世界の巨匠、黒澤明監督もお気に入りで、スタッフに見るよう指示したらしい。40年前の春に封切られた映画「さびしんぼう」は大林宣彦監督の「尾道三部作」の一つ。カメラ好きの少年の初恋を、冬の情景の中に描いた▲ノスタルジーあふれる名作をDVDで見直す。尾道水道の渡船が絶妙な舞台装置であることに改めて気付く。憧れの少女が対岸から自転車で乗ってくる。桟橋で待つ少年の一眼レフのファインダーが、その姿を捉える▲ヒロインを演じた富田靖子さんの高校の冬休みを使った、慌ただしいロケ。協力したのが福本渡船(現福本フェリー)だ。たそがれの水道を背に、少年役の尾美としのりさんと見つめ合う船上シーンの美しさも際立つ▲開業135年余り。尾道と向島を結ぶ航路の一つとして歴史を刻んだこのフェリーが31日で姿を消す。桟橋の老朽化などが響いたという。大林ファンの聖地であり、惜しむ声も尽きない▲尾道に立ち寄って久々に乗った。大人60円、自転車なら70円と昭和に戻ったよう。3分の船旅で見える一帯のたたずまいは変わったが、高校生が乗ってくる夕方の光景が映画と重なる。フィルムと同じく心に焼き付けようと思った。