ラーメン2千円、ランチのすしは1万円…「植民地みたいな」北海道・ニセコでにぎわう訪日客、物価高のしわ寄せは住民に
1月8日、正午過ぎ。北国らしいどんよりとした曇り空の下、色鮮やかなウエアに身を包んだ大勢の訪日客が目抜き通りを行き交っていた。レストランに入る家族、キッチンカーの前でたむろする若者の集団、コンビニで大量の食材を買い込む女性―。観光客のような迷ったそぶりは誰ひとりとして見せない。ここが日本であることを忘れてしまうかのような光景が広がっていた。 【写真】JR北海道の「日本人お断り」観光列車 そこには「大人の事情」が
北海道・ニセコ地域は、さらさらしたパウダースノーや滞在環境の良さでとりわけ外国人からの人気が高い。案内板の多くは英語で書かれ、外資系のホテルが立ち並ぶ。 山のにぎわいを横目に、麓の住民は吐き捨てるように言い放った。「あそこ(スキー場周辺)は植民地みたいなもの」。外国化が進むニセコの実態を現地で取材した。(共同通信・中尾聡一郎) ▽コンビニに4万円の高級シャンパン、街は異次元の世界 訪日客でごった返す「ニセコひらふ」(北海道倶知安町)の一帯には、記者が確認する限り、日本人をターゲットにしたような店は一つも見当たらなかった。 値段の高さが目を引いたある飲食店の看板は、4730円のすしセットや9240円の刺し身定食、4万6200円の刺し身の盛り合わせといったメニューの全てが英語で紹介されていた。 コンビニのセイコーマートやローソンでも、おにぎりやパンの近くに数千円するイチゴのパックが雑然と置かれ、ペットボトル飲料のそばには4万円以上する高級シャンパン「ドン・ペリニヨン」が並んでいた。 冬季に限って営業するキッチンカーも品ぞろえは当然、外国人向け。牛肉のステーキをパンに挟んだサンドイッチは5千円、ラーメンは2千円、ツナの手巻き寿司は千円で売られていた。手頃な価格の商品を探すのは困難だ。1箱2万円のウニを扱う店の女性スタッフは「中国系の人がたまに買っていく」と話した。
すし店から出てきた訪日客に、価格の感想を聞いてみた。昼食に約1万円のすしを食べたというオーストラリア人の女性は「中価格帯だ」と言い切った。オーストラリアで生の魚を食べようとするともっとお金がかかるという。 中国人の男性は「安いとは思わない」と言った後、こう続けた。「欧州の観光地はもっと高い。それを考えると普通の値段だ」 ▽強気の価格、事業者側の言い分は 訪日客の金銭感覚につられ、事業者の価格設定も強気になっている。あるキッチンカーのスタッフは「安くすると、粗悪品と誤解されて売れなくなるリスクがあるんです」と解説してくれた。複数の事業者によると、独特の品ぞろえや価格帯は事業者間に流れるあうんの呼吸で形成されていくのだという。 ニセコエリアの北海道蘭越町で民泊を営む男性は、8万8000円だった宿泊料を今季は9万9000円へと10%超引き上げた。3月半ばまで予約が埋まっているという人気ぶりだが、価格を引き上げた理由は需給ではなく「円安」だと説明する。外貨ベースでは値上げ幅が縮まるため、訪日客にそれほど負担感を与えずアップできることが念頭にあり、男性は「周りの民泊もそろって値上げをしている」と明かす。