖シャンシャン鳴らしてろってか?」
「仲間が戦いやすいように臨機応変に対応してくれる、ウチにとっても自慢の兄貴でなによりッス! いやぁ〜、クラスの男子はみんな
「意地ってもんがあるんだよ、男の子には。ま……いいや。火力不足を嘆くよりはマシだと考えよう」
「そういえばマイブラザー」
「どうしたマイシスター」
「増永先輩が倒れたときに朱雀が実体化したじゃないッスか。アレの影響で神霊や精霊が見えるようになったりとかしてないんスか? ホラ、声とかも聞いたって」
「ならないねぇ。正直、気配もわからん。そもそも神霊側が姿を見せてもいいと思ったとしても、受け手にそれだけの力がないとダメってルールあるし。それを破れる朱雀がスゴいってだけじゃね?」
「鵺、その辺りについてはどうなんですか?」
『場が整っていれば問題ない。姿を見せて人間たちを奮い立たせるのも己たちの役目だからな。ただ、この場で小僧に声が聞こえるよう限界まで霊力を絞ったとすりゃあ……そのまま数年は封印状態になっちまうな』
◆◇◆◇
「妖木の奴隷、妖木の戦士まではガン攻めで。最初は向こうの攻撃力も低い、多少のダメージなら俺が問題なく治す。仕留め損なっても後ろは気にせず数を減らすこと。……よぉし、始めるぞ〜。パワー・エクステンションッ!!」
本来ならば最前線に立つべき侍の彼方がシャランと錫杖を鳴らして補助スキルを発動する。初手の妖木の奴隷はゲームでも通常攻撃で蹴散らせる程度の耐久性しかなかったことから、攻撃力を上昇させて巫女たちの霊気を温存する作戦である。
接近戦に慣れている凪菜と更紗はもちろんのこと、棗の刀も彼方の二刀熟練度の影響もあって、道中のザコ相手に充分成長している。シンプルな斬撃系のスキルはもちろんのこと、自前で高い適性を持つ風属性や雷属性の攻撃もいくつか覚えたので第一段階で苦戦する要素はない。
第二段階、妖木の戦士。ここから鬼の武器がまともな見た目に変化する。斧や棍棒を中心とした威力重視の装備は数の暴力と相まって、まだ余裕があるだろうと油断したプレイヤーを囲んで棒で叩く戦法で黙らせる。
ただし、攻撃力が高めに設定されているぶん、防御力を低めに設定してバランス調整をされていたので。
「鵺ッ! いきますよッ!」
『任せろッ!』
「風よ集え……二刀ッ! 烈風剣ッ!!」
棗が舞うように刀を振るい、放たれた風の刃が軽装の鬼たちを次々に切り刻むッ!
「よ〜し、ウチらも張り切ってやるッスッ! 雷蛇ッ!」
『はーい』
「本命はそのうち、いまは……ライデイン・ストラッシュッ!!」
凪菜が雷を纏った直剣で正面を薙ぎ払い、複数の鬼たちをまとめて斬り捨てるッ!
「なっちゃん先輩とナギがガンバってくれてるし、あーしは残りをチマチマ片付けっか〜。ポルポルッ!」
『『『『あいあいさー』』』』
「せーの……氷エンチャで普通に殴〜るッ!」
更紗が討ち漏らしの鬼を三節棍でブン殴るッ!
第三段階、妖木の兵士。
ここからは彼方も戦闘に参加する。4体の兵士のうち3体のターゲットを彼方が引き受け、まずは3人がかりで一体を潰す。敵の装備は斧槍に西洋甲冑とかなりまともになっているので、下手に分散するよりも火力を集中して数を減らす作戦だ。
もちろんなんの勝算も無しに無茶を引き受けたのではない。斧と槍、両方の特性を持つ斧槍は攻撃属性も刺突、斬撃、打撃を複合している。なので防御系スキルもそれぞれを取得していなければ充分な効果を発揮しないが、どれかひとつの属性が防御できるならダメージを軽減できるということでもある。
転生してからスキル集めの計画を練っていた彼方がそこを間違えるはずもない。刺突と打撃の防御や見切りもしっかり集めているし、斬撃に関しては説明するまでもないだろう。
だが、準備を整えても楽勝とはならないのが死にゲーというもの。
(動きは単調だけど、囲まれると普通に厳しいな。威圧感で目測がバグる気がする。いくらスキルでダメージを減らせるからといって、連続で畳み掛けられたら普通に死ねるな。いや、逆に考えるか? 多少の被弾はどうにかなるんだから、ここは回避に振り切るためにも)
惑わされるなら、頼らなければよい。
あえて視覚を封じることで、彼方はスキルの反応と妖気の流れだけで兵士たちの斧槍を捌き始めた。即死でなければ実質無傷みたいなものと割り切って、器用に両手の曲刀で3方向からの攻撃を受け流す。
ゲームではローリングならローリング、ステップならステップと決まった動きしかできなかった。しかし異世界転生ならば回避行動も自由自在。相手の動きが鈍いこともあって、最小限の動きでスタミナを温存しながら時間を稼ぐ。
「無銘くんッ! 1体、引き受けますッ!」
「助かるッ! 暮間さんッ!」
さっそく1体倒したか。やはり集中攻撃さえできればここも余裕。本音としてはそこまでピンチではないので凪菜と更紗と一緒に2体目を倒して欲しいのだが、良かれと思っての行動にケチを付けるようなことはしない。あくまで彼方はエンジョイ勢を自称しているのだから。
第四段階、妖木の騎士。
人間ならば特大剣カテゴリーに分類されるだろう巨大な剣と、頑丈な大盾を軽々と片手で構える重装の騎士。なぜここだけ洋風なのかは謎である。きっとボス戦を飽きずにプレイできるようにとスタッフが味変ぐらいの感覚でデザインしてくれたのだろう。
タフな相手ではあるが、最初からふたりがかりで戦えるので立ち回りでは楽な部類だ。しかし時間をかければ王との戦いで乳母を呼ばれるリスクが高まるし、短期決戦を狙えば消耗が増える。幸いにしてこちらのメンバーは彼方以外が神霊の加護を持っているため、火力不足ということにはならない。
前世の知識を含め防御で有利に立てる彼方と凪菜が攻撃を引き受け、棗と更紗が後ろから殴るだけの餅つき作業で楽勝なのだ。
本命、妖樹の王。
いよいよここからが本番というところで、想定外の異変が起きる。
「兄貴ッ! 妖花の乳母がッ!」
「初手から召喚、それも2体同時に……ね」
「そんな……ッ!? 私たちのときはもちろん、ほかの方たちからの報告でもそんな話は……ッ!!」
「え、え? ちょっちヤバい流れじゃない? 彼方センパイ、これどーすんのッ!?」
「慌てるな。時間切れが早まったみたいなもんだよ。いやまぁ、早まるってレベルじゃないけど。乳母は凪菜と祁答院で、王の討伐は俺と暮間さんで。冷静さだけ失わないようにね。────行くぞ」
考える。
どうしてこうなった?
(これを偶然としないで、人間にとって都合の悪いパターンはなんだ? 鬼側に学習能力があったとして、どういう条件で乳母を召喚した? ほかのパーティーではこんな話は無かった、違いがあるとすれば……暮間か。2度目の挑戦者。うーん、原作の2周目でももう少し手加減してくれていたはずなんだがな〜)
ストーリー上で戦う明確に性格付けのされた鬼ならばともかく、迷宮のボスが人間のことを学習している。少なくともこれが人間にとって良い話ではないことは確か。
これが迷宮の中だけで完結してくれるのであれば気にすることもなかった。しかし迷宮から鬼が現世に攻め込んでくる可能性を知る彼方と凪菜にしてみれば全く笑えない。
(マジでどこかでネタバレしないと危ないなコレ。どうにか自然に、だけどそのチャンスを待つしかない……ってのはキツいな。精神的に。ここで妖樹の王を倒せればチャンスも増えるだろうが。そのためにも、まずはコイツに集中だなッ!)
乳母の存在は懸念材料ではあったが、ソロでの攻略ではなくチームでの攻略ならばそこまで致命的とはならない。
凪菜と更紗を信じ、棗の火力を頼りに、自分はとにかく囮として王の前で道化の如く踊るべし。彼方には最後の一撃を自分が決めたい、なんて欲求は存在しない。みんなで戦ってみんなで勝つ。それのなにが問題だと?
王の攻撃は剣の両手持ち。やはり囮役の彼方にとって苦戦する要素はない。もしもソロで戦うのであれば火力不足で半泣きになりながら殴り続けることになったかもしれないが、いま、自分の後ろには破壊力に特化した雷撃の使い手がいるのだから不安などない。
妖樹の王の大振りをギリギリまで引き付け、一気に距離を詰めてからタンッ! と相手の胸元を蹴り飛ばして宙に舞う。
「暮間さんッ!!」
「一ノ太刀、遠雷ッ!!」
細かいコントロールは、必要ない。破壊エネルギーの塊である雷撃を纏う両手の刀で渾身の斬撃を叩き込むのみッ!!
「二ノ太刀、疾雷────三ノ太刀、渦雷ッ!!」
本来は居合構えからの連撃なのだが気にしないッ! アッサリとアレンジして自分のものにするとか、ガチの天才は本当にスゲェやと感心するのみッ!!
自分が切り札として頼りにされていること、近接戦闘で迷宮の主に挑んでいるという事実がもたらす昂揚感。それらふたつの感情が混ざり合い、棗は鵺の雷撃が秘めたポテンシャルを存分に引き出していた。
ついに妖樹の王が倒れる……が、最後の悪あがきとして一太刀を返さんと棗に襲いかかる。これがギャルゲーの世界であれば、転生者である彼方が華麗に棗を助ける場面だったかもしれない。だがこの世界は乙女ゲー、強い女はいくらでもいる。まして、棗は妖樹の王との戦闘を勝利という形で経験しているのだから。
カチリ、と。力の流れに逆らうことなく刀で受け流す。
「終ノ太刀、死雷────」
王の首は、静かに落とされた。
◆◇◆◇
勝利の余韻も、鬼の学習能力という危険性に上書きされてしまえば素直に喜べない。もちろん棗や更紗の前ではそのような態度は見せなかったが、まずは冷静になる時間が必要だと今日も裏山に瞑想するためやってきた彼方だったが。
「こんばんは。禄存の迷宮の攻略、おめでとうございます」
「……喜多、さん?」
「静流と呼び捨てにしていただいて結構ですよ、無銘さん」
「そうかい。そっちも俺を名前で呼び捨てにできるならそれでもいいぞ?」
「うーん、そこは彼方さん呼びでどうにかならないでしょうか?」
「お前さんの用事が面白かったらそれでもいいよ」
「そうきましたか。ふふっ、紅蓮さんからは愉快なお方だと教えていただきましたが、本当にその通りでしたね。わかりました、では早速ですが私からの要件をお伝えしましょう。実は、喜多の家では贔屓にしている武器職人が大勢いまして、もしよければ彼方さんを工房へご招待したいと思い声をかけた次第です」
「………………は?」
彼方が困惑するのも無理はない。何故ならこの流れには心当たりがある。真白と静流の好感度で発生するイベントに、新しい武器を見繕うためにふたりで出かけるというものがあるからだ。
しかし、静流にしてみればコレはそこまで不思議な流れではない。真白の近接戦闘をせいぜい万が一のときの護身程度の嗜みだと思っている静流には、巫女としての姿しか知らない相手を武器工房に誘う理由がない。
だが、彼方を誘う理由ならある。真白の友人であり、黄龍の巫女が信用している侍の無銘彼方であれば、今後の迷宮攻略のために協力できることもあるだろう。なら、友好の証として武器のひとつでもプレゼントしてみるのはどうだろう? 喜んでくれるとは限らないが、それでも無駄にはならないはず……と。
「如何でしょう? 学園の錬金工房とは違う本物の職人の業は見ているだけでも楽しめますし、もしも彼方さんさえよければ……えーと、私の懐事情ではなんでもとは言えませんが、お気に召したものがあればお力になれると思います」
「う、うーん……。武器工房の見学は、まぁ、興味あるけど……」
「もちろん無理強いはしませんよ。あぁ、でも、せっかくなので連絡先を交換してもよろしいですか? もしも気が変わったときは、いつでもご連絡をお待ちしています」
月明かりの中で微笑む美少年が立ち去る。乙女ゲーらしい実に絵になる光景だが、まさか主人公のためのイベントを横取りする形になってしまうとは夢にも思っていなかった彼方にそんなものを楽しむ余裕などない。
ちなみに連絡先は静流に押し切られる形で交換している。やや癖のあるイケメンたちと問題なくコミュニケーションを取り続け良好な関係を続けてきた男の強かさは伊達ではなかった。