タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 これはギャルゲーではないので初投稿です。



乙女ゲーに男同士の友情を求めるのは間違っているのだろうか。

 禄存の迷宮を支配するボス鬼・妖樹の王。

 

 その本体と戦うためには2体の『騎士』を倒す必要があり、その騎士と戦うためには4体の『兵士』を倒す必要があり、その兵士と戦うためには8体の『戦士』を倒す必要があり、その戦士と戦うためには16体の『奴隷』を倒す必要がある。

 

 そしてやっとの思いで王までたどり着いても、今度は討伐に時間をかけ過ぎると中ボスとして戦った妖花の乳母まで参戦してくる。

 さすがに能力値は控え目になっているものの、序盤のラッシュで激しく消耗していれば苦戦は免れない。かといって慎重に戦えば妖樹の王が動くのと同時に出現することになるかもしれない。

 

 プレイヤーの育成方針と判断力、そしてメンバー編成次第で難易度が大きく変わるラッシュ型のボス戦。勝ち筋が見えないほど大苦戦することもあれば、拍子抜けするほどアッサリと終わることもある。

 

 

「こっちの前衛は増永くん望国くん目白くんの3人。喜多くんは弓を使った後方支援になるから……私と棗ちゃんは味方の強化に専念する形でいいかな。資料で読んだだけだとそれぞれの強さがイマイチわからないけど、時間制限があるなら短期決戦を狙うのは正解だよね!」

 

 是非ともボス鬼の討伐に役立ててくれたまえ、とわざわざ学園長が直々に渡してきたデータを見て真白が出した結論はシンプルに火力で押し切ることであった。

 残念なことに未だに自分には黄龍の姿が見えないが、それでも朱雀・青龍・白虎・玄武という神霊の中でも有名どころが揃い踏みしているのだ。そこに鵺の巫女まで加わっていて様子見に徹するのは慎重ではなくただの臆病でしかない。

 

 もちろん愛用の大太刀と大斧を担いて突撃してみたいという欲求はある。むしろ黄龍の巫女としての役目を果たした後は、彼方たちの攻略に前衛として参加する気マンマンである。

 だが蜂眼坊という迷宮の鬼とは明らかに格が違う鬼との出会いが真白の中にとある疑念を産んだ。あのときは彼方の戦い方に感心して素直に引いてくれたが、もしそうでなければどうなっていたか? 

 

 単純な話である。なにも考えずただ前に出るだけの戦い方をする鬼もいれば、しっかり自分の間合いをキープして戦う鬼もいる。単独で暴れるだけの鬼もいれば、群れで連携してくる鬼もいる。なら、性格の良い鬼もいれば()()()()()()もいると考えるのが普通。

 そういう鬼と戦うことになったとき、黄龍の巫女としての能力を活かし切ることが戦力の決定的な差になるかもしれない。戦いの後遺症で肉体は無事でも精神がボロボロになって再起不能になる侍や巫女がいるというのなら、自分が使える手札はひとつでも多いほうがいい。あらゆる属性に適性を持つのが黄龍の巫女なのだ、生き残るために飛んでん跳ねでんなんでんすっどの心構えは必須だろう。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「棗ちゃん、準備オッケー?」

 

「えぇ、もちろんです」

 

 

 禄存の迷宮・最深部。妖樹の王が待ち受けるボス部屋に侵入するとほぼ同時に妖木の奴隷たちが地面から生えてくるのを確認した真白と棗が横笛を取り出して音属性スキル『風雷の唄』を発動する。

 ゲームではフィールド全体に、この世界では笛の音色が聞こえる範囲の人間に攻撃速度上昇と回避能力強化、そして見切り系スキルの熟練度を一段階上昇させる効果を与えてくれる集団戦向きの補助スキルである。

 

 指の動きは練習を重ねてスキルとして修得してしまえば勝手に動いてくれるし、あくまでスキルなので必要なのは肺活量ではなく内包できる霊気の量となる。それでも効果を維持するためには集中力を要求されるのでボスとの戦闘にはとても参加できない。それどころかザコ鬼の攻撃すら避けることはできないだろう。 

 

「いよっしゃぁッ!! これならどんな鬼が相手だろうと負ける気がしねぇぜッ!! まずはコイツらをさっさと片付けて……」

 

「待て、大地」

 

「お?」

 

「朱雀よ、我が意志に応えよ」

 

『応ッ!』

 

「巫女に仇なす者を悉く焼き尽くせッ! 守護方陣・封炎結界ッ!!」

 

 スキルを奏でることに集中する真白と棗、そして護衛の静流を取り囲むように炎が揺らめく。

 巫女を守るためにスキルを発動したのはわかる。だがそれを実行したのが紅蓮だという事実に、大地と風魔、そして静流すらも驚いていた。

 

「紅蓮、おまえ」

 

「朱雀の加護を使いこなすためには、いつまでも攻撃一辺倒とはいかないだろう」

 

「なるほど。噂になっていた朱雀の新しい力とはこのことでしたか」

 

「…………そうだ」

 

 いっそのこと真実を、せめて仲間だけにでも伝えたい。

 

 朱雀の加護を持ちながら、自分はただの侍と侮っていた無銘彼方に負けたのだと告白して楽になりたい。

 

 だが紅蓮のプライドがそれを許さない。死人に口無し、自分が楽になるために彼方の名を使うなどそれこそ……認められるかと散々に騒いだ卑怯なやり方だ。

 この屈辱を払拭するためにはもう一度あの男と戦い、ヤツの戦い方を正面から打ち破るしかない。無銘彼方が勝利のために手段を選ばないことを是とするならば、増永紅蓮はその全てを正々堂々と斬り捨てることを是とするまで。

 

「結界による足止めが機能すれば、朝比奈と暮間に近寄ろうとする鬼は静流が全て撃ち抜いてくれる。本番は後の段階に進んでからだ。まずは速攻でザコを潰す」

 

 

「……紅蓮のヤツ、変わったな」

 

「えぇ。それも良い方向に。切っ掛けとなったのは上位の鬼の存在を知らされたこともあるでしょうが、それ以上に」

 

 

 大地と風魔が振り返れば、そこには朱雀の焔が揺らめく中で美しい音色を奏でる黄龍の巫女がいる。

 

 足並みを揃えることが難しいからと同じ四神の侍だけで迷宮を攻略してきたが、真白の各種スキルによるサポートを受けることで禄存の迷宮の主までたどり着くことができた。自分たちと同じように、紅蓮も巫女と共に鬼と戦うことの重要性を無視することなどできなくなったのだ。……と、風魔と大地は想像した。

 もちろん、いきなり素人のサポートで戦えるかと問われれば紅蓮に限らず彼らだって難しいだろうと答えただろう。どんな世界も目立つのは主役だが、それを支える脇役には主役以上の能力が求められるのが常なのだから。まぁそれらは全てふたりの思い込みであり、実際は彼方との一騎打ちで色々と考えた結果、真白に協力しようという流れになったのだが。

 

 

 それはそれとして、じゃあ棗はどんな扱いなんだと思うかもしれないがそこは安心してほしい。暮間の名は4人も知っているので「さすがは暮間の巫女だ」的な感じでわりと普通に受け入れている。彼方にあくまでひとりの巫女として扱われるのが先だった棗が、それをどう受け取るのかは別として。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 主役級が6人集まって力押しをしたらボス戦で語ることなど無い。妖樹の王との戦闘がどんな感じになるのかは次回の彼方チームの挑戦で語るとして。

 

 禄存の迷宮を踏破した真白と棗の祝勝会と更紗の歓迎を兼ねて、凪菜と雅を含めて女子寮の部屋では現在お祝いの会の真っ最中である。

 クラスメイトからのお祝いの提案もあったが、そちらは日程を調整して後日ということに。そして学園側が用意すると言ってきた催しは丁重にお断りした。

 

 会場が女子寮ということで彼方は残念ながら不参加である。とりあえず真白からはドヤァと言いたげなメッセージが届いたのでお祝いの言葉だけはすぐに返信した。

 次は前衛として挑戦したいからよろしくね! というメッセージにインファイト路線はもう確定したなと諦めつつ、彼方は学園裏手の山の中で黙々と瞑想を続けている。門限? ゲーム世界の学園はそのへんガバガバなので問題ない。

 

 

 瞑想は大事だ。いくら前世の知識としてゲームのデータが頭の中に入っていようとも、どれだけ多くのスキルを組み上げたとしても、それらを適切に活用できなければ意味がない。恐怖に心が屈してしまえば戦えなくなってしまうのだ、精神鍛錬を欠かすことなどできない。

 特に、現世での戦闘では迷宮の中と違い死に戻りに大きなリスクが伴う。ゲームデザインとして救済措置の設定はあるが、それを過信するほど彼方は気を抜いていなかった。チートハーレム系作品の主人公でもないのに、危険がこちらの都合を考慮してくれることを期待するほうがどうかしているのだ。

 

 心臓を抉られるのも構わず一矢報いるために踏み出すような男をビビらせる方法というものがどんなものかは不明だが、努力が無駄になることはないので良しとしよう。

 

 

 

 

「なんだ、珍しいお客さんがきたな。迷宮攻略、おめでとさん」

 

「……あの程度、どうということはない」

 

 

 彼方の感知能力であれば瞑想中の背中越しでも他者の接近を容易に感知できる。それが朱雀の加護を持つ霊気であればなおさらだ。

 

 

「無銘」

 

「うん?」

 

「オレは、禄存の迷宮を打ち倒してみせたぞ」

 

「そうか」

 

 

 知ってるけど? 

 

 そりゃ学園が大々的に発表したからね、学園の学生で知らないヤツはおらんでしょうよ。それをいきなり本人からなんの脈絡もなく直接伝えられた俺はどうすればいいのさ? 

 

 突然のご報告に困惑する彼方。しかし日々の精神鍛錬で心を鍛えている彼方は動揺を悟らせるようなことはしない。上司がとんちんかんな言動を誇らしげに見せつけてきても、愛想笑いで誤魔化して黙って後始末をできるぐらいのアドリブ力がなければ社会人は生きていけないのだ。

 

 考える。

 

 紅蓮の性格からして、月並みな褒め言葉なんか求めていないはず。なおさら勝利報告してきた意味がわからないんだが? だけどこのまま黙っていたらコイツいつ帰るのかわかんねぇ! えーと、つまり逆転の発想でいいのか? 褒めるの反対だから……。

 

 

「なら、これでようやく、俺も心置きなく禄存の迷宮を攻略できるな」

 

「フン、言ってくれる。せいぜいオレを失望させてくれるなよ」

 

 

 あ、セーフっぽい。逆になんでだよ、なんでこんな挑発的なセリフでお前は満足そうにしてんだ誰か俺に説明してくれ! と心の中で喚く転生者。もちろん答えを教えてくれる者などいない。

 しかし転んでもタダでは起きないのが死にゲー愛好家というもの。ピンチをチャンスにするように、敗北を糧にするように、意味不明なこの状況も今後の布石として活用するぐらいでなくてどうする。

 

 

「そうかい。なら連絡先でも交換しようか? まっさきにお前に自慢してやるよ。用事ができたからって、毎回のように朱雀に伝言を頼むのもさすがにアレだろ?」

 

「いや……そうだな。ついオレも甘えてしまったが、神霊をメール扱いするのは常識的に考えてマズかった」

 

『我は別に構わぬのだがなぁ』

 

「だろ? 昔から一緒にいたのかもしれないけど、親しき仲にも礼儀ありって言葉もあるし、ここは現代人らしい手段を使おうじゃないか」

 

「わかった。いくら加護を与えてくれているからといって、便利使いされては朱雀も愉快ではないだろうからな」

 

『お? 無視か? ふたり仲良く我を無視するのか? いくら朱雀の炎が生命力の象徴だとしても、心の傷は簡単には癒えんからな?』

 

「んーと……よし。男子学生の嗜みとして毒にも薬にもならない話題をたくさん仕入れて送信するよ」

 

「くだらん用事でオレを煩わせるな。そんなものにいちいち反応してやるとでも思っているのか?」

 

「反応があるまで何百回でも延々と繰り返してやるから、任せろ!」

 

「なんだそれは。貴様、嫌がらせのつもりか」

 

「そうだが?」

 

「そうだが!? 〜〜〜〜ッ! 少しぐらいなら相手にしてやるから、せめて意味のある内容にしろッ!」

 

 

 それからしばらく雑談を楽しみ、散々に文句を言いながらも足取りは軽い様子で紅蓮が立ち去っていく。結局なにが目的でやってきたのかは知らないが、原作知識を活用するための手段が増えたことに彼方は満足している。

 

(ゲームでは攻略中のキャラクター以外は、家庭の事情とかそういう……本来なら主人公である朝比奈真白が解決するべき問題がいつの間にか片付いていた。けれどこの世界ではそんな不思議は起こらないかもしれない。なら、俺の知識が紅蓮の役に立つこともあるだろう)

 

 本人としては一応優しさからの行動である。今後のストーリー展開を知るからこそ、内面的には大人である自分が紅蓮を助けてやりたいと考えた。

 だが、本来なら主人公である真白が解決するはずだった案件に少しでも関わるということは、ほぼ確実に危険に巻き込まれるということなのだが……ここでそのことに気が付いて逃げられるような人物であれば、冥界童女に好かれることもなかったのかもしれない。

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