名古屋市交通局の地下鉄は化け物か!?
以下のページで、地下鉄の運転シミュレーションができる。
きみも地下鉄運転士|ゲームで学ぼう|名古屋市交通局ハッチーキッズサイト
やってみると、これまでの電車運転ゲームの常識が通用しない、滅茶苦茶クセがスゴい仕様になっていた。
基本的な情報
最初にいくつかの区間 (それぞれ数駅からなる) からステージを選択し、地下鉄の運転を行う。
操作はワンハンドル型で、力行は1~4の4段階、ブレーキは1~7と非常の8段階である。抑速は無い。
規定の時間から15秒遅れるか、3mオーバーランすると、その駅への運転は強制終了 (次の駅に向かうか、タイトルに戻るかを選べる) となる。
規定の時間から遅れて駅に到着しても、次の駅までの規定の時間に変化は見られない。(延着してもその分次の駅までにかけられる時間が減ることはなさそうである)
ノッチの切り替えは、画面に表示されているハンドルを上下にドラッグすることで、1段階ずつ切り替える。
今のところ、キーボードで操作する方法や、複数段一気に切り替える方法は見つけられていない。
画面上に表示されているボタンをクリックすることで操作する運転シミュレータとしては
きみも西武鉄道の運転士! | 西武鉄道キッズ
があるが、本作は単にクリックするだけでなくドラッグが要求され、さらに一段操作が難しくなっている。
駅に停車中は、ノッチが切で固定され、操作できないようである。(転動防止できない)
「高畑~本陣区間」ステージで最初に停車する駅である八田の映像を見ると、駅構内への進入を開始する時点での停止位置目標までの残り距離は約65mであった。
また、ホームドアの開く部分は18個あるようである。
市バスや地下鉄でおでかけしよう|おでかけしよう|名古屋市交通局ハッチーキッズサイト
に掲載されている地下鉄案内図と照らし合わせると、現在選択できるステージは、すべて東山線に対応するようである。
市バス・地下鉄車両図鑑|図鑑で学ぼう|名古屋市交通局ハッチーキッズサイト
に掲載されている動画を見ると、東山線はN1000形・5050形ともに3ドア車のようである。
よって、この八田駅のホームは6両分あるようだ。
駅付近の時空が歪んでいる
実際に運転をしてみると、どうも到着が遅れがちになってしまう。
よく見ると、36km/h = 10m/s のはずなのに、どうも 36km/h くらいの表示のときに1秒で進む距離が 10m より明らかに短そうである。
これはおかしい。
でも、2点の残り距離と時刻を見て計算すると、きちんと表示されている速度とだいたいあっているようだったし……?
というわけで、詳しく調べてみることにした。
運転の様子をOBSで録画し、FFmpeg で画像に分解したものから自作ソフトのなこリーダーで各種の数値を抽出し、Gnuplotでグラフを作成した。
以下は、ある回の運転曲線である。
表示されている速度に加え、残り時間と残り距離の変化から計算した速度 (実測速度) もプロットした。
運転の中盤では、表示された速度と実測速度がだいたい一致している。
差が出ているのは、残り時間や残り距離の表示における丸めの影響だろう。
しかし、序盤と終盤では、表示された速度と実測速度が大幅にずれている。
特に終盤では、実際の速度は表示された速度の半分程度となっている。
これが、速度と残り距離の表示を参考に停車しようとすると、すぐに遅延してしまう原因だろう。
さらに不思議なのは、ある点を境に、実測速度が一気に変化しているということである。
すなわち、計算の精度が悪いというより、時空が歪んでいるというべき挙動である。
同じ「名古屋」関係の鉄道運転シミュレーションゲームである
Steam:鉄道にっぽん!RealPro 名古屋鉄道編 PC Edition
では、「モニタのリフレッシュレートが60fpsでないと時間の進み方がおかしくなる」という主張があった。
しかし、本作については、リフレッシュレートを 165.01Hz から 60.02Hz に変更しても、動作は改善しないようであった。
時空の歪みのトリガーが位置なのか時刻なのかを確かめるため、あえて序盤にゆっくり走ってみた。
さらに、これら2回の運転における表示速度と実測速度の差を、位置や時刻ごとに比較した。
位置を基準にした比較では、2回の運転で表示速度と実測速度の差が少なくなるエリアがだいたい同じになっているが、時刻を基準にした比較では、2回の運転で表示速度と実測速度の差が少なくなるエリアに明らかに差がある。
よって、(少なくとも高畑から八田の区間においては) 経過時間にかかわらず、駅の前後約170mのエリアで時空の歪みが発生しているらしいことがわかった。
残り時間も狂う
速度の調査において、時々実測速度が明らかに小さい値になったり負の値になったりと、おかしくなることがあった。
データを確認すると、残り時間の表示が「01:28:81 → 01:28:07 → 01:28:59」など、いきなり飛んだり戻ったりすることがあることがわかった。
録画データから変換した連番画像を確認し、これは自作ソフトによる読み取りのミスではなく実際にこう表示されていることを確認した。
複数のフレームで連続して同じ値が表示されており、その連続するフレーム数はまわりの正常なフレームと同程度であることから、値が変化中の中途半端な状態がキャプチャされたわけでもないと考えられる。
残り時間の小数第2位が「0」のとき、本来は「01:28:70」と表示するべきところを、何らかの原因で数値が入れ替わってしまい、「01:28:07」と表示してしまっている可能性が考えられる。
加速力がすさまじい
時空の歪みが無く、表示されている速度が信用できると考えられる高畑から八田の残り700m~200mのエリアを用いて、それぞれの力行段における加速のしかたを調べた。
このエリア内で一旦停車した後、ノッチを素早く調べる段に投入し、経過時間と速度の関係を調べた。
なお、この区間に勾配があるかどうかはわからない。
結果は、以下のようになった。
どの力行段においても、時間経過とともにきれいな直線状に速度が上がっていった。
時々外れた点があるのは、「残り時間も狂う」影響だろう。
さらに、65km/h に達すると、どの力行段においてもピタッと加速が止まり、65km/h を維持するようだった。
比較として、以前
IchigoJam で電車運転シミュレーション? #BASIC - Qiita
で調査を行った TRAIN CREW の5300形の加速には、以下の特徴がある。
ある程度まで速度を上げると、加速度がだんだん下がり始める
最低の P1 では、20km/h 程度までしか加速しない
一方、本作においては、速度を上げていっても 65km/h 未満であれば全く加速度は落ちないようであるし、最低の P1 であっても他の段と同じ 65km/h まで加速できる。
とはいえ、TRAIN CREW の5300形も、逆にある程度の速度まではだいたい一定の加速度で加速した。
しかし、本作の車両がすごいのは、その加速度自体である。
ノッチ投入から 65km/h に達するまでの時間に基づき、それぞれの段における加速度を計算すると、以下のようになった。
P1:1.72 km/h/s (0.48 m/s²)
P2:3.45 km/h/s (0.96 m/s²)
P3:5.23 km/h/s (1.45 m/s²)
P4:6.63 km/h/s (1.84 m/s²)
これはすさまじい加速力である。
(ただし、P2 以上においてはノッチ投入操作にかかる時間でより低位のノッチでの加速が行われるため、ノッチ投入からの加速幅は 65km/h より小さく、実際の加速度はこの値より若干 (0.2 km/h/s 程度) 低い)
によると、通常の電車の加速度は 2.5 km/h/s 前後、札幌市交通局南北線 (ゴムタイヤ) の加速度は 4.0 km/h/s、阪神電鉄の「ジェットカー」(5001形) の加速度は 4.5 km/h/s とのことである。
本作の車両の最高加速度の 6.63 km/h/s は、これらの車両の加速度のおよそ1.5倍という、すさまじい値なのである。
ブレーキの効きも無茶苦茶すさまじい
加速力の調査と同様に、ブレーキの各段における減速のしかたを調べた。
残り 700m の地点までに 65km/h まで加速した後 P1 に入れて速度を維持し、残り 700m の地点を通過したら素早くノッチを調べる段に投入した。
結果は以下のようになった。
なお、ノッチを操作する時間で減速する影響を抑えるため、速度が 60km/h 以下になったタイミングを基準にしている。
また、ノッチ「切」では残り 200m を過ぎても停車しなかったため、時空の歪みの影響を避けるため残り 200m 地点でプロットを打ち切った。
ノッチに応じて減速度は一定のようであり、これは普通のことであると考えられる。
しかし、やはりその減速度が無茶苦茶すごい値になっている。
具体的には、60km/h から停車までの時間 (ノッチ「切」では残り 200m までの時間と残り 200m での速度) に基づく各ノッチでの減速度は、以下のようになっていた。
切:0.67 km/h/s (0.19 m/s²)
B1:1.35 km/h/s (0.38 m/s²)
B2:2.73 km/h/s (0.76 m/s²)
B3:4.05 km/h/s (1.12 m/s²)
B4:5.40 km/h/s (1.50 m/s²)
B5:7.40 km/h/s (2.06 m/s²)
B6:10.20 km/h/s (2.83 m/s²)
B7:13.42 km/h/s (3.73 m/s²)
非常:32.43 km/h/s (9.01 m/s²)
いやー、すごいね。
列車は急には止まれない! クルマと大きく異なる鉄道ブレーキ事情 - (2) | 乗りものニュース
によると、日本の鉄道車両の非常ブレーキの減速度は 4~4.5km/h/s 程度らしい。
本作の車両は、この水準にB3で到達してしまう。
さらに、ヨーロッパの路面電車では 10km/h/s の減速度を実現していると主張しているが、この水準にも常用ブレーキのB6で到達してしまう。
また、裏付けを見つけられず真偽は不明だが、シカゴLの車両は約 16km/h/s の減速度で「社内の人が吹っ飛ぶ」と主張している投稿がある。
電磁吸着ブレーキ、シカゴを走るシカゴLの車両も基本的に全車装備されてて、緊急時にブレーキを掛ける目的で付いていました。
— ぶたごりら (@buhibuhiuhohoho) January 27, 2024
減速度は確か約16km/h/s(日本の電車の非常の4倍近く)。使うと車内の人が吹っ飛ぶ。 pic.twitter.com/2FYiRYp6G4
本作の車両の常用ブレーキはこれには及ばないが、非常ブレーキの減速度は 32.43 km/h/s となっており、なんとこの約2倍である。
ちなみに、60km/h から停車までの走行距離は、B7 で 34.6m、非常ブレーキで 14.8m であった。
制動距離と空走距離とは。停止距離の計算方法|チューリッヒ
によると、普通自動車の 60km/h からの制動距離 (ブレーキが効き始めてから停車までに走行する距離) は 27m となっているので、本作の車両の非常ブレーキを用いると自動車よりも素早く停車することができる、といえるだろう。
まとめ
きみも地下鉄運転士|ゲームで学ぼう|名古屋市交通局ハッチーキッズサイト
には以下の特徴があり、通常の電車運転ゲームとはひと味違ったものになっている。
残り時間の表示が時々おかしくなる
すごい速さで加速ができる
無茶苦茶すごい速さで減速ができる
駅の周辺では時空が歪み、残り距離の表示がおかしくなる
残り時間の表示のおかしさは、録画してログを取ると影響を受けるが、普通にプレイする分には目立たない。
加速や減速は、無茶苦茶速い段もあるものの、まともな速さの段もあり、速いだけで直線的な特性となっているので、そこまで致命的ではないだろう。
しかし、時空の歪みはヤバい。
一瞬だけおかしくなる残り時間の表示とは違って、該当する (十分広い) エリア内では常におかしくなるし、プレイする上で普通に参照しうる情報である。
そして、何も知らずに普通の電車運転ゲームの感覚でやると、実際の進みは表示より遅くなるため、大遅延・失格になりやすくなってしまうのである。
いったい、どうしてこんなことになっているのだろうか?
もし、走行距離の調整などの関係で歪ませなければならなかったとしても、停車の調整を行う駅周辺ではなく、あまり深く考えずに通り過ぎがちな中間部分のほうを歪ませることはできなかったのだろうか?
運転のコツ
これまで見てきた特徴を踏まえると、クセがスゴい本作の車両をなるべく普通に運転するには、以下の点に注意するのがよさそうだ。
P2~B2 のみを使う (B3 は非常ブレーキ相当)
残り距離の表示は見ない
最大の P4 に入れるとものすごい加速を見せる車両だが、P2 であれば十分あり得る程度の加速である。
さらに、ブレーキも強い段数に入れると無茶苦茶減速するが、B1 で通常の B2 程度、B2 で通常の B4 程度、B3 で通常の非常ブレーキ程度の減速となるため、これらのみを使えば普通に運転できるかもしれない。
「切」(通常の B1 程度?) を入れても常用ブレーキが3段しかないことになるが、たとえば「3段制動2段弛め」をする場合はどっちみちブレーキは3段 (3種類) しか使えないので、あり得ない設定ではないだろう。
狂った残り距離表示は、見るから引っ張られて遅延するので、見ないのがよいだろう。
本物の電車には速度計はあっても残り距離表示は無い (ものが多い?) のであり、残り距離表示の参照は甘えである。
UI非表示のオプションはなさそうなので、見えてしまうのが問題であれば別のウィンドウを重ねて隠すのがいいだろう。
きちんとした定量的な評価はしていないが、時空の歪みの有無が切り替わるポイントを通過しても急に景色の流れ方が速くなったり遅くなったりする様子は見られなかったので、景色はまともだろうと推測できる。
おまけ
本作の車両も通常の列車と比較するととんでもない減速ができる化け物であるが、もっとものすごい超急減速をする車両がある。
この動画では、50m オーバー地点を 187km/h で通過した後急減速し、71m オーバー地点で停止する。
すなわち、21m 進む間に 187km/h 減速したということである。
このことから、この間の減速度は一定であったと仮定すると、減速度は 231.28 km/h/s (64.24 m/s²) となる。
これは本作の車両の非常ブレーキの約7倍の減速度であり、文字通り桁違いの化け物である。
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