タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
自分の思春期は思い出したくないので初投稿です。
DLCダンジョン『八乙女城』
死にゲー部分の作り込みが好評で男性ユーザーも大勢いるということで、それなら女性型の鬼がメインのDLCでも作ってみようじゃないかという経緯で誕生した迷宮である。
あの鬼がカワイイ、この鬼を仲間にしたい、しかしそれはそれとして人型ならパリィからの致命の一撃も有効だよね? と死にゲー愛好家たちの狩り場となった迷宮を転生者である無銘兄妹が無視する道理がどこにあるというのか。
しかし、そこはDLCで追加された迷宮というだけあって鬼の戦力はストーリーで攻略する迷宮よりもかなり強い。ふたりの人間が八乙女城を目指して境界に乗り込んできたことをちゃんと察知している。
「ねぇねぇみんなぁ? お客さまよ、お客さま♪ 境界の封印が弱まって、いよいよ人間たちの暮らす現世に侵攻する準備ができるところで遊びに来てくれるなんて……これは、もうアレよね? ちゃんとおもてなしをしないと失礼よねぇ?」
「お言葉ですが姫様。かつての侍たちがそうであったように、少数精鋭による奇襲を企てている可能性がございます。城攻めの戦力がふたりだけなど道理に合いません。おそらくはこちらを撹乱するための捨て駒、必ず別働隊による本命が────」
「八雲姫ぇぇぇぇッ!! 聞こえてますかぁぁぁぁッ!! いまから乗り込みますんで、お茶を用意して待ってて下さいねぇぇぇぇッ!!」
「お土産はシュークリームの冷凍ッスよぉぉぉぉッ!! 食べ頃になるまでにたどり着いてみせるから楽しみにしてるッスぅぅぅぅッ!!」
「……別働隊が、なぁに?」
八乙女城の城主である八雲姫がニッコニコの笑顔で側近のひとりに尋ねる。別に意見した者を罰しようなどとは思っていない。ただ久し振りに自分の首を狙いに来た人間たちがとても愉快な性格をしていると知って上機嫌なだけである。
「うん、うん♪ ねぇ聞いた? お土産も用意してくれたんだってぇ! これはもう、お城のみぃんなでお相手しないとダメだよぉ! さ、配置について。ふふッ♪ 久し振りの戦いだもの、みんなもちゃあんと楽しまないとダメだからねぇ?」
「「「「姫様の仰せのままにッ!!」」」」
彼方も、凪菜も、八乙女城のボス鬼である八雲姫のことを前世の知識として持っている。冗談の通じる相手だと知っているからこそ大声で襲撃予告をしたし、本当に手土産としてシュークリームを持参している。もちろん本命は迎撃の準備を整えてもらうこと。稼ぎにきたのに手札を出し惜しみされたのでは困るのだ。
だが八乙女城の鬼たちにはそんなアホ兄妹の事情など理解できるはずもない。永く封印されていたはずの八乙女城の場所を知っていることも、城主である八雲姫の名を知っていることも、どちらも彼女たちにしてみれば警戒を強める理由として充分過ぎる。もしかしたら自分たちを封印した巫女の系譜の可能性だってあるのだ、そりゃあ迎撃体制だって本気になるだろう。
しかし。
だからこそ、彼女たちは昂っている。
目覚めの準備運動の相手として不足無し。八雲姫のためになるのであれば人の赤子だろうと迷わず斬る心構えではあるが、やはりひとりの戦士としては無抵抗の人間よりは侍や巫女との戦いこそ望むところ。
巫女のほうはともかく、侍のほうから感じるエーテル量や霊気が想像よりも少ないのが気になるところではあるが、少なくとも八乙女城の場所を知らされるだけの実力があるなら切り札のひとつやふたつは隠しているに違いない。
久し振りの闘争だ、八雲姫の許しを得たのだ、存分に楽しもう。意気揚々と駆け出した配下の鬼たちを満足そうに見送った城の主はというと。
「ところで、しゅうくりぃむ……って、どんな食べ物なのかなぁ? 用意するお茶は抹茶と紅茶のどっちがいいんだろぉ?」
◆◇◆◇
「さぁて、どれぐらい眠ってたか……百年? それとも二百年ぐれぇか? とにかく久し振りのエモノだ、せいぜいアタシを楽しませてくれヨ?」
紺色に染められた甲冑を身に着けた鬼が、ニヤリと笑いながら門の前で侵入者を待ち受ける。侵入者である侍と巫女もすでに見える位置にいて……見える位置に……うん? 侍と巫女? 男のほうはなんかこう、作業着を戦闘用に改造したみてェだから、動きやすいようにってコトでわからねェこともないが、女の方は……アレ……まるっきり西洋の侍どもの鎧にしか……え? 侍と、巫女、だよな? 男と女だし……。
どうせ一撃受ければ終わりと割り切って、身軽な放浪者シリーズに身を包む兄の彼方は鬼たちにも理解できた。
しかし妹の凪菜が頭以外を騎士シリーズをベースにした軽装鎧を身に着けていることが理解できない。お前は後方支援じゃないのかと。
とはいえ。相手の都合がどうだろうと挑んでくることに変わりはない。ならば堂々と受けて立とうと門番役の鬼が長さ2メートルを超える六角鉄棍を構える。が────。
「兄貴、アレを使うッス!」
「アレかぁ……別にいいけどさぁ……」
「あん? いきなりなにかカマしてくる気か? おもしれェ、なにを仕掛けてこようと粉砕して────いや、アイツらまっすぐこっちに突っ込んで……ッ!?」
「陰たるは、空昇る龍の爪」
「陽たるは! 星煌めく龍の牙ぁ!」
「奥義・双龍螺旋脚!」
「奥義ぃッ! 双龍螺旋脚ッ!!」
「しま────ッ!? ぐぁぁぁぁッ!!」
「よっしゃあッ! 無事、
なぎな は ドヤかおを きめた !
「「「「それのどこが潜入だぁぁッ!!!!」」」」
おにたち は スルーできなかった !
かなたはうしろでもうしわけなさそうにしている……。
◆◇◆◇
「姫様ッ! 大変ですッ!!」
「おっきい音が聞こえたねぇ。どうしたのかなぁ?」
「最初の接敵で正門が破られってえぇぇッ!? 本当に茶の湯の準備をしてるよこの姫ぇぇッ!?」
「え? だって男の子のほうにお茶の用意して待っててねって言われたし。お土産もあるって言ってたんだよぉ? それにホラ! どう? 似合うかなぁ?」
「はいッ! 茶人の御召し物の姫様もとても素敵でございますッ!! ────ってそうじゃなくてぇッ!! 襲撃者はなかなかの手練れにございます! 万全を期すためにも……むッ!?」
八雲姫の用意した座布団のひとつ、そこに何者かが座っている。
姿そのものは側近の鬼には見えていないのだが、そこは百戦錬磨の武人のセンスが光るところ。八雲姫の天然ぶりに見事なハーモニーを奏でつつも主君の側に不審な気配があれば見逃すワケがない。
咄嗟に腰に携えた刀に手を伸ばそうとするが。
「控えなさい」
「────ッ!? し、しかし……」
「姿が見えないということは、それだけ存在としての“格”が乖離しているということ。アナタでは瞬く間ほども戦いが成り立たないわ。だからぁ、心配しなくても大丈夫だよぉ? ね?」
「……わかり、ました。では、人間たちの対応は我々の方で」
「うん、よろしくねぇ〜♪」
人間が上位の鬼と一括りにしている中にも序列はある。DLCコンテンツのボスを務めているだけあって、八雲姫の格は最も高いグループの『鬼神』なのだ。主君こそが最高戦力であるのだから、無用な心配なのだろうと自分を納得させて側近の鬼が退出した。
ならばそれほどの格を持つ八雲姫と席を同じにする度胸のある存在とはなにか? そんなもの無銘彼方がここにいるのだから考えるまでもなく冥界童女に決まっている。いつもより
本気の殺し合いが始まればタダでは済まないことは承知の上だが、冥界童女の気質を知るが故に八雲姫が慌てるようなことはなかった。贔屓の二枚目役者が花道を通って七三で見栄を切ろうというところで騒ぎを起こすようなことはしないと信頼している。たぶん推し活だとかライブとか説明されても八雲姫は首を傾げるだけかもしれない。
◆◇◆◇
「むむッ! 宣戦布告したかいがあって、なかなかのお出迎えッスねぇ……ッ!」
「ここは役割分担するか。柳閃冥洞ではお前に敵を押し付けていたからな、今度は俺が殿を引き受けよう。ま、順番にな」
「兄貴……! よぉ〜し、前はウチにどーんと任せるッスッ! 雷蛇とのコンビネーションなら、八乙女城の鬼にだって負けないッスよッ!」
「がんばれー」
「不自然に声が遠いッ!? ってか物理的に離れてるしッ!! なにちゃっかり塀の上に避難してるッスかぁぁッ!!」
「いや、後ろから全然来ないなーと思って」
「そりゃそうッスよねぇッ!? だってここに来るまでの鬼は丁寧に倒してきたッスからねぇッ!? バックアタックを警戒してちゃんとねクソがぁッ!!」
「いやー、でもこっちのほうはまだまだ鬼さんおるで?」
「当たり前だぁぁぁぁッ!! その壁の向こう側に向かって進んでんだよウチらはぁぁぁぁッ!!」
「おぉ〜、言われてみればそうだったな。じゃあ俺、偵察してくるから頑張って熟練度上げに励んでくれ愛しのマイシスターよ」
『あら〜。彼方ちゃん行っちゃったね〜』
「ぐぬぬぬぬぬぬぬッ!! いいッスよッ! やってやる、やってやるッスッ! 雷属性:A+まで成長したウチの実力をみせてやるッスッ! 雷蛇、準備はいいッスかッ!?」
『い〜よ〜』
「蒼雷よッ!! 我が封雷剣に宿れッ!! 雄ォォォォッ!!!!」
「おいヤベーぞコイツらアホみたいな会話してるけど実力はマジだ!!」
「侍で兄貴のクセに巫女の妹を平然と捨て石にしたの!?」
「そりゃこんだけの闘気を持ってるなら守らなくてもいいやってなるかもな……」
「そもそもこの子本当に巫女なのぉッ!? 思いっきり剣構えて突っ込んでくる気マンマンなんだけどぉッ!?」
「奥義ッ! ライド・ザ・ライトニングッ!!!!」
「「「「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?!?」」」」
◆◇◆◇
茶器に水を張り、そこに映し出される襲撃者と部下との戦いの様子を見ていた八雲姫の表情は正しく“困惑”であった。
「……えっと、その。アナタのお気に入りのお侍っていうのは、どっち、だったり、するのかなぁ〜? なんて」
冥界童女は「なに言ってんだお前は。見ればわかるだろ」といった様子で八雲姫を見ている!
「も、もちろんわかってるわよぉ? だって、お侍と巫女だもの、見ればわかるよぉ? だから、その、アレよねぇ! ……………………お、男の子の、ほう、だよねぇ……?」
冥界童女は「侍なんだから当たり前だろ常識的に考えて」といった様子で八雲姫を見ている!
「そ、そうよねぇ! 常識的に考えれば簡単にわかるもん、知ってたよぉ! …………えぇ〜? 私が封印されている間に流行が変わっちゃったのかなぁ? また人間たちのこと、イチから勉強しなきゃだよぉ」
◆◇◆◇
「……貴様らは手を出すな。そして、もし私が力及ばず敗れたときは、この侍の武勇に敬意を表せ。わかったな?」
「「「「ハッ!!」」」」
「なんとまぁ評価の高いことで。俺としてはもっと油断するとか、なんなら遊んでやるぐらいの気持ちで手加減して欲しいんだけど」
「面白い冗談だな、人間。お前は我が絶氷の剣技で確実に殺す。お前は自分で言うよりも遥かに危険だ。好奇心旺盛な姫様は残念がるだろうが、近付けさせるワケにはいかん」
彼方には凪菜と違い才能は無い。
低いステータスに成長率の乏しい適性。それは本来ならば侍として底辺を這いずるか、早々に戦いの道を諦めて一般人として生きることを選ぶほどにだ。
しかし彼方はそれを選ばなかった。そして恵まれないままに強敵との戦いを続けてきた彼方は、能力の不利を覆すため前世の知識をフル活用して多種多様なスキルを編み出した。
本人は自分にできることを楽しみながら続けただけのこと。死にゲー経験者としては、限られたチャンスでどれだけ多く敵のライフを削れるか真剣に考えるのは当たり前のことだ。
だが敵対する鬼にしてみれば、彼方の動きは全てが決定的な致命傷を狙うものばかりで構成されている。鬼神である八雲姫の眷属として、軍団の長を任されている絶氷の鬼はそれを気配から感じ取っているのだ。
二合、斬り結べばその時点で不利となる。
絶氷の鬼は氷の妖気を纏わせた刀を水平に構える。狙うはかつての好敵手より学んだ、片手平突きによる一撃必殺。
現世の侍では何人たりとも避けること叶わぬ神速の踏み込み。相手が
短剣ソードブレイカーによるパリィ。霊気のガードが無いも等しいほど容易く剥がれ、氷の妖気の余波で左手が一瞬で凍結して砕け散るが、右手の曲刀は周囲の部下たちも覗き見ていた八雲姫さえも頬を染めるほど美しい動きで鬼の核を斬り捨てた。
これほどの武辺者ならば認めねばならぬ。鬼たちは彼方の進軍を邪魔してはならぬと道を開けた。
そういう態度を見せられると彼方としても返礼をしなければならないと考える。とりあえず残った右手で自分の上着を乱暴に脱ぎとって、たったいま斬り捨てた鬼に被せることにした。
マンガやアニメでよくみる動作。そこにどのような意味があるのかを正確に理解しているとは言えないが、少なくとも侮辱するような行為ではないはずだ……と。
では実際に鬼たちはそれをどう受け止めたのか? それは道を譲るために両脇に避けただけであった鬼たちが、統率の取れた動きで綺麗に整列し膝を付き頭を垂れたことから想像するしか無い。
これには自由人の彼方も内心で冷や汗ダラダラである。ここまでされて「もしかしてなんかやっちゃった?」などと考えるほど鈍感ではない。確実にやらかしたと自覚している。
うん、どう見ても手遅れだ。もうこれは恥を押し殺して堂々とするしかない。彼女たちの名誉を守るためにもやるしかないと、彼方はまっすぐ前を向いて歩を進めるのであった。
◆◇◆◇
「姫様。勝利のご報告に参りました」
「うん、うん。みんな、よく頑張ってくれたよぉ♪ あとでひとりひとりちゃあんと褒めてあげないとねぇ! それで……それ、お土産なのかなぁ?」
「はい。鬼神としての格をお持ちの姫様を害せる毒などあるとは思えませんが、それを抜きにしても……今回、襲撃してきた二人組は毒を盛るような真似はしないだろうと判断しました。私のところまで辿り着いたときには両名とも満身創痍でしたが、もし機会があるのならば万全の状態で手合わせをしてみたいものです」
賛辞の言葉と一緒に手土産のシュークリームを置いて側近が退室する。八雲姫も彼方と凪菜に興味はあったが、部下の前でそれを口にするのは彼女たちの奮戦を否定する行為であると自重した。
せっかくなので、と。一緒に菓子を楽しむかと冥界童女に問いかけるが、やはり今回はいつもと趣が違うらしい。わざわざ座布団から降りて、両手を付いて頭を下げながら姿を消したのだ。
因果を操るほどの力を持つ神霊が頭を下げるのだ、なにかしらの企みはあるのだろうが……それを指摘するのも野暮であるし、なにより想像する楽しみが減ってしまう。八雲姫は「また遊ぼうねぇ〜」と軽い調子で声を掛けるに留めるのであった。
そして。
「……これぇ。とっても甘い香りがして美味しそうだけどぉ、どうやって食べればいいのかなぁ……? うーん、このままガブッ! としたら、乳酪で口の周りがベタベタになっちゃうよぉ……」
凪菜がチョイスしたのはオープンタイプのシュークリームであった。まずは冥界童女に食べさせて、自分はそれを真似して食べようと考えていた八雲姫の戦いはまだまだこれからである。
ちなみに。
鬼たちの態度からものすごく嫌な予感がしていた彼方が、現世に死に戻りしてすぐにタブレット端末で自分のステータスを確認すると────そこには習得条件を満たせないため暗く表示されているが、後の作品の要素である『召喚術式・女性鬼隊士』のスキルが追加されているのを確認して頭を抱えることになった。
女性鬼隊士A
「あくまで我々の使命は八雲姫様に尽くすことではあるが……我々の力を高めるためにも、あの好敵手たる人間との共闘はきっと価値のあるものになるだろう」
女性鬼隊士B
「問題があるとすれば、召喚の枠を巡って仲間内で戦いが始まりそうってことぐらいかしら? 私だって現世の甘味を食べてみたいもん」
女性鬼隊士C
「もっとヤベェ問題がひとつあるぞ。あの好奇心の塊の姫様だぜ? オレたち隊士のフリして無理やり召喚術式に飛び込むかもしれねェ……」