【データ分析】今永昇太の“本当の凄さ”と“次の進化”──1年目の圧巻成績の裏側
2024年、今永昇太投手はメジャー1年目にして圧巻の成績を残しました。15勝3敗、防御率2.91。メディアでは連日のように報道され、ファンの間でも"新人王候補"として注目を集めました。
一見すれば、誰もが認める大成功。しかし、アナリストとしてはこの数字の裏にある要因や意味を正確に読み解くことが重要です。表面的な成績だけではなく、どのような強みがあったのか。逆にどんな課題が見えたのか。次のシーズンに向けて、どんな改善点があるのか。
この記事では、セイバーメトリクスを用いて今永投手の2024年シーズンを多角的に分析し、2025年にさらに飛躍するためのヒントを探っていきます。
■ 2024年の成績を振り返る
今永昇太投手は、メジャー挑戦1年目の2024年、15勝3敗・防御率2.91という圧巻の成績を記録しました。
防御率2.91:ナ・リーグ規定投球回到達投手の中で3位
NL平均防御率4.14との差 -1.23点:2022年日本での防御率2.26(リーグ平均より -1.10点)よりも差が大きく、キャリアハイの水準といえる
数字上、文句なしの「リーグ屈指の先発投手」と言える1年だったのは間違いありません。
■ WARで見ると「そこそこ」?──貢献度のギャップ
しかし、セイバーメトリクスの代表指標であるWAR(FanGraphs)を見ると、3.0という結果。これはナ・リーグ先発投手18位前後で、「絶対的エース」とは言い難いポジションです。
投球回数:173.1回(15位) → WARの“量”の貢献〇
WAR/投球回数では20位以下 → “質”の面で課題が浮き彫り
つまり、長くマウンドを守る能力は高く評価されつつも、1イニングごとの支配力においては、圧倒的とは言えない位置にいたことが分かります。
■ 投球の質をwOBAとxwOBAで見る
次に、被打撃の質を表すwOBA(実際)とxwOBA(期待値)に注目します。
MLBで2000球以上を投じた投手の中でも、今永投手はwOBA・xwOBAともに上位グループ
ただし、クラスタリング分析では"トップグループ"ではなく"2番手クラス"に分類
「非常に優秀な投手」ではあるが、「サイヤング級」とまではいかないという評価です。
■ 四球の少なさが支える“ピンチを作らない力”
特筆すべきはBB%(与四球率)でMLB5位という数字。さらにWHIP(1イニングあたりの走者数)も1.01でNL3位と、非常に優れたコントロールとランナーを出さない能力を示しています。
■ 課題は打球の質と被本塁打の多さ
HR/9(9回あたり被本塁打)1.40 → 規定投球回で2番目に悪い
打球が飛ぶと「平均的な結果」:wOBAcon / xwOBAcon = 平均付近
四球を出さず、三振もある程度取れている今永投手ですが、一方で「被打球の質」や「打球処理の結果」は平均的な水準にとどまっています。実際、2024年シーズンに27本の本塁打を打たれており、HR/9(9回あたりの被本塁打率)は1.40で、これは規定投球回に到達した投手の中でワースト2位という結果です。
興味深いのは、ホームランを除いた被打球の指標(wOBAcon・xwOBAcon)では、今永投手はリーグ平均よりも良好な位置にプロットされる点です。つまり、通常の打球に関してはしっかり抑えており、主に被本塁打の影響で打球結果全体が悪化していると考えられます。
基本は打たせて取るスタイルで抑えていたが、たまに本塁打を浴びるケースがあるという点が今永投手の課題であると言えます。
■ 防御率がWAR以上に良い理由は? 3つの仮説検証
① 守備の恩恵 → カブスはDefence +13.4(NL3位)と守備は良好なチームです。守備が良ければ被打球の結果が投手に有利に転ぶことがあり、防御率が下がる傾向があります。しかし、もし守備の恩恵が極めて大きいなら、wOBAconとxwOBAconの間に大きな乖離が生じるはずです。今永投手はxwOBAconの数値のほうがやや優れていたため、低い防御率守備だけで説明しきれるとは言いづらいです。
② 球場の影響 → リグレー・フィールドはPF(Park Factor)97とやや投手有利な球場です。FanGraphsのWARは球場補正済みのようですが、仮に球場の影響で打者を抑えているのだとすると、さきほど同様wOBAconとxwOBAconの間に大きな乖離が生じるはずです。
③ リスク管理能力(RE24分析) → WARは状況に中立的な指標であり、「走者を溜めたときにどれだけ失点を防げるか」といったリスク管理面は直接反映されにくい特徴があります。今永投手は得点期待値が高まる「絶好機」での被打席が少ない傾向があります。0アウト1塁はMLB平均と大きな差はありませんが、1アウト2塁以上の割合は低く、ピンチを拡大させない投球ができていたと言えます。
では、いざピンチを迎えたとき、今永投手はどう対応していたのでしょうか。状況別の被打撃成績を分析すると、得点圏や「絶好機」とされる場面では、今永投手はやや三振率が上昇し、被打撃成績も改善する傾向が見られました。
つまり、「そもそもピンチを作らない」という投球スタイルに加えて、「ピンチになったときにも、しっかり抑える」力を持っていることが伺えます。この二重のリスク管理能力こそが、今永投手の防御率の低さにつながっている大きな要因の一つだと考えられます。
■ WARで評価しきれない“抑える技術”と今後の課題
WARは、文脈に中立な評価指標です。つまり、走者がいるかどうか、得点圏かどうかといった「状況」を加味せず、純粋に個々のプレーの結果だけで選手の貢献度を数値化します。
そのため、今永投手のように「ピンチを作らない」「ピンチになっても最小失点で切り抜ける」といった文脈依存型の抑え方は、WARの中では過小評価される傾向があります。
しかし、それは「評価されていない」からといって「価値が低い」ということではありません。むしろ、こうしたスタイルは試合に勝つためには極めて重要な能力です。
長いイニングを投げながらも、失点のリスクを最小限に抑え続ける。状況に応じて戦術を工夫し、相手打者を打たせて取る。こうした実戦的な投球術は、数字に現れにくいものの、確実にチームの勝利に貢献しているといえるでしょう。
■ 本塁打の傾向と対策:課題は“得点圏前”の一発
今永投手が2024年シーズンで記録した27本の被本塁打のうち、22本はランナーがいない、または一塁にしか走者がいない状況で打たれたものでした。つまり、得点圏に走者を背負う前の段階での被弾が大半を占めていたことになります。
この点から、「勝負所ではしっかり抑え、そうでない場面では多少のリスクを許容している」という投球スタイルが見えてきます。実際に、得点圏に入ってからの今永投手の投球成績は安定しており、三振も増加しています。そうした点を考慮すると、この“得点圏前”の被本塁打は、試合を通して長くマウンドを守り、チームに勝利をもたらすための戦略的な選択とも捉えることができます。
言い換えれば、ある程度の被弾は、シーズン全体を見据えた投球配分の中で、あえて織り込まれていた可能性もあるということです。
とはいえ、27本という被本塁打数は、リーグ内でも上位に位置する数字であり、結果として被打球の評価(wOBAconやxwOBAcon)に影響を与えている点は否定できません。
そのため、今後はギアを上げすぎずにリスクを軽減する方法、たとえば配球の工夫や球速帯・ゾーンの使い分けなどによって、“打たれにくい構造”をどう作っていくかが1つの鍵になってくるでしょう。
■ 右打者に偏る被本塁打:球種とスイング傾向から読み取れる傾向
27本中22本が右打者に打たれているというデータがあります。この偏りは偶然ではなく、配球傾向やスイングの特徴に一定の要因があると考えられます。
まず、今永投手は右打者に対してストレートとスプリットの2球種を中心とした配球を行っており、特ににスプリットの多くはボールゾーンへ落とす球になっています。打者の立場からすれば「ストライクゾーンに来る球はストレートに限られる」と予測しやすい状況を作っている可能性があります。
結果的に、ストレートに狙いを絞ってスイングしているケースが多いのかもしれません。実際に、右打者の70マイル以上のスイング割合が他の投手よりも高いというデータは、その仮説を補強する材料のひとつになります。
こうした状況下では、甘く入ったストレートがフルスイングに捕まりやすいという構造的なリスクが生まれやすく、右打者への被本塁打が増えている背景には、そうした配球の単調さやスイング誘導のパターンが関係している可能性があります。
■ 対策の方向性:配球の工夫と意図的な“ばらし”
では、今永投手がこの傾向を改善していくためには、どんな工夫が考えられるでしょうか?
ストレートを意識させないための、ゾーン内変化球の活用
速球系の緩急・投球タイミングの“ばらし”
打者のスイングタイミングを一定にさせない工夫が、被本塁打の抑制には効果的だと考えます。
カウント球としてのチェンジアップ
カウント球としてのスイーパー
今永投手のようにコントロールと配球力に長けたタイプだからこそ、「ストレート×スプリット」の単調な組み合わせから、もう一段階複雑な投球パターンへと進化することで、さらに本塁打リスクを減らせる可能性があるように思います。
また、別の対策としてストレートを狙いにきている打者に対して打ち損じを誘発させるストレートに近い球種(ハードシンカーやツーシームなど)を用いることも挙げられます。
ハードシンカー(ツーシーム?)
■ 今永投手の“自己分析”と今後の展望
今永投手は、あるインタビューでこのように語っています。
「僕と山本選手は、僕のWARが3.0で彼は2.8なんですけど、僕よりイニングが少なくても彼はWARを稼いでいるということは、かなり質の高い投球を毎試合しているということ。<中略>もっとホームランを減らして三振を増やしてイニングも投げると言うことをしなければ、アメリカでは評価されないので、そういう先発ピッチャーを目指しています」
この発言からも分かるように、今永投手はWARという指標をきちんと理解したうえで、自らの課題を冷静に受け止めようとしていることがうかがえます。数字をどう解釈するか、そのうえでどう行動するか。そうした姿勢そのものが、すでに非常に高いレベルの自己認識と成長意欲を物語っているように感じます。
ただ、ここで少し補足しておくと、WARは非常に有用な指標ではあるものの、決して万能ではありません。特に「ピンチを未然に防ぐ力」や「ギアの入れ方を工夫する力」といった、投手としての“実戦的な駆け引き”までは、十分に数値化されているとは言い難い部分もあります。
たとえば今永投手のように、走者を出さず、絶好機をほとんど作らない投球スタイルは、失点を未然に防ぎ、長いシーズンを安定して戦い抜く上で、極めて価値のあるものです。こうした投球は、防御率の維持だけでなく、ブルペン陣への負担軽減やチーム全体の戦い方にも良い影響を与えていたはずです。
だからこそ、WARの数字が思ったほど伸びなかったからといって、その投球内容や勝利への貢献が色あせるわけではないと思います。むしろ、これまで築いてきたスタイルを大切にしながら、そこに新しい要素──たとえば三振率の向上や被本塁打の抑制といった課題への取り組みを重ねていくことで、さらに完成度の高い投手像に近づいていくのではないでしょうか。
“投げる哲学者”とも評される今永投手ですから、自分の投球の意味を見失うことなく、むしろより深く問い直しながら進んでいくはずです。その姿勢こそが、彼の最大の強みであり、これからの進化にもつながっていくのだと思います。
まとめ
今永昇太投手の2024年シーズンは、表面的な数字以上に深みのある1年でした。
15勝3敗・防御率2.91というインパクトのある成績を残した一方で、WAR3.0という数字は「さらなる伸びしろがある」ことを示しています。
このギャップは、決してネガティブなものではありません。むしろ、「ピンチを作らない」「走者を返さない」という独自のスタイルが、WARでは測りきれない貢献をしていることの証明とも言えます。
その一方で、右打者への被本塁打や配球の単調さといった課題も見えており、そこに対する具体的なアプローチ──たとえば配球の多様化や緩急の強化など──によって、さらに完成度の高い投手像に近づく可能性も十分にあります。
何よりも印象的なのは、今永投手自身が自分の数値を正確に読み解き、課題を言語化し、次に生かそうとしている点です。
スタイルを守りながら変化を恐れず、より高みを目指す。その姿勢こそが、真に一流の証なのではないでしょうか。
2025年、今永投手がどのような進化を遂げるのか──心から楽しみに見守りたいと思います。
あとがき
今回は、あるご縁から今永投手について分析する機会をいただき、それならばとnoteにまとめてみました。拙い部分も多々あったかと思いますが、私なりに丁寧に向き合って書いたので、ここまで読んでくださり本当にありがとうございます。
今回の分析で一番大変だったのは、Savantからデータを引っ張ってきて、それを正しく加工・整理する作業でした。たとえば、指標を正確に算出できているかの確認や、野手登板を除く処理など、細かな工程に時間がかかりました。Savantはこれまであまり使ってこなかったこともあり、どのようなロジックで値が出ているのか理解するまでにかなり苦労しました。いまだにwOBAの数値が合わないのですが、おそらくWeb版では年度ごとに係数が異なる仕組みでAPIで取得されたデータは固定のようです……。
それにしても、Savantって本当にすごいですね。1球ごとに映像まで紐づいていて、それを無料で公開しているMLBの情報環境の豊かさには驚かされます。
WARについても少し触れておきたいのですが、便利で総合的な指標である一方で、「なぜその選手が相手を抑えているのか?」という分析を行うには少し大ざっぱすぎると感じる場面もあります。個人的には、今永投手の“リスク管理能力”は再現性のあるスキルだと考えていて、だからこそ今シーズンも一定の好成績を残すのではないかと期待しています。
もちろん、圧倒的な支配力があればそれに越したことはありません。どんな状況でも安全な投球ができるのは理想です。でも、MLBのような最高レベルの舞台では、そうした投手は本当に一握りでしょう。そうした中でも、自分の持ち味を最大限に生かしてチームを勝利に導く今永投手の姿勢には、心からリスペクトを感じます。
だからこそ、WARが低かったから「たまたまだ」「運が良かっただけ」と片づけてほしくないという気持ちがあります。もちろん、運の要素が絡むプレーもたくさんあります。ただ、選手がWARを高めるためにプレーしているわけではない、というのは忘れてはいけないと思います。
野球の本来の目的は、「相手より多くの得点を取り、試合に勝つこと」。そのために自分なりの工夫をし、力を尽くすことが選手にとってもきっと一番楽しいのではないかと、勝手ながら想像しています。
ツッコミどころもあるかと思いますが、ぜひ色々とご意見やご議論をいただけたら嬉しいです。


コメント