タフネス系乙女ゲー主人公VS一般転生モブ兄妹VS出遅れたイケメンども。   作:はめるん用

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だいたいこんな感じ。

 それは、もしかしたら存在したかもしれない可能性の世界線。

 

 ある日突然、巫女としての力に目覚めたひとりの少女が否応なしに鬼との戦いに身を投じる物語。

 仲間であるはずの巫女や侍たちから負の感情が込められた視線を向けられて、それでも人々の平和のためならばと恐怖を押し殺し単独で迷宮に挑む。そして磨耗した心には、1度は突き放してきた相手であろうとも差し出された手を振り払うほどの力は残っておらず──。

 

 

 などという世界線とは全く無縁の貪狼の迷宮・第1階層の暗い森を、黄龍の巫女(仮)の朝比奈真白と一般モブ侍の無銘彼方は鬼を蹴散らしながらズンズンと奥へ進んでいた。

 彼方が所有する魔法スキル『強い魔法の武器』が使用できるレベルまで無属性の適性を上げるため、現在の戦闘で真白が使用しているのは霊気の矢……ではなく、ワンランク下の『魔法の武器』により無属性の霊気が付与されたバトルアクスであった。

 

 霊気の矢は早々に使いきった。あるいは、彼女が孤独に鬼たちとの殺し合いに身を投じていれば強制的に命中率も鍛えられたのかもしれない。だが真白には彼方という頼れる侍が側にいる。故に本人の技術的な部分の成長は常識的な速度なのだ。

 その代わり、というワケではないが適性レベルの上昇はかなりの駆け足であった。ぶっちゃけると彼方への誤射でもバッチリ経験値が加算されたため、攻略の途中で魔法の武器が使えるようになってしまったのだ。

 

 真白と彼方のレベル差と、彼方が侍でありながら各種魔法系の適性を鍛えていたからこそ起こった嬉しい誤算と言えるだろう。本来ならば巫女と侍は同じぐらいのレベルでパーティーを組むし、普通の侍たちは魔法スキルには頼らず属性を宿す武器スキルを使用する。まさに偶然と幸運の賜物である。

 

 そして。

 

(うーん。パーティーを組んでいる間は侍の人が貰ったエーテルも巫女と半分こになっちゃうって、やっぱりちょっとズルいような気がするなー。そりゃ~学園から私に協力しなさい! って言われたら面白くないのもわかるけど……別に私が頼んだワケじゃないんだけどな~)

 

 巫女が鬼を倒したとき、鬼が蓄えていたエーテルは全て巫女のものとなる。

 

 だが侍が鬼を倒したときは、鬼が蓄えていたエーテルの半分は巫女へと流れてしまう。

 

 こうして実際に彼方と一緒にダンジョン攻略をしてみたことで、学園の男子たちはもちろん特別待遇に女子たちが不満を持つのは充分理解できるようになった。

 だが巫女と侍の関係を決めたのは自分ではないし、黄龍の巫女だからチヤホヤしろと学園に要求したこともない。自分に責任が無い、 ハズのことで文句を言われても困るというものだ。

 

 とはいえ。

 

(ま、燕三条先輩はイイ人だし、無銘くんは優しいし、凪菜ちゃんも第1階層を攻略できたらパーティー組もうって言ってくれたし、どうにもならないことで悩むのは時間がもったいないよね! まずは第1階層のボス鬼をバトルアクスで真っ二つにしてから考えよう!)

 

 ウジウジ悩むのは真白の趣味ではないし、余計なことに気を取られてやられてしまうのは仲間である彼方に対して失礼というもの。まずはダンジョンの攻略を終了させてからこれからのことを考えようと、迫ってきた骸骨の頭目掛けてそぉぉいッ!! と斧を振り下ろすのであった。

 

 

 ◇◆◇◆

 

 

「さて、いよいよメインディッシュの時間か。とりあえず周囲の雑魚は俺に任せて朝比奈は大将首で力試ししたくして仕方ないって感じだな。お前役割分担って言葉知ってる? 俺さ、侍なの。巫女のお前を護るのが役目なの」

 

「私だってちゃんと戦えるんだよッ! 無銘くんに護られてるだけじゃなくて、私も隣に立って戦えるって証明してみせるッ!」

 

「だからそれが俺の役目だって言ってんだよ。なんかヒロインっぽいセリフ言ってるけどワクワクしてんの見ただけでわかるんだよ。ったく、負けそうになったら首根っこ引っ掴んで逃げるからな」

 

「そこで『代わりに俺が戦う!』ってならないところが無銘くんのイイところだよね」

 

「そりゃ止めないさ。失敗しても取り返しがつくなら学習のチャンスだからな。格好よく勝つところ、期待してる──ぞッ!!」

 

 鬼たちの群れに向かって飛び出した無銘が、投擲の武器スキルを発動し爆発するクナイを周囲へ投げる。といっても爆発にはほとんど攻撃力は無く、衝撃と黒煙による牽制を目的としたものだ。

 その隙に真白がバトルアクスを魔法の武器で強化し、貪狼の迷宮・第1階層のボスである鎧武者姿の鬼へと接近する。ほぼ不意打ちとなる一撃で先手を狙うものの、相手は最下層とはいえ迷宮の支配者クラス。惜しいところで真白の斧は鬼が手にした刀で防がれてしまった。

 

 迷わず距離をとって下段に斧を構え直す。その姿はどう見ても巫女の戦闘スタイルではないのだが、当の本人はわりと満足そうに笑っている。

 

 案ずるより産むが易し。頭がモヤモヤするときは思いっきり身体を動かすのが一番スッキリできるというもの。自分が望んで手に入れた力ではないが、巫女として目覚めた以上鬼との戦いからは逃げられない。それに、いままで自分が平和に暮らせていたのは巫女と侍たちが迷宮の外に鬼たちが溢れ出てこないように頑張っていてくれたからなのだ。

 今度は自分が護る番になった、ただそれだけのこと。そして巫女の力から逃げられないならばこの状況、ひとつでも楽しみを見つけてトコトンやってやろうじゃないかとすっかりヤル気モードなのである。

 

 もちろん巫女の使命に対して前向きになったからといって斧を構えて鬼に正面から殴りかかる必要性は全く無いのだが。

 

「ちぇりおーッ!!」

 

「ゴォォォォッ!!」

 

 適性レベルが成長したおかげで軽々と振り回すことはできるが、それでも真白の斧の扱い方はまだまだ駆け出しの侍と同レベル。そして相手の鬼も最下層のボスということで力任せに刀を叩き付けるような戦い方しかしてこない。

 結果、ひとりと1匹の戦いはお手本のような脳筋と脳筋の正面衝突となる。駆け引き? なにそれ美味しいの? 状態で斧と刀がぶつかり合い火花を散らして弾かれてはまた正面へ突撃の繰り返しである。重ねて言うが、朝比奈真白は巫女であって侍ではない。

 

 互角の打ち合いを続けていた両者であったが、まだまだレベルの低い真白ではスタミナが長持ちしなかった。ついには打ち負けてバトルアクスを手放してしまう。

 

 これで終わりと刀を振り上げ迫る鬼ッ! 武器を失い、霊気の矢を使いきり、ほかの魔法スキルをまったく取得していない真白に攻撃手段は残されていないッ! 絶体絶命のピンチであるッ!! やられても迷宮から強制的に排出されるだけだがッ!! 

 

(──いや、まだ終わりじゃない! 斧はないけど私の身体はまだ動く! それに、簡単に諦めちゃったら私を信じてボスを任せてくれた無銘くんの期待を裏切ることになっちゃう!)

 

 とはいえ、錫杖を予備の装備スロットから呼び出して殴ったところで鎧相手では与えられるダメージなどたかが知れている。半端な攻撃では鬼の刀は止められない。

 なにか方法はないかと頭をフル回転させながら、せめてもの抵抗として鬼を睨み付けていた真白はとある可能性にたどり着く。成功率はかなり低いだろうが、なにもしないまま敗けを認めるよりはずっといい。

 

「──てぇいッ!!」

 

「ゴォッ!!」

 

 真白が錫杖を投げるッ! 

 

 しかし刀で容易く弾かれたッ! 

 

 だがそれで構わない。ほんの一瞬だが鬼の動きを止めることができた。そのわずかな時間で真白は両手に残された霊気を集中させ、鬼の懐へと一気に潜り込み──。

 

 

 

 

 

 

「奥義、オーガニック魔眼殺しッ!!」

 

「オ゛オ゛オ゛オ゛ッ!?!?」

 

 

 

 

 

 

 親指を鬼の眼球に突き刺したッ! 

 

「うわぁ……」

「ウボァ……」

 

 まさに起死回生、まさに乾坤一擲の一撃ッ!! 

 

 周囲で戦っていた彼方だけでなく取り巻きの鬼すらも、思わず手を止めて見惚れてしまうほどの潔さに満ちた覚悟の反撃であるッ!! 

 

 力のある鬼は多少の怪我など簡単に再生してしまうが、黄龍の加護を持つ巫女の霊気はやはり特別なのだろう。武者鬼は持っていた刀を投げ捨てて顔面を両手で押さえてゴロゴロと地面を転がっている。

 もちろんこんな大チャンスを黙って放置する真白ではない。バトルアクスと錫杖を拾い、再び魔法の武器を使用して武者鬼を仕留めるべく近付いた。

 

 ちなみにこのボス鬼は別に魔眼のスキルなどは持っていない。

 

「アナタに恨みはないけれど、私は巫女としての役目を果たすって決めたの。あと、凪菜ちゃんからアナタが落とす素材を使えば売店で売ってるものより強い武器が作れるって教えてもらったの。だから私は迷わないッ! てやぁぁぁぁッ!!」

 

「オ゛────」

 

「……ふぅ。えーと、この残った宝石みたいなのがエーテル結晶かぁ。砕いて経験値にしたりスキルを覚えるのに使ったりもできるらしいけど、まずはやっぱり武器かなぁ。あとで凪菜ちゃんや雅先輩にも相談しよっと。──ゴホン。敵将、討ち取ったりッ!!」

 

 黄龍の巫女(仮)朝比奈真白、貪狼の迷宮・第1階層を威風堂々と制覇! 

 これには後ろで見ていた無銘彼方も「……とりあえず勝てたからヨシ!」と大満足である!




原作主人公が少しだけヤベー奴に見えるかもしれませんがご安心ください。まだまだこれからです。

転生者視点と三人称視点を交互に試してみましたが、なんとなくしっくりこなかったので次回からは独立型フリースタイル地の文形式でいこうと思います。
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