ジュディス・バトラーによるセカンドレイプ文書およびそれへの「後悔文」の日本語訳

注意:性暴力の具体的描写は書いてありませんが、性暴力やセカンドレイプについての文章です。フラッシュバックなどの恐れがある方は、読むのを控えるか、ご自身のメンタルを第一に考えて、休憩を挟みながら読んでいただけるとうれしいです。どうか無理はしないでください。

《やくしゃまえがき》

アヴィタル・ロネルは指導学生に性暴力を振るいました。にもかかわらず、ロネルは現在もニューヨーク大学で教授をしています。ロネルが指導学生にセクシュアルハラスメントを告発されたことを受けて、2018年5月18日に多くのアカデミア関係者たちがニューヨーク大学に対し処罰すべきでないという趣旨の手紙を出しました。その理由は、ロネルの「功績」にあると述べられています。まさしくセカンドレイプです。その手紙の署名の1番上いるのがジュディス・バトラーです。バトラーはこの件について、3ヶ月後に、到底謝罪文とは呼べない酷い「後悔文」を出しています。本ブログでは、バトラーがサインした手紙、及び「後悔文」の日本語訳を載せます。

【重要】酷いフェミニストがいることは、フェミニズムがクソであることを意味しません。クィア研究者が加害を行っていたことは、クィアの人権を迫害していい理由にはなりません。クィア運動を否定していい理由にもなりません。バトラーおよびロネル、その他この件にかかわる哲学者への批判を、クィアやフェミニストへの人権迫害に利用することに、私は強く反対します。

バトラーが、クィアの人権運動に対し確かな「功績」を残したこと、クィアの生を肯定する理論を打ち出してきたことは、その通りかもしれませんが、たとえ理論がなかったとしても、クィアたちはこれまでもこれからも存在します。


《セカンドレイプ文日本語訳》

2018年5月11日

ニューヨーク大学学長 アンドリュー・ハミルトン

ニューヨーク大学学部長 キャサリン・フレミング

親愛なる、学長アンドリュー・ハミルトンと学部長キャサリン・フレミングへ

私たちはアヴィタル・ロネルの長年に渡る同僚としてこの文章を書いています。ロネルは、ニューヨーク大学のタイトルⅪオフィス(セクシュアルハラスメントを扱うオフィス)にて捜査を受けています。私たちはこの件についての機密文書にアクセスすることが全くできません。しかし、私たちは皆、ロネル教授のすぐそばで長年働き、教師として、学者として、またニューヨーク大学のドイツ文学科と比較文学科の両方の学科長を務めた者としての、彼女の能力に対する私たちの見方を裏付ける長年の経験を積み重ねてきました。私たちは皆、ロネル教授と学生たちとの関係を見てきましたし、私たちの一部は、ロネル教授に対してこのような悪意あるキャンペーンを展開している人物を知っています。 私たちはまず、長年にわたって学生たちを指導してきたロネル教授に対する深い、そして永続的な賞賛の念を、最も明確な言葉で伝えたいと思います。 私たちは、この訴訟手続が彼女に与える損害を嘆き、彼女に対するいかなる判決にも異議を唱えることを明確な言葉で表明したいと思います。 私たちは、彼女に対する申し立ては本物の証拠にはならず、むしろ悪意がこの法的悪夢を動かし、支えているという見解を支持します。

ご存知のように、ロネル教授は長年にわたる教育、執筆、奉仕活動を通じて、ドイツ学、比較文学、そして哲学と文学の分野の流れを変えてきました。 彼女の輝かしい学識と知的寛容の精神の結果、ニューヨーク大学のみならずヨーロッパ全土で文学研究の分野を築き上げたのです。 彼女の教え子たちは現在、アメリカ、フランス、ドイツの一流研究機関で教鞭をとっており、メディア・テクノロジー研究、フェミニズム理論、比較文学研究など、彼女の知的影響は人文科学全体に及んでいます。ニューヨーク大学の文学研究において、アヴィタル・ロネルほど重要な人物はいないでしょう。その知的パワーと学生や同僚に対する熱烈な献身によって、彼女はアカデミーの模範的な知識人であり指導者としての地位を確立しています。 ご存知のように、彼女はヨーロッパ大学院(EGS)でジャック・デリダ哲学講座を担当し、最近フランス政府から芸術文化勲章シュヴァリエを授与されました。

私たちは、ロネル教授の気品、鋭い知性、そして知的献身を証言し、彼女の国際的な地位と名誉にふさわしい尊厳が与えられるようお願いします。 もし彼女が解雇されたり、職務を解かれたりすれば、その不正は広く認識され、反対されるでしょう。 人文科学、ニューヨーク大学、そしてこの時代の知的人生にとって、それに伴う損失は甚大なものになるに違いなく、広く激しい世間の監視を受けるのは当然でしょう。 私たちは、彼女の思慮深く連続的な指導の長い歴史、この知識人の類まれな輝き、彼女がその分野の優秀な学者として当然得ている国際的評価、大学に対する彼女の永続的な献身、そして彼女があなたのキャンパスにもたらした光り輝く世界、同僚や学生たちが彼女と一緒に過ごし、彼女の指導の下で成功していることを明確に理解した上で、この資料に取り組んでいただくようお願いします。彼女は公正な審問を受けるに値します。私たちの永続的な賞賛に加え、敬意、尊厳、人間的な配慮を示す、公正な審問を。

敬具

ジュディス・バトラー、マキシン・エリオット教授、カリフォルニア大学バークレー校比較文学部、現代言語協会次期会長(2020年)

(以下、その他の沢山のアカデミア関係者たちによる大量の署名。ジャン=リュック・ナンシー、ガヤトリ・スピヴァク、スラヴォイ・ジジェク、ジョーン・スコットなども含む。長すぎるため、本ブログでは割愛させていただきます。)


[バトラーによる後悔文]

2018年8月19日

私は自分の個人的な意見しか述べることができません。なぜならば、アヴィタル・ロネルに対するセクハラ告発に関してニューヨーク大学当局に宛てた手紙の署名者は、単一の見解を持つグループではなく、私たちの同意なしにオンラインに掲載された手紙の草稿の作成には、さまざまな執筆者が協力しているからです。署名者たちはロネルに対する解雇がニューヨーク大学で検討されていることを知ったとき、このありうる制裁の厳しさに当惑しました。私たちは、ロネルが「恋愛的な交友関係」を築いたと非難され、性的関係の証拠を求めて彼女の電子メールが精査されていたことを理解していました。私たちの目的は、彼女の行為を擁護することではなく(私たちはこの件を把握しませんでした)、処罰としての解雇に反対することでした。そのような処分は、私たちが理解した調査結果を踏まえると不公平に思えたからです。今にして思えば、解雇に対してロネルを擁護しようとした私たちは、介入しようとするのであれば、状況をもっと十分に知らされているべきでした。

さらに、この手紙は急いで書かれたものでした。以下は、私が現在後悔していることです。第一に、たとえ署名者の何人かがこの件に関して強い意見を持っていたとしても、私たちは告発者に動機を帰すべきではありませんでした。セクシャル・ハラスメントの訴えが、原告の信用を落とすことによって退けられることがあまりにも多く、その悪質な戦術は正当な訴えが受け入れられることを阻止し、不正義を悪化させてきました。そのような訴えが正当でないと証明される場合、それは証拠のみに基づいて説明されるべきです。

第二に、ロネルの地位や評判が彼女に何らかの特別な待遇を与えることを暗示するような表現を使うべきではありませんでした。セクシャル・ハラスメントの裁定に地位は関係ありません。すべての教員は、タイトルIXの規約の下で同じように扱われるべきです。つまり、同じ規則のもと、訴えが正当化される場合には、制裁の対象とされるべきなのです。

極秘の手紙の草稿がネット上で公開された直後、私はMLA役員(専務理事、会長、第一副会長)と直接連絡を取り、私の名前の後に組織内の役職が記載されていたことを謝罪しました。私は、MLAでの所属を私の名前につけるべきでなかったと述べました。私はMLAの役員やスタッフに遺憾の意を表明し、同僚たちも私の謝罪を受け入れてくれました。MLA会員にも同じ謝罪を申し上げます。

私たちは誰しも、人生においても仕事においても、間違いを犯します。私がそうでありたいと願っているように、自分のした間違いを認め、今後前進していく上で自分のした間違いが何を自分に教えてくれるかを見極めることが、私たちのすべきことです。


私が今回翻訳にあたり参照した、セカンドレイプ文書及びバトラーの後悔文が載っているページ:

https://paulinepark.com/2018/09/19/avital-ronell-judith-butler-a-cautionary-tale-of-power-accountability-in-academia/embed/#?secret=w1rGy2CPdL#?secret=Z84jhEXFcB

⚠️↑この英文記事は、バトラーの書いたレター翻訳のために参照しました。しかし、この記事にはロネルの過去の発言からロネルを「ペドフィリア」として中傷する論旨を展開しているところがあります。私はこの記事のその部分については全く容認しません。断固反対です。性加害は、加害の暴力性それ自体において批判されるべきです。人格攻撃はいかなる理由であっても看過していいものではありません。

https://www.chronicle.com/blogs/letters/judith-butler-explains-letter-in-support-of-avital-ronell

https://www.scribd.com/embeds/387540281/content

http://utotherescue.blogspot.com/2018/08/judith-butlers-statement-about-letter.html?m=1

※「後悔」と訳している部分の原文はregretです。一応regretは謝罪にも使う言葉なのですが、全体として被害者への謝罪はなく、自分のMLAでの立場が危うくなったことに焦っているだけに思えたため、「後悔」と翻訳しています。

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