トランプ大統領は就任以来、「反ユダヤ主義的な行動は容認しない」として、パレスチナ問題をめぐる抗議活動に参加してきた学生や、抗議が行われてきた大学への圧力を強めています。
ことし1月には「反ユダヤ主義的な嫌がらせや暴力の加害者には、訴追、追放、またはほかの方法で責任を問う」として、反ユダヤ主義的な行動をした留学生は入国を認めないようにしたり、国外に追放したりするとする大統領令に署名しました。
“イスラエルへの抗議活動”にトランプ政権が圧力 広がる波紋
パレスチナのガザ地区への攻撃を再開したイスラエル軍。
強硬な姿勢を続けるイスラエルに各地で抗議の声が上がる一方、イスラエル寄りの姿勢を鮮明にしているアメリカ・トランプ大統領は、パレスチナ問題をめぐる抗議活動への圧力を強めていて波紋が広がっています。
トランプ大統領 “反ユダヤ主義的な行動は容認しない”
大学での学生たちの抗議活動に警察が突入も
ニューヨークのコロンビア大学は、去年、イスラエルによるガザ地区への攻撃に対する学生たちの抗議活動により、大学の施設の一部が占拠され、警察が突入する激しい衝突の現場となりました。
この時期に学生と大学当局の仲介役を務め、名前と顔を出してメディアの取材にも応じてきたのが、コロンビア大学の大学院に通っていたマフムード・カリル氏でした。
パレスチナ人の両親を持つカリル氏は3月8日、アメリカへの永住権を持っているにもかかわらず、移民関税捜査局によって学生寮で拘束され、その後、ルイジアナ州の施設などに送られました。
カリル氏の側は「憲法で守られた言論や主張に対し、拘束や強制退去などの措置をとることは憲法に違反している」として、拘束は不当だとする訴えを起こしているほか、自らの拘束は「パレスチナ人に対する差別だ」などと主張しています。
カリル氏の拘束後、ニューヨークでは連日のように釈放を求める抗議デモが、大学や裁判所の前などで行われています。
デモに参加していた別の大学の学生
「カリル氏の逮捕は完全に政治的な逮捕です。言論の自由を非常に心配しています」
また、NHKのインタビューに顔と名前を明かさないという条件で応じたコロンビア大学の学生は次のように話しています。
コロンビア大学の学生
「カリル氏は好感の持てる人物で過激なところは無かったが、公に行動していたので、標的にされやすかった。逮捕後は特に留学生の間ではどんな理由でビザを取り消されるかわからないと不安が広がっている。意見を言うことを恐れなければならない大学になんて在籍したくない。いまアメリカで起きていることは他の権威主義的な国で起きていることと変わらない。夢をもってここに来たのに、失望と悲しみ、そして怒りを感じる」
トランプ政権 大学に対し助成金を取り消すなどの圧力も
国土安全保障省は今月9日、カリル氏の拘束は大統領令に基づくものだと発表しています。
トランプ大統領はSNSへの投稿で、カリル氏を「過激な親ハマスの外国人学生」と呼んだうえで、「これから続く多くの拘束者の最初の1人だ。全米の大学で親テロリスト、反ユダヤ主義、反米活動を行った学生たちがもっといる。トランプ政権は容認しない」としています。
またトランプ政権は7日、カリル氏が通ったニューヨークのコロンビア大学に対し、およそ4億ドル、日本円でおよそ590億円の助成金や契約を取り消すと明らかにしました。
発表では「コロンビア大学はあまりにも長くユダヤ人学生を守る義務を怠ってきた」と主張し、今後、ほかの大学も対象になると警告しています。
コロンビア大学 “構内での抗議活動への対応を強化する”
これを受けてコロンビア大学は21日、大学構内での抗議活動への対応を強化するとしたうえで、従わない人を拘束する権限を持った警備員を配備すること、そして中東に関する教育プログラムを見直すことなどを決定したと発表しました。
コロンビア大学の前で学生たちの抗議デモに対抗して、イスラエル国旗を掲げていたユダヤ系アメリカ人の男性は、トランプ大統領の対応を支持したうえで、「特に若い人たちの間でとても強い反イスラエル感情があるという調査があり、それが反ユダヤ主義につながっている。ユダヤ人の大量虐殺ホロコーストについての教育が失敗した結果だ」と話していました。
コロンビア大教授 現状に懸念示す
コロンビア大学でユダヤ人の大量虐殺「ホロコースト」やフェミニズムについて教えているユダヤ系のマリアンヌ・ハーシュ教授は、トランプ政権が「反ユダヤ主義」を理由に、大学や学生などへの圧力を強めていることについて、NHKのインタビューに対し「学生による抗議活動へのこれほどの弾圧は初めてだ。言論への恐怖も感じる。多くの学生が政治的な発言が原因で告発され、停学や退学の処分を受けている」と述べて懸念を示しました。
そのうえで「彼らは『反ユダヤ主義』などではなかった。イスラエルという国家への批判はユダヤ人に対する偏見や憎悪ではない。この2つを明確に区別することが非常に重要だ。イスラエルへのあらゆる批判を反ユダヤ主義的な行為だとみなすのは間違っている」と批判しました。
ハーシュ教授は冷戦時代に言論の自由のない旧共産圏のルーマニアから12歳のときに家族とともにアメリカへ逃れてきた経験の持ち主で「カリル氏が、政治的な発言により拘束されたと知ったが、ひどいものだ。秘密警察がドアをたたいて両親を連れ去ってしまうのではという私が子どもの頃の悪夢がよみがえった」と話していました。
そして自らの経験や研究を踏まえ「独裁やファシズムが民主的な手段を通じて、正当化されることがある。しかもそれは非常に素早く進行する。だから私は人々にいまこそ声を上げるべきだと伝えたい。声を上げられなくなるときが来るかもしれないからだ」とアメリカの現状に警鐘を鳴らしていました。
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