タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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 内容は地味ですが初投稿です。



転生者の戦い方に華やかさが無かったとしてなにか問題でも?

 義務教育制度よりも昔から人間社会で若者を見てきた朱雀は空気の読める神霊である。

 

 なんとなく彼方自身は急に話しかけても平然と受け答えができそうだな、とは感じている。だが学園の公的な評価や周囲との認識の齟齬を考慮するのであれば、なるべくひとりで行動しているときに声を掛けるべきだろう。ひとりだけに姿を見せ声を聞かせることなど容易いが、万が一が起きる可能性を無視してはいけないのだ。

 彼方が自分の神霊を認識しているのであれば話はもっと早かったのだがなぁ……などとボヤきつつも、机の上に燃える羽根をひとつ置いて立ち去るときは旧き時代の男女のやり取りを真似ているようで面白くもあった。それをつまんで確認した彼方が意図を汲み取り、黙ってわざわざ人気の無い学園裏手の山の麓まで足を運んだときなどは下手な大人よりも気が利くものだと感心したぐらいだ。

 

 頼む側として、本来ならば紅蓮の恥を知りつつもイチから十まで説明するべき。しかしここは彼方の人柄に甘える形で巧く話を組み替える。どうせなら下手に気負わずに戦ってくれたほうが、かえって紅蓮の経験値になるだろうと判断したからだ。その結果が紅蓮が想定しているであろう、学園の校内交流戦や増永の演武会で行われるような戦いではなかったとしても。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

 選ばれたのは、貪狼の迷宮の最深部にあるボスフロア。迷宮の主である牙狼鬼は朱雀の炎などまともに浴びていられるかと周囲の森へ避難して、しかしせっかくの珍しい催し物だからと木の上に悠々と腰掛けて人間ふたりの様子を観察している。

 

 

 片や、赤を基調とした華やかな武闘法衣。

 

 片や、森に飲まれそうな地味な緑の衣装。

 

 

『ふーむ。武器の構え方も含め、見た目の華やかさであれば紅蓮であるがなぁ。そんなものが戦いのなにに役立つのかと問われれば……まぁ、味方の意欲を高めるという意味でも、神霊の加護を持つ者は侍も巫女もそれなりの出で立ちを求められるのだがなぁ』

 

 恐怖を打ち消す最も簡単な手段は英雄、あるいは勇者が戦場にひとり居れば良い。心の有り様ひとつで霊気の質は変化する、書類仕事しか知らない連中にはわからない戦士の世界の常識である。

 しかし、今回ばかりはそれが裏目に出るかもしれない。決して紅蓮は虚仮威しのために法衣を身に着けているのではなく、無銘彼方という強敵に挑むための気概を整えるためにそうしたのだと朱雀も理解しているが……如何せん、紅蓮は彼方に“試合”ではなく“死合”を申し込んでしまっていた。

 

 それを了承した彼方のエーテルの変化を紅蓮は理解できていない。まぁ、そこに口出しをしてしまうと立ち会いの価値が下がるということで朱雀も教えるつもりは無いのだが。

 

 

(まずは小手調べといくか。ヤツの反応速度がどれほどのものか、試してやる。いくぞ、無銘彼方。オレの剣を受け止められるか……ッ!)

 

 先手、紅蓮が踏み込む。

 

 それは手抜きではないが相手の力量を試すための様子見の一撃。別に彼方を侮っているワケではなく、強敵として認めているからこそ慎重に攻める必要があると判断しての選択である。

 

 もちろんそんなことは彼方には関係ない。曲刀の持ち方を少しだけ傾けて、器用に地面の土を跳ね上げて紅蓮の視界を潰しにかかった! 

 

 

「ぐッ!? 貴様……ッ!?」

 

「はッ!」

 

「────ッ!? 舐めるなッ!!」

 

 

 目で見えずともエーテルの波動を感知するなど紅蓮にとっては朝飯前。正面から踏み込んできた彼方へ横薙ぎの一撃を食らわせてやると腕を振るうが……剣が両断したのは人の肉ではなく、エーテル結晶であった。

 

「な……うぉッ!?」

 

 彼方にしてみれば、わざわざ目潰しをしておいてバカ正直に突っ込んでどうするといったところだ。見えていなくても相手がエーテルや霊気に反応するだろうと予測して囮を使い、そのまま足払いで紅蓮を転ばせる。

 もちろんそれで素直に転がる紅蓮ではない。鍛えているのは霊気の扱いやスキルだけではない、その身体能力を存分に発揮して即座に体勢を整える────よりも先に、彼方が法衣を踏み付けて紅蓮の動きを強制的に止めていた。

 

(これ、凪菜に見られたらキレられそうだな)

 

 推しのステージ衣装を踏まれて怒らないファンはいない。しかしこれは真剣勝負、それも禁じ手無しの本気も本気のぶつかり合い。ステータスの差から一撃で消し炭になる可能性もある彼方にしてみれば、相手の身嗜みに気を使う暇などありはしない。

 

 狙うは顔面。

 

 使うは拳。

 

(避けられないなら耐えるまでッ! このまま至近距離の火属性スキルを食らわせてやろうッ!)

 

 たかが顔を殴られる程度のこと、霊気のガードで食いしばってみせる。朱雀の炎とて惜しまないと、本気で戦うと宣言しているのだから相手も文句は言わないはず。まずは迫る拳に耐えるため、奥歯に力を入れて身構える紅蓮だったが────。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「がぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 鼻に指を突き刺して攻撃、文章にすると間抜けなギャグ漫画の世界観でしかない。

 だが彼方は火属性スキルによる反撃を恐れることなく、全ての霊気を一本の指に集中し、その指先で骨を砕いて脳漿を掻き出してやるつもりで捩じ込んだのだ。

 

 医療行為による治療でさえ大人でも涙が出るほど痛むことがあるのだ、それが殺意に満ちた攻撃であればどれほどの激痛に襲われることになるのか。

 そして痛みに伴う出血もまた転んだぶつけたエロ本読んだの三大鼻血シチュエーションとは比較にならないほどの量であり、否応無しに喉奥へと流れ込んで呼吸を妨げる。

 

 

 激痛と窒息というふたつの枷をもって集中力を奪い、朱雀の炎を含めたアクティブスキルを封じる。それが彼方の狙いであった! 

 

 

(できれば近寄りたくないが、紅蓮は最速で仲間にしてもパッシブスキルに物理属性インターセプトを持ってるからな。せっかく揺さぶりをかけているのに、下手に物投げてスキルの発動で冷静さを取り戻されても困る。それに……剣スキルの熟練度が高い増永紅蓮なら、奇襲と痛みで混乱していても俺の踏み込みに()()()()()()()()よなぁ?)

 

 

「ぐ……ッ! この……程度でッ!!」

 

 

 期待通り。

 

 ストイックに強さを求める紅蓮であればきっと反撃してくれる。そして速度も重さも全く足りていないその斬撃を彼方は遠慮なくパリィで弾き、容赦なく致命の一撃を加えて命を刈り取った。

 

 これにて紅蓮との一騎打ちは終了、とはならない。朱雀の加護『再燃する命の灯火』が発動して紅蓮の身体が蒼炎に包まれた。ライフがゼロになっても一度だけ体力半分で復活できるスキルである。

 しかも発動中に紅蓮の周囲に展開される結界は攻撃力が高く、迂闊に触れれば一瞬で全身が炎に包まれることになるだろう。四人の中では攻略難易度が1番高いだけあって、専用スキルも相応に強力なのだ。

 

 

 

 

 

 

「まだだ……ッ! まだオレは戦える……ッ!! もう油断はしない、全力で……無銘彼方ッ! お前を────は?」

 

 

 

 

 

 

 一方的に手玉に取られた悔しさを噛み締めながら立ち上がった紅蓮だったが、目の前に誰もいないという状況に思わず呆けたような声が出てしまう。

 無銘彼方はどこへ消えた? 周囲を見渡せば、なぜかエーテル結晶が乱雑にばら撒かれている。まさか復活する間に罠でも張られたのか? と、そこまで考えたところで不自然な土の台座があることに気付く。

 

 警戒しつつ近寄ってみれば、なにやら日本語で文字が刻まれていて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あきたので、帰ります。

 勝負はそっちの勝ちでいいです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………時間の無駄だったか」

 

 人はあまりにも怒りの感情が高まると逆に冷静になれることがあるらしい。いまの紅蓮はまさにその状態だった。期待が高かったからこそ落胆も大きくなるのだ。

 

 ほかでもない、朱雀の言葉だからこそ信じてみようと思った。幼い頃から共に過ごしてきた相棒が認めるのであればと、心の強さというものを学べるならばと戦いを申し込んだ。

 だがその結果がこれだ。お世辞にも()()()()()()()()()()()()()()ばかりを使ってきた挙げ句に逃走するという無様。コレを相手になにかを学ぶことなどできはしない。

 

 学園に戻ったならば、まずは朱雀を問い質す必要があるだろう。そんなことを考えながら歩き出した紅蓮の耳に「ドンッ!」という衝撃音が聞こえた。

 

「────あ?」

 

 そして不自然に傾く視界に“首から上が無くなっている”朱雀の法衣が突き飛ばされたかのように倒れていく姿が入り込み、そのまま紅蓮は痛みも苦しみも感じることなく意識を失った。

 

 

 ◆◇◆◇

 

 

「────はっ!? 夢……なの、か?」

 

『ん? おぉ、ずいぶんと早い目覚めだなぁ。てっきり数時間は寝込むものと思っていたが、まさか30分ほどで意識を取り戻すとは』

 

「朱雀……?」

 

『お主が死に戻りすることなど滅多にないことだからなぁ。仕方がないので我が実体化して誤魔化しておいたぞ? 紅蓮は新たなる朱雀の力を使いこなすための特訓中で、精神力を使い果たして力尽きたのだと。ただ、さすがに我ではお主を運べんからなぁ。そこだけは教師に頼むしかなかったぞ』

 

「朱雀、お前、いったいどういうつもりだ?」

 

『ほぅ? どう、とは?』

 

「無銘彼方のことだッ! アレが、あんな男がッ! オレよりも心の強い侍だというのかッ!! ヤツの戦い方には侍としての誇りなど微塵も無いッ!! 侍の役目とは、ただ鬼を切るだけではないと……その勇姿で弱者に希望を与える存在だと、そうお前も言っていただろうッ!!」

 

『ふーむ。まぁ、お主のその憤りも理解できるがなぁ。ならば紅蓮よ、質問に質問で返す形になってしまうが……お主、侍は犬ともいえ、畜生ともいえ、勝つ事が本にて候……という言葉を聞いたことはあるか?』

 

「……いや」

 

『そうか。まぁ、そうだろうなぁ。侍と巫女が救世の英雄だとして持て囃されるようになってからは、瞬く間に廃れていった言葉だものなぁ』

 

「誇りを捨てることになっても、鬼を切るという役目を果たせ……とでも言いたいのか? だから、無銘彼方のような()()()こそが侍として価値があるとでも言いたいのか? だがッ! もしそれが正しいと言うのならッ! なぜ矛盾するようなことをオレに教えたんだッ!!」

 

『うん? 別にお主にこの価値観を押し付けようなどとは思っておらんよ。旧い時代の、そう……人間にとってはとても旧い時代の、いまでは必要とされていない価値観だ。自画自賛するようでちぃと気恥ずかしいが、この神霊・朱雀の加護を有する増永紅蓮がそのような真似をすれば、人々の侍に対する期待を裏切るようなものだからなぁ』

 

「わからない……オレには、お前が、いったいなにを教えようとしているのか……お前が、オレのことを気に掛けてくれているのはわかるが、それでも……いったい、なにを……?」

 

『ふーむ。こればかりは、本当に難しいなぁ。我とてどのように言葉を紡げばよいのか手探りだからなぁ。まぁ、我に手は無いのだがな。見ての通り“鳥”だから。()()だけに()()()、なんて──』

 

「…………」

 

『うむ。正直、スマンかった。さて、上手い説明の仕方を考えるついでに、無銘彼方に此度の礼を伝えに行くとするか。側で我が口煩くしていたのでは、お主も気持ちが落ち着かんだろう。あぁ、一応教えておこうか。お主は最後に“糸のようなもの”で首を括られ落とされたぞ』

 

「糸、だと?」

 

『では無銘彼方は何処に身を隠していたのか? 答えはお主の背後だよ。土属性スキルを器用に駆使して地面を穿ってなぁ。掘り起こした土で囮となる伝言を刻んだ……というワケだ。まぁ、卑怯と言えばそうなのだろうが、仮に』

 

「仮に無銘彼方が鬼であったなら、オレはただ油断して殺された間抜けでしかない……か」

 

『お主のその、密かに激情家のようで、実は物分りの良いところ。我は結構好きだぞ?』

 

「茶化すな。さっさとヤツに礼でもなんでも言ってこい」

 

『うむ。では、少しだけ離れるぞ。滅多にない死に戻りだ、充分に身体を休めておけ。実のところ、鼻の奥に痛みが残っているのだろう?』

 

「…………チッ」

 

 

 毒にも薬にもならない体験よりはマシだが、想像していたよりも遥かに猛毒。しかし学んでみせろと煽ったからには、どうにか紅蓮の成長につながるようフォローしなければならない。

 それが相棒としての責任なのだろうと、朱雀は思考を巡らせながらゆっくりと空を舞う。殺すつもりでかかってこい、などと余計な挑発をしなければなぁ……なんて思っても口にはしない。思春期の子どもに完璧を求めるほうが間違っているからだ。

 

 

 

 

 ちなみに。

 

 彼方の戦い方を見ていた迷宮の主である牙狼鬼は、いつか戦った女の侍(真白)のことを思い出して「あのメスに戦い方を教えたの絶対コイツだな……」と渋い顔をしていたとか。

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