タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
彼方くんはやられましたが初投稿です。
無銘彼方、巫女を守護っての名誉の入院!
もちろんその事実を知るのは一部の人間だけ。表向きとしては古い資料で情報だけが伝わっていた過去の鬼が現れたけど黄龍の巫女と鵺の巫女が追い返したよヤッタネという感じでまとめられている。
まさに政治的判断による情報操作、巫女の立場や学園・義塾の都合によるプロパガンダというワケだ。真白としては面白くはないが大人の都合で振り回されながら巫女としてスタートが切られたので“そういうもの”だと諦めているし、棗にしても悔しい思いはあるが余計な主張をすることでむしろ彼方の立場が怪しくなるよりはと不満を飲み込んだ。
なんて佳い女たちの素晴らしき気遣い! しかし原作の流れと乖離した影響は実のところあまりよろしくない。
黄龍と鵺、ふたりの巫女が入院するほどのダメージがあったからこそ蜂眼坊の脅威をこの時代の能力者たちも意識するようになったが、この世界線では神霊どころか一回り弱い精霊の加護すらも持たない一般生徒の侍でも撃退できる程度と認識されてしまったからだ。
あるいは、鵺が冥界童女の存在を棗を通して語らせれば違ったのかもしれない。だが冥界童女もその半身たる座敷童も己の存在を認識して意図的に利用しようとする“他者”を極端に嫌う性質を持っている。もちろんそのことは鵺に限らず神霊たちは知っているので、迂闊に口を滑らせようものなら……と、人の世がえらいこっちゃにならないよう黙秘するしかない。
そんな扱いに困るちゃんの冥界童女は現在、彼方の病室にて座敷童とふたり仲良くベッドに並んで腰掛けて草笛を吹いている。もちろんステータスの低い彼方には当然の権利のように姿も見えなければ音も聞こえていない。
ちなみにこちら草笛のデュエット、与ダメと被ダメに大きな不利が発生する代わりに生命力自動回復、持久力回復強化、全状態異常耐性強化、素材アイテムドロップ率上昇、確率で通常枠とレア枠の両方が同時にドロップするというマラソンランナー御用達の効果がある。
収集能力のバフはともかくとして。通常の鬼ではない上位存在の妖気を真っ向から受け止めての入院だということで、生命力と持久力のバフは仮にも守護霊なのだからと少しでも早く復帰できるようにとの優しさなのだろう。そして彼方の回復がすこぶる良好なことでますます上層部は油断することになっているのだが……そんなことは冥界童女の知ったことではない。危機感の足りない馬鹿は素直に駆逐されればいいんじゃな〜い?
「兄貴、生きてるッスか〜。今日もカワイイ妹がお見舞いに来たッスよ〜。ほら、月見大福! お取り寄せしてたのが昨日の夕方届いたから、こりゃナイスなタイミングだと思って持ってきたッス!」
「あぁ、原作で入院中の朝比奈に静流が差し入れてくれるヤツか」
「誰にも迷惑をかけないで済む原作要素はとことん楽しむッス! あ、でもちょっとだけ待ってるッスよ? ウチらより先に雷蛇にお供えしてからじゃないと」
原作のゲームに存在した神霊へのお供えシステムはこの世界にもちゃんとある。本来はエーテル素材などを捧げて神霊の力を強化するための行為であるが、凪菜は日頃の感謝の気持ちを込めてお菓子などをこまめにお供えしている。
システムの上限に合わせてみっつ、まんまるお餅を手に乗せてむんっ! と印を結べばあら不思議。月見大福は人の理から外れて雷蛇の頭の上にポテポテポテと落下した。
このお供えの菓子を雷蛇とお子様ふたりで分け合うのもいつものことである。なにかと厄介者扱いされる冥界童女に対して基本のんびりとした気質の雷蛇は「あら〜、お気に入りのおサムライちゃんが見つかってよかったね〜♪」くらいのスタンスで接していた。
彼方自身が冥界童女の影響で苦しんでいるというのならまだしも、本人は強く逞しく成長を続けているのだからどうして口を挟む必要があるというのか。この兄妹が転生者であることは知っているので教えたら教えたで面白いことになりそうだとは思うが、だからといって本当に伝えるつもりはない。
大福をひと口でパックンした雷蛇の背中で、両手で大福を支えてモチモチもにゅーんとおやつタイムを始めた幼女ふたりが見守る中、彼方と凪菜はストーリーの変化について話し合っていた。
「しつこく確認するようで悪いが、朝比奈も暮間も無事なんだな?」
「元気バッチリ。昨日の放課後も仲良く一緒に筋トレしてたッス」
「つまり、俺が死に戻りしたあとふたりで協力して蜂眼坊をどうにか退けた……ってことでいいのか? それなら仲違いしないようにって頑張ったかいがあるんだが」
「鋼蜂のスキルもネタバレしたんスよね? 原作より有利な状況だったワケだし、倒せないにしても撃退だけはできたとか。そもそも苦戦したとしてもちょっとやそっとのケガなんて自前のスキルで治せるッスからね〜」
彼方は自分が蜂眼坊の触角を噛み千切ったことを覚えていない。倒れるよりも早く意識を失っていたので、噛み付くか、せめて頭突きのひとつでも当たってたらいいな〜ぐらいの感覚だ。
あとから立ち去った冥界童女も蜂眼坊と真白のやり取りまでは知らない。彼方の活躍ぶりを座敷童と雷蛇に話はしたが、座敷童との会話は彼方には聞こえないし、雷蛇も「あら〜、彼方ちゃんってばスゴいね〜」という感想だけ。それをわざわざ凪菜に教える理由がない。
「しかしなぁ。それで上位の鬼への警戒心が薄れることになる、ってのはちょっと想定外だわ。さしずめ朝比奈と暮間の入院は必要経費、今後の鬼との戦いへ備えるためのコラテラルダメージだったってか? 良かれと思って行動したけど、裏目にでちゃったか〜」
「うーん、そこまで深刻に受け止めなくても大丈夫だと思うッスけどね? だって上位の鬼は突然現れたワケじゃなくて、ずっと昔からいたワケだし。ゲームでは学園が舞台だからアレってだけで、普通にプロの能力者とかは対策を考えてるんじゃないスかねぇ?」
「……なるほど。言われてみればそう考えるほうが自然だな。ゲームっていう限られた範囲の知識しかない俺たちよりも、この世界の人たちのほうがよっぽど詳しいのは当たり前か」
「雷蛇にも答え合わせに付き合って貰ったッスけど、やっぱ人間と違って神霊たちはナマで見てるワケだし。神霊の加護持ちは直接警告されてるかも? ってコトなら、ちゃんと準備してるッスよ。たぶん」
「なんだ、わざわざ確認してくれたのか。あとで俺からもお礼を言ってたって雷蛇に伝えておいてくれ」
『ちゃんと聞こえてるから大丈夫だよ〜』
「ちゃんと聞こえてるって」
「そうやって普通に会話できるとこ見てると、やっぱり少し羨ましいな。ま、相変わらずアプリの表示はバグってるけど俺も神霊か精霊のどっちかは見守ってくれているっぽいし、あとは声が聞こえるようになるまで気長に鍛えるしかないんだけどさ」
「ハッハッハ〜♪ 単純なステータスなら、ウチと比べて兄貴は弱いッスからねぇ〜?」
「いくら妹が相手でも傷付くからオブラートに包んでくんない?」
「兄貴〜は〜♪ 弱い〜か〜ら〜♪」
「いくら妹が相手でもムカつくからビブラートに包むんじゃねぇ」
もちろん凪菜だって本気で彼方のことを弱いなどとは思っていない。単なる兄妹のじゃれ合いである。
「ときに……我が妹よ……」
「なんスか……我が兄よ……」
「現在の……学園での……無銘彼方の評判は……どうなっているのかね……?」
「控え目に申し上げても……芳しくないッスね……。朝比奈先輩もそうだけど、暮間先輩の案内を引き受けていたことで……まぁ、一部の……男子生徒を中心に、ッス……」
「そうか……。そうだよな〜、だって思春期だもん。自分より評価の低い野郎が美人連れて歩いてりゃそうなるわな。そんで入院してんだもの、日頃の鬱憤が口に出ちゃっても仕方ないって話だわ」
「上位の鬼が現れたって話が出たのと、兄貴が保健室通り越して入院することになったってのが同時ッスからね。そりゃ噂になるッスよ。アイツ調子に乗ってたけど迷宮でやられて入院までしてやんのザマァww ……って」
「と、いうことはだ妹よ」
「と、いうことはなんスか兄貴」
「そいつらのおかげで俺の評価が低迷しているということは、だ」
「兄貴の評判が悪いってことがつまりどうなるッスか?」
「悪い噂でナメられているうちに新しい迷宮で死に戻りパワーレベリングできるってことに決まってるだろォッ!!」
「ヒュ〜ッ! 自分の悪評を打ち消すよりも利用すること考えるポジティブさッ! そこにシビれる憧れるゥ〜ッ!!」
人間とは自分の信じたいことだけを信じる生き物である。そのことを知る彼方は、悪い噂が流布されている間にレベル上げに励むことで面倒を回避しようと企んだ。
強敵・蜂眼坊に手も足も出ないまま敗北したと思い込んでいる彼方にしてみれば、今後のためにも利用できるモノは噂だろうと未知の迷宮だろうとなんでも利用しようと考えるのは当たり前のこと。
しかし学園の管理下にある迷宮では充分な稼ぎは狙えない。黄龍の巫女が四神の侍を率いても禄存の迷宮を攻略できていない状態で、モブ侍とモブ巫女が先にクリアしたなどという話が出回れば必ず厄介なことになる。
だから、外に出る。黄龍の巫女と鵺の巫女、ふたりと一緒に迷宮に挑んだクセに敗走どころか入院までした間抜けという色眼鏡が機能している現状ならばイケる。強気にエーテル結晶や素材アイテム、武器防具を集めてもきっとバレない。
「フフフ……次の迷宮はどこにしようか……?」
「ヒヒヒ……夢が広がるッスねぇ……?」
不気味に笑いながらタブレット端末を操作して地図を眺める怪しい兄妹。彼らは世界を救うために召喚された勇者ではないし、チヤホヤされたい英雄願望もない。
なのでメインストーリーはこの世界の住人に任せて欲望のままに転生を楽しむことを優先する。人助けは、あくまで自分たちにできる範囲でのこと。
だが、強くなればなるほど自然とその“できる範囲”は広がり続ける。なので本人たちにそのつもりが無くてもどんどん深みに嵌っていくことになるのだが……残念ながらそのことを指摘してくれる者は誰もいないのだ。
看護師
「先生、最近この病院で白い着物と黒い着物を着た双子の女の子の幽霊を目撃したという話が増えています」
医師
「ナニそれ知らない……こわ……」
看護師
「ちなみにその幽霊を目撃するとちょっとだけいいことが起きます。私はクジ引きで炭酸水メーカーが当たりました」
医師
「なら放置でいいか……いいのか?」