タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 彼方くんが読者の皆さんに嫌われなくて安心したので初投稿です。



ご注文は阿修羅ちゃんでしたと言いなさい。言え。

 黄龍の巫女率いる攻略メンバーが、ようやく禄存の迷宮の主に挑めそうなところまで進んだらしい。

 

 長いこと管理している迷宮の攻略が停滞していた学園関係者は、侍の家系も巫女の家系も後押ししている偉そうな顔をした政治家もこれにはニッコリである。

 歴史があるということは過去と常に比較されることになるワケで、昔はそれより先の迷宮に潜れてたんでしょ? 攻略遅いよなにやってんの! と言われれば腹が立つのが人間というもの。

 

 全ては久し振りに現れた黄龍の巫女である朝比奈真白のために整えられたご都合主義によるバランス調整だったりするのかな? などとメタ視点で日本の迷宮事情の不思議さを面白がりつつ、なんだかんだ彼方としても攻略が順調なのは喜ばしいことであった。

 

 ちなみに前回、滅多にない対人戦の機会だからと悪気はないが悪意の塊のような戦法をこのアホに仕掛けられガボガボと煮え湯を飲まされた紅蓮もしっかり攻略メンバーに含まれている。

 彼方の戦い方を卑怯者と言いつつ負けた自分が間抜けと認めるという────感情が紅蓮に寄りすぎているせいで朱雀も気が付いていないが────意外と気持ちに整理がついていることで塞ぎ込むようなことにはならなかったようだ。

 

 それ以上に紅蓮の背中を後押ししたのは周囲の評価が変わったこと。本来ならば認めた相手にしか姿を見せない神霊がわざわざ実体化したという驚きと、その神霊から新しい必殺技の特訓を精神力が尽き果てて命を失うレベルで追い込んで習得しようとしていたことから教師からも生徒からもそれはもう……キラキラした眼で見られるようになった。

 だがそれは全て朱雀による虚言である。紅蓮の名誉、四神の侍としての価値、そして莫迦が余計な騒ぎを起こして彼方を学園から追いやることのないようにと誤魔化しただけのこと。事実としては満足に一撃を与えることすらできず、再燃する命の灯火まで発動した上で瞬殺された紅蓮がこの勘違いまみれの称賛を素直に受け止められるはずがない。

 

 こうして望まぬ評価を押し付けられることの鬱陶しさを知ったことで、黄龍の巫女として騒がれていた真白の苦労を想像できるようになったのだ。

 事実として本当に真白が苦労していたかどうかの判断は読者の皆さんに任せるとして。紅蓮が“黄龍と四神の関係性”のような大人の事情がどうだろうと、侍ならば巫女のために戦うことを拒んだのはワガママでしかなかった……と反省したのは良いことなのだろう。

 

 

 主人公と攻略対象全員とライバルが協力するなら禄存の迷宮突破も時間の問題。真白たちがクリアしてくれれば自分も迷宮の主である『妖樹の王』に遠慮なく挑戦できる。そのときを楽しみにしながら学生ライフを満喫しようと彼方は商業エリアに遊びに出ていた。

 

 

 社会人の肉体から若返り、現役の学生として健康で丈夫な身体を手に入れた彼方の目的とは? それはズバリ“食べ歩き”である。常人より消費カロリーが桁違いの侍であれば好きなものを好きなだけ食べても太らないのだから、この環境を最大限に利用しなければもったいない。

 ひとつだけ注意点があるとすれば、人間の老人に化けた黄龍とエンカウントする可能性があることぐらいしかない。派手なアロハにグラサンを着用という模範的師匠として有名などこかの亀仙流のじっちゃんのような姿でハンバーガーショップの新作を食べている最強クラスの神霊がいるのだ。

 

 もちろん転生者の彼方はそのことを知っている。だがそれは正体を隠して真白の様子を見に来るというイベントであって、まさか縁もゆかりも無い自分が黄龍とバッタリ出会すことになるとは思っていない。

 真白と休日に外食でもすれば可能性はゼロではないが、それは攻略対象の役目だと信じていた。なので当然、凪菜とふたりで「そういえばこんなイベントあったね〜」なんて話をしているところをしっかり聞かれているなんて思っていない。

 

 

 世界の理が想定したシナリオが崩れていく様をゲラゲラ笑って見ている人間大好きファンキージジイが転生者兄妹の会話を聞いた上でこれからどのような行動に出るかは読者の皆さんの想像に任せるとして、彼方は日頃の無茶に付き合わせている肉体と精神を労るべく落ち着いた雰囲気のピザ屋さんへとやってきた! 

 

 

「いらっしゃい。おや、またキミか。ご贔屓にしてくれてありがとうよ。しかし、いいのかい? もっとオシャレな若者向きのお店だってあるのに」

 

「ここが、いいんですよ。前にも話しましたけど、俺、学園の侍なんです。疲れた身体と心をのんびり癒やすには最高のお店ですよ。ここは」

 

「そうかい。そう言ってくれると私としても嬉しいね。いつも通りでいいかい?」

 

「はい、お願いします」

 

「あいよ。お〜い、バアさん。いつもの〜」

 

「はぁ〜い」

 

 

 ピザの種類はその日のシェフの気分でお任せに。テーブルに運ばれてくるまでタップリ40分はかかるためガチ学生の友人たちを連れてくることはできないが、エセ学生の彼方にとってはこの待ち時間すらも外食の楽しみに含まれる。

 それでもついついタブレット端末を弄りたくなるのが悲しい(さが)というものだ。ステータス確認のためにアプリを起動し、相変わらず加護の部分がおかしな表示になっていることにワクワクしつつ、これまで獲得したスキルを眺めながら今後の予定について考え始めた。

 

(タイムリミットは第一次防衛作戦まで。鬼たちが迷宮から出てくるようになれば、いまのような稼ぎはムリだ。自由に動けなくなる。俺には主人公チームのような権限は無いからな。それまでにひとつでも多くの防御系スキルを揃えておきたいところだが)

 

 エーテルを稼げば稼ぐほどステータスを盛れるシステムがありながら、彼方が自分自身の強化よりもスキルの取得・強化を優先しているのは今後確実に自由を失うことになると知っているからだ。

 攻撃系はまだしも、防御系のスキルを習得して熟練度を上げるには条件に合った攻撃を受ける必要がある。そして彼方が欲しているスキルを揃えようにも学園管理下の迷宮だけでは敵の種類が足りていない。

 

 だからこそ椿落としの咎人から切り刻まれながら剣カテゴリーと斬属性の攻撃に対する防御・耐性・見切りスキルを獲得した。そしてそれを利用して絶氷の鬼と戦い、どうにか敵のスキル『蒼刃一閃』をパリィで受けることで氷属性の防御系スキルを獲得するための条件を整えたのだ。

 次はその氷属性の防御系スキルを活用して別の迷宮へ、といった具合にスキル獲得の機会を増やすつもりでいる。だがそれも表向き現世が平和だからこそ自由に動けるのだ。現世に鬼たちが攻め込んでくれば、学生だろうと予備の戦力として政府の指示に従うことになる。いくら異世界転生エンジョイ勢の彼方でも一般人の安全を無視してまで自分の都合を優先しようとは思わない。

 

 幸いにして防御系のスキルは攻撃を受けるだけで熟練度が稼げる。負け続けても地味にキャラクターが成長するのも死にゲー初心者向けの配慮なのだろう。

 

 

 ともかく。

 

 

 タイムリミットがあって。

 

 スキルを覚えるためには。

 

 何度も鬼から殴られる必要があるワケで。

 

 

 これから特定の攻撃スキルを持つ鬼たちは“手練れの侍と巫女が挑んできたからとっておきのスキルで攻撃したら待ってましたと言わんばかりに飛び込んできて死に戻りしたかと思えばまたやってきてスキルを食らって死んでを嬉々として繰り返すヤベー二人組に延々と襲撃される”という体験をすることになる。しかも熟練度が高まるにつれて絡まれる時間も延長されるというオマケ付きで。

 そしてその傍らで様々な呪いを無抵抗で全身に浴びて、視力低下や麻痺などを引き起こす有害な植物をわざわざ選んでモッシャモッシャと食べ続け、猛毒の沼地で息絶えるまで泳ぎ続けるというスキル事情を知らない鬼たちには欠片も理解できない行動を続けるのだ。それを目撃した下位の鬼たちが人間という存在に『恐怖』という感情を学習したとして、どうして責めることができるというのか。じゃあ恐怖を感じることなくふたりの邪魔をした鬼がどうなるかって? わざわざ素材やエーテル結晶のデリバリーをしてくれるなら無銘兄妹は必ず感謝してくれるから大丈夫だよ! 

 

 なお、この無銘兄妹の奇行努力が実を結び原作の現世侵攻と違って鬼たちは少数精鋭による威力偵察という形に計画を変更することになる。

 真白たち主人公チームを含む上澄みの能力者たちは苦戦を強いられることになるが、一般人の被害はほぼほぼゼロに近くなるだろう。

 

 残念ながら無銘彼方と無銘凪菜の活躍が人々に知られることはなく、ふたりの名前が歴史の表舞台に登場することはない。

 だが安心してほしい、その代わり迷宮の先に存在すると言われている鬼たちの暮らす常世では彼方と凪菜のことは末永く語り継がれることになるかもしれない。狂気に満ちた悪夢として。

 

 

 ただ異世界での生活を楽しんでいるだけで人類の天敵だったはずの鬼たちに終わらないSAN値チェックを強要し続ける男・無銘彼方が優しい歌を口ずさみながら次の攻略対象(イケニエ)を決めるため地図アプリを眺めていると……カラン、カランと新しいお客さんが入店する音が聞こえた。

 

 

「こんちわ、お兄さん。ココ、相席してもいいかな?」

 

「……うん? 相席? 座るところなんていくらでも空いて〜、る〜、よ?」

 

「まぁまぁ、そう言わずに。ホラ、こんなチチがデカくてカワイイ女の子と一緒にゴハン食べられるんだよ? そんなに悪い気はしないっしょ?」

 

「……いや、まぁ……キミが魅力的なのは否定しないけどさ……知らない女の子にいきなり距離を詰められたらさ……困る、かな」

 

「アハハッ! そりゃそうだよねッ! でもね? あーしもただテキトーに声をかけたワケじゃないんだな、コレが。お兄さんからさ、なっちゃんセンパイの鵺の気配がしたもんだからさ。ねぇ? 困ったときに頼りになるって評判の無銘彼方センパイ?」

 

「……なるほどね。追加の交換学生」

 

「あったり〜♪ 水と氷の神霊『フロストポルカ』の加護を持つ巫女、祁答院更紗(けどういん さらさ)ちゃんだよ♪ 適性は水と氷と、それから樹と土が少しだけ、あとは打撃かな。得意な武器は錫杖よりも三節棍ッ! なっちゃんセンパイともども、学園生活のフォローよろしくね? 彼方センパイ♪」

 

「お、そうだな」

 

 詳しい自己紹介など聞かなくても彼方は更紗のことを知っている。おそらく来年にはストーリーが動き出すであろう『鬼切姫 弐』のチュートリアルで正式加入する、2代目主人公の相棒となるキャラクターなのだから。

 彼方は決して認めたがらないだろうが、広告風に表現するなら“前作で好評だったDLCパック『無銘兄妹』が今作でも配信決定! 進級してさらに強くなったふたりと一緒に高難易度ダンジョンに挑戦しよう!”というフラグが立った瞬間……なのかもしれない。




フロストポルカ
『なんかめずらしいのがいるぞー』
『くろいほうのおねーちゃんがいるぞー』
『かかれー』
『ひっつけー』
『のっちゃえー』
『はりつけー』
『おしつぶせー』

冥界童女
『溺れるッ!? 溺れるッ!! ちょ、たすけ』

座敷童
『んー、今日もいい天気♪』
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