タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。 作:はめるん用
久しぶりなので初投稿です。
序盤で攻略する迷宮を一度踏破済みのメインヒロインと転校手続き感覚でしかないライバルキャラが手を組んで乗り込んだら苦戦するワケがない。
そこにステータスが平凡なまま知恵と勇気とド根性でDLCエリアのボス鬼相手に己を鍛えている程度の強さのモブキャラ転生者が同行しているのだから迷宮の主までの道のりは快適そのものであった。
その気質からザコ狩りに全く興味を示さない冥界童女は当然のことながら、さすがにこれほどまでにサクサク攻略が進むとなれば棗を守護する鵺も苦笑いするしかない。
大太刀やスキルに頼り切りになるのではなく、頭突きや膝蹴り、腕による打ち上げや裏拳の回し打ちなどの当て身技も丁寧に駆使する清々しいほどに頼もしい真白の戦闘スタイルは棗の真っ当な巫女としての戦闘スタイルにとても良く噛み合っていた。いや確かに黄龍の巫女なら拳系の熟練度も適性あるだろうけどちょっと勇敢すぎるだろ。
巫女として、というか年頃の乙女としてそれでいいのか? などと思いつつ、この義塾の侍たちも顔負けのクロスレンジでの立ち回りは同行者である彼方の影響によるものだろうなと鵺は見抜いていた。
彼方の戦い方には余裕はあっても遊びや慢心は無い。己の能力を誇示するかのような無駄な派手さなど必要としないその動きは、長い年月を暮間の人間たちと過ごしてきた鵺も唸らせるほど洗練されていた。
忌々しいが、心の底から忌々しいが彼方の頭の上でゆるキャラのように蕩けている邪悪なモチモチメスガキの人を見る目だけは本物であることを鵺は知っている。棗をあくまでひとりの転校生として扱う姿勢といい、この男に鍛えられたのであれば強く影響を受けるのも仕方ないのだろう。
しかし、それはそれとして……だ。
小僧、この状況でナニを恐れている?
格下の鬼を相手にしても油断しない姿勢は鵺としても好ましい。だが彼方のそれは心掛けや戒めとは違う、これから襲い掛かる危機に備えた確信ある雰囲気であった。
これが前に向いているのであればまだわかる。迷宮の主である双骨鬼を警戒しているのであれば鵺にも理解できたのだ。しかし彼方の戦意は前ではなく後ろへと向いており、それはまるでこれから何者かの襲撃があるかのように待ち構えているとしか思えない。
黄龍の加護を持つ巫女(仮)と鵺の加護を持つ巫女が手を組んでなお脅威となる鬼が、果たしてこの程度の規模の迷宮に出るものなのだろうか?
彼方の態度にあれこれ考え込む鵺だが、残念ながらどれだけ考察を重ねたところで答えにたどり着くことは不可能である。
何故なら。
(……やっべ〜、イベントひとつすっかり忘れてた。朝比奈と暮間の仲直りって、負けイベ挟んで入院中に起きるヤツじゃん。コレ、たぶん襲撃そのものはスキップされないよな。だって相手の目的はふたりの巫女の実力を試すことだし。つーか、仲良く協力して戦えてるせいで余計に興味をそそることになってんじゃね?)
誤解から始まる友情という大枠だけは覚えていた彼方であったが、仕込みが上手く機能してくれたことに安心して危険な戦闘イベントのことが綺麗に頭から抜け落ちていた。
イベントの流れとしては、まず仲違いしている状態の真白と棗が一度ふたりだけでじっくり話そうと迷宮に入るところからスタートする。そしてお互いを認め合うために勝負しようということで棗との戦闘が始まり、どちらかの体力が半分まで減ったところで乱入者が現れる。
頑張れば一応倒せますよ〜という無茶振りタイプの負けイベではない、こちらの攻撃が完全に無効化された上で一方的に殴られるタイプの強制的なイベントバトルである。ゲームであれば「あ〜、ハイハイ。コレ絶対に勝てないヤツな〜」と流すこともできたのだろうが……。
(システム的には猛毒+デバフのオンパレードだが、設定としては死に戻りしたあとも後遺症が残るタイプで、これまで大勢の侍や巫女を再起不能にしてきたってことだったな。といっても、精神力でどうにかなる範囲で、肉体的に損傷するとか、そういう話ではなかったけれど……う〜ん、まさか攻略対象とのイベントがあるからって見捨てるのはさすがにダメだろ常識的に考えて)
モブキャラの中には精神を蝕まれた影響で廃人となった者もいるらしいが、少なくとも真白と棗のふたりに関しては熱は無いが身体がダルい風邪程度の描写であった。
なによりこのイベントでふたりが仲直りしたあとに、現時点で好感度が一定以上の攻略対象がお見舞いにきてくれるという
特に水属性の静流がお見舞いの品として持ってきてくれるアイテムは迷宮攻略にも大いに役立ってくれる。与ダメと被ダメにボーナスが得られるお菓子についてはゲームと同じ効果が期待できるかは怪しいが、装備中に体力を自動回復してくれるアクセサリーのほうは是非とも真白に入手して装備しやがれと言いたい。
だがしかし。菓子とアクセがもらえるからと言っても入院である。症状がちょっとダルい風邪だとしてもゲーム通りなら3日も入院生活が続くことになるのである。
先手を打って真白と棗の仲を取り持ちイケメンたちとの交流の時間を奪ってしまった彼方としては、人の恋路を邪魔して馬に蹴られるような真似をあまり重ねたくはないのだが……さすがに今回のケースは原作のイベントだからと喜ぶのは難しい。特に棗に関しては完全にとばっちりもいいところだ。
(ただ、ヤツとの邂逅は今後のストーリー的に重要な意味を持つかもしれないのがな……。人間界で鬼が関わる事件が起きたときの黒幕のひとりだ、存在を知っているかそうでないかでは初動がかなり変わってしまうだろう。対応が遅れればそれだけ犠牲者が増えることになる……)
死に戻りはあくまで迷宮の中だからこその恩恵でしかない。ゲームでも迷宮攻略中の感覚のまま油断して亡くなった巫女や侍の話題が出ていたことを知る彼方としては、一般人の安全は最優先項目である。
理想的なパターンはなにか。真白と棗にはこれから襲い来る脅威を認識してもらいつつ、無事に学園に帰還してもらうこと。ならば、無銘彼方が命という名の盾になればいい。加護がなければ死に戻りも叶わず即死する、という制限があればさすがに怖気付くところだが、気合と根性で対抗できるのであれば問題ない。本人が知らないだけで精霊どころか上から数えたほうが早いレベルの強力な神霊が纏わりついているのだが。
(ま、いうてそもそもの話コレ全部もしかしたらってだけだし。起きるかもしれないイベント、それだっていつ発生するかわからんし。なんならゲームだと禄存の迷宮を攻略してからの出来事だったし。案外イケメン四人と一緒のときにやってきていい感じに撃退できたりするんじゃね? 倒せないにしてもそれなりの戦いにはなるだろ。だってよ、四神なんだぜ?)
所詮、自分は転生で知識だけがあるモブキャラなのだ。偶然が重なって主人公だけでなくライバルとも縁ができたが、だからといってメインストーリーの進行に表立って深く関わる必要はない。
四神の侍たちと一緒に、禄存の迷宮の攻略は順調に進めている。ライバルである鵺の巫女との関係も良好。ならば、よほど運命がねじ曲がるようなことでもなければ自分の出番などもうないだろうと気持ちを明るく前向きに切り替える転生者。
そして、そんな転生者の頭の上でダルダルに緩んでいた運命を粘土細工のように弄ぶ力を持つ神霊は────巨門の迷宮では絶対に発生するはずのない、発生してはならない禍々しいエーテルを内包した侵入者の存在を感知して滅多に見せないシリアス顔になっていた。
つまりは、そういうことである。
その気配に彼方が気付いたのは、もう少しで真白と棗が双骨鬼の討伐に成功するというタイミングであった。
日頃の地道な瞑想によりエーテル感知能力が研ぎ澄まされている彼方の耳に、不吉の到来を告げる錫杖の音がしゃらりと絡みついた。
冥界童女
『どうしよう! 推しのステータスじゃ絶対に勝ち目のない妖気を持つ鬼が侵入してきちゃったわ! このままじゃ黄龍の巫女と鵺の巫女の力を借りてもライフはゼロにされてしまう! これからいったいどうなっちゃうの〜!?』
黄龍
『ほんならお前、因果を捻じ曲げて助けるんか?』
冥界童女
『のワの』
黄龍
『知ってた』