ラストです。
最後までお付き合いください。
「卒業証書、授与」
寒さも弱まった冬の終わり。
桜もまだ咲かぬ春の訪れを待ち侘びる頃。
千人近い人がとある高校の講堂に集まった。
この三月をもって学校を去る子供達を見送るために。
「卒業生代表、
「────はい」
そして、千人の中の一人がその少女だった。
三年一組出席番号一番、
月の光で伸ばされたみたいな銀の髪。くねりながらも肩の下まで伸ばされた長髪。
小さな顔に比べて大きく感じられる眼球。宝石のように目の奥を光らせる赤い瞳。
細い腕に細い足のスレンダーの最適解。低身長でありながら可愛いではなく美しいとしか言いようのない美貌。
モデル顔負けの魅力。絶世、その言葉の意味を知らしめる美少女。
壇上に向かって階段を登る彼女の動きに、千人の瞳が釘付けになる。少年少女達の眠気は吹き飛び、保護者席さえ静まり返る。
カツン、という少女の足音は世界を塗り替えたみたいな錯覚さえ引き起こした。
「卒業証書、折手メア。あなたは本校所定の全課程を修了した事を此処に証する。三月二二日、布津野高等学校長────おめでとう」
「ありがとうございます」
頭を下げ、手渡された紙を受け取る。
こんな紙一枚には収まらない思い出を噛み締めて。
三年間様々な事があった。
地震や疫病、色々な災害に見舞われながらも、学業や
一時疫病によって中止になりかけた卒業式を延期として、三月下旬にもつれ込みながら何とか実現させたのも今となっては楽しい思い出だ。
壇上から講堂を見渡す。
見知った顔がパイプ椅子の上に並ぶ。
三年間の集大成がそこにはあった。
折手メアはひとりぼっちじゃなかった。
折手メアは楽しい学校生活を過ごせた。
「…………っ」
しかし、少女は顔を歪めた。
まるで涙を堪えるような表情で。
三月二二日、布津野高校卒業式。
そこに折手メアが求めるモノは現れなかった。
「
一八年前、この世界に折手メアが産まれた。
銀の髪に赤い瞳、両親とは似ても似付かぬ特徴を持った赤ん坊。しかし、彼女は優しい両親と暖かな地域に育まれ、愛されて成長した。
見慣れぬ色彩に、赤子の時点で目を引く美貌。まるで言葉を理解しているのかと錯覚するような利発さ。だが、『この子は天才だ!』と親バカ二人に褒め称えられた少女には、もっと大きな
──
理由は分からない。
もしかしたら、ただの空想なのかもしれない。
それでも、少女は信じる事にした。一人の少年が異能の存在を否定した、面白くて綺麗な
少年に会いに行く事はしなかった。
きっと、怖かったのだろう。
少年から忘れられている事を知るのが怖かった。
それに、いつか会えると信じていた。
布津野高校に進学さえすれば、そこでまた再会できると思っていた。
必死に受験勉強をした。
前世では《
だから、正面から努力を重ねた。勉強をして、内申点を稼いだ。ただ、あの少年と再会するためだけに。
合格した時は本当に嬉しかった。
主席に選ばれた時は驚いた。
努力が報われたみたいで、このまま行くともしかしたら少年も折手メアの事を覚えているんじゃないかって期待に胸が躍った。
入学式。
新入生代表として壇上に上がる。
しかし、話している内容よりも後ろを振り向いて確認したい気持ちでいっぱいだった。
今、六道伊吹はどんな顔をしているだろうか。
折手メアの事を覚えているだろうか。
いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは、いぶきは────‼︎
「………………、…………………………え?」
その後のことは、よく覚えていない。
初めは病欠を疑った。
あるいは、受験に落ちたのかと思った。
しかし、同じクラスの栗栖裕也に聞き込みを行った結果、答えはそのどれでもなかった。
いない。
いないのだ。
あの少年はどこにも。
大好きな六道伊吹はいない。
栗栖裕也の親戚にクリス──栗栖水希という
だが、それだけだった。
考えてみれば、当たり前の話。
六道伊吹とは異能のある世界で生まれた子供。
異能のないこの世界に天命機関はない。
六道刃金も普通の人間でしかない。
異能を持たない栗栖水希は女性に変身できず、子を産む事もできない。
六道伊吹の誕生には異能が関わっていた。
異能によって変形した母と、異能を動機として子を作ろうとした父。そして、異能によって遺伝子レベルで改造を受けた子供。
「………………、」
そう気づいた時、初めに湧き上がった感情は何だったか。
苦痛か、絶望か、あるいは思考停止か。
いいや、違う。グツグツと湧き上がった
「
マグマのような憤怒が腹の底から沸騰する。
だって、そうだろう?
アリス・アウターランドと世界のどちらかしか救えないなんて間違っていると声を上げた彼が、世界を救う代わりに犠牲になったなんて何の冗談だ。
六道伊吹に対する怒り、世界に対する怒り、理不尽に対する怒り。そして、何よりも自分自身に対する怒りが湧き上がった。
(いつか再会できるはず? もしかしたら彼もボクの事を覚えていてくれるかもしれない? 他力本願にも程があるだろうがッ‼︎)
理想は貫け。
願望は掴み取れ。
気に食わない理不尽なんざ叩き壊せ。
六道伊吹と再会したいと思ったのなら、彼に自分の事を思い出して欲しいと思ったのなら、そうすべきだった。
高校での再会を待たず会いに行って、忘れられていても気にせず関わりを持ち、あらゆる手段を使って記憶を思い出させるべきだった。
受け身になったのが間違いだった。運命に身を委ねるべきじゃなかった。きっと、六道伊吹ならそうした。
「全部、取り返す。いぶきも、思い出も、何もかもを取り戻す! 絶対にッ‼︎」
その日から、折手メアは動き出した。
今度こそ、本当の意味で六道伊吹を救うために。
学校には毎日通った。
文化祭や修学旅行といった
だって、それもまた折手メアが求めた日常だったから。
何かを得るために何を犠牲にするなんて間違っている。少なくとも、六道伊吹ならそう言ったと思うから。
ただ、毎週土日と夏休みのような長期休暇を利用して世界中を駆け巡った。
六道伊吹を取り戻せるような何かがこの世界に残っている事を願って。
様々な地に訪れた。
様々な人と話した。
様々な事を成した。
前世の知り合いほとんどと顔見知りになった。
前世の事を覚えている人は一人もいなかったけれど、改めて友好を結んだ。もしかしたら、前世よりも今の方が仲が良い人だっているかもしれない。
アドレイド・アブソリュートは相変わらず傍若無人だった。
女子ボクシング世界王者として活躍するスターで、ボクシングに限らない格闘技術を求めて日々道場破りしているようだった。
紆余曲折あって殴り合いの喧嘩をしたが、最終的には来日する度に遊びに行く仲になった。
ブレンダの本当の名前を初めて知った。
イギリスの片隅にあるパン屋さんで働き、自身が持つ血みどろの才能に気付かないまま平和に暮らしていた。
海外で出会った時は迷子の幼女と間違われたが、パン屋の常連になって驚かせた。
栗栖椎菜とは裕也の紹介で話した。
何処にでもいそうな普通の女の子で、初恋もまだの純情少女だった。
彼女の人見知りもあって初めは警戒されていたが、徐々にスキンケアやメイクについて詳しく教えてくれるようになった。
佐武真尋は高校のクラスメイトだった。
休日には一緒にカラオケに行ったりして、親友と呼べるような仲を築いた。
高校では自然と佐武真尋や栗栖裕也と過ごす時間が多くなり、裕也は男子に嫉妬されて追いかけ回されていた。
ジェンマは隣の家に住むお兄さんだった。
真面目で優しくて、父のような警察官になりたいと言っていた。
今でも家族ぐるみで付き合いがあり、最近は回転寿司に連れて行ってもらった。
イヴリンは二重人格として扱われていた。
異能がなくなっても転生者という存在はそのまま、彼女達は二人で一つの人生を歩んでいた。
幼女に話しかけるのは事案なので我慢していたが、リィンがアドレイドのファンだったのをきっかけに話すようになった。
レオンハルトは
あと十年以上は実現しないだろうが、意外とファウストの誕生はすぐそこなのかもしれない。
別に嫌われている訳ではないのだが、人間と話す事自体に興味がないみたいであまり仲は良くない。
ロドリゴは米国大統領になっていた。
聞き取りやすい演説と派手なパフォーマンスで民主の心を掴むのが上手く、英語の勉強をする時にスピーチをよく聞いた。
流石に彼と会う機会はなかったが、テレビから元気にやっている事が分かった。
二神姉妹は双子として産まれたようだった。
片方が犠牲になる事もなく、普通の姉妹として生活していた。
初めは双子として産まれたのは異能が関係しているのかと思ったが、どうやら単なる幸運だったようでガッカリした。
サササッチは某巨大企業社長のクローンとして生み出されていた。
某巨大企業社長が老化とそれを止められない科学技術に絶望し、自身の脳を移すための若い肉体を製造したようだった。
彼女達二万体のクローンを秘密裏に助け出し、国際条約違反だとして通報したのは折手メアの手によるものだった。
九相霧黎は生徒会の後輩だった。
覚えの良い彼に業務と関係のない技能を詰め込んで、何でできる万能執事に仕立て上げたのは楽しかった。
幼馴染に金髪の少女がいたため異能の関連を疑ったが、転生者ではあっても異能も因果改変前の記憶も持っていないようだった。
他にも、他にも、他にも、他にも。
数えきれない人々と出会った。
折手メアはようやく世界というものに触れた。
前世の顔見知りはコンプリート寸前だった。
たった三年間で折手メアの交友関係は広がった。
「くそ……ッ!」
策はとうに尽きた。
六道伊吹と関連のある全てを巡った。
それでも、彼を救う手掛かりは見つけられなかった。
この世界には異能がない。
だから、一発逆転の奇跡は起こらない。
生まれてもいない存在は救えない、そんな当たり前ってヤツに押し潰される。
卒業式は滞りなく終わった。
特に何の異常も起こる事なく、当たり前に。
高校三年間の必死の捜索は報われなかった。
六道伊吹を取り戻す方法なんてなかった。
折手メアの力では六道伊吹は救えなかった。
「…………っ」
一人、折手メアは暗い夜道を歩く。
卒業式が終わって、駅と直結した複合デパートでクラスメイトと食事会をして、その後。
家まで送ろうかと尋ねる栗栖裕也の声は聞こえないフリをした。
両親が送った帰宅時間を尋ねるSNSの連絡は未読のまま放置した。
誰とも話したくなかった。誰とも会いたくなかった。六道伊吹の事を知らない人達と関わりたくなかった。
夢遊病のようにフラフラとした足取り。
しかし、無意識のうちに足はとある方向を向いていた。
学校ではない。デパートでもない。そこに六道伊吹は現れなかった。だから、もう一つの思い出の場所へ。
それは、二階建ての小さなアパート。
カンカンカン、と階段が金属音を響かせる。
折手メアの靴が錆びた段差を乗り越える。
二階、その中でも一番左にある奥の部屋。
六道伊吹の住んでいた部屋に向かって。
夜でも部屋の電気は点いてない。
中には誰もいない。分かっている。
なのに、止まらなかった。
無人の部屋のドアノブに手が伸び────
「──
振り返る。
真後ろには、長い黒髪の女性が立っていた。
(……
少なくとも、無限のループを繰り返した前世でも一度も出会った事のない人。
洋服よりも着物の方が似合いそうな美人だった。
両手にはスーパーの買い物袋を下げ、
「悪いけど、おねーさんの家には金目のモノはないよ。夜も遅いんだ。さっさとお家に帰りな、女子高生」
「……はい」
溜息を飲み込んで、頭を下げる。
目の前の女性は何も悪くないのに、どうしても当たり散らしてしまいそうだったから。
最後の思い出の地もなくなった。
六道伊吹の家も見知らぬ人のモノになった。
六道伊吹が帰る場所は失われた。
では、これからどうすれば良いのだろうか?
折手メアはあと何ができるのだろうか?
唇を噛み締め、思い出の地を去る。
長い黒髪の女性に頭を下げてすれ違う。
「あう」
「えっ?」
「あう」
「え、ええーと……どうすれば、いいのかな?」
「あうぁー」
「あ、あの。その……助けてください」
赤ん坊の小さな手で服を掴まれると、無理やり外すのも怖くて立ち往生してしまう。
どうする事もできなくて母親に助けを求めるが、彼女は赤ん坊の様子を見て笑っていた。
「うん? あー、はいはい。なるほどね。ちょっと待ちな、女子高生」
黒髪の女性は笑った。
笑って、告げた。
「
「いらっしゃい。好きに座って良いよ」
座っても良いも何も、段ボールだらけの部屋に座る場所はなかった。仕方なく本棚に突き刺さってあった(⁉︎)座布団を引き抜き、そのままフローリングの床に座る。
「おねーさんの名前は
そう言って、椿姫は折手メアの隣に座る。
普通、正面に座るはずだが、全体的にこの女性は変人だった。
「……ボクは折手メア。今日で高校を卒業したから、もう女子高生じゃあないよ」
「オッケー! じゃあポスト女子高生ね!」
「じゃあもう女子高生でいいよ」
距離感がおかしい変人に困惑する。
何なら赤ん坊も折手メアの膝に乗りかかってきたので、距離感がおかしいのは家系なのかもしれない。
「うーん。どっから話そうか? おねーさんがシングルマザーになったキッカケとか聞きたい?」
「六道伊吹との関係は?」
「おー、脱線を許さない系ね。ヘイヘイ。暗いぜ、女子高生」
「いいから早く」
焦燥感が折手メアを支配する。
ようやく見つけた手掛かりに急かされる。
「えーと、少年との関係だっけ? 命の恩人、かな。あ、おねーさんじゃなくて娘のね」
「命……?」
この世界のどこかに六道伊吹が生まれていて、この赤ん坊を助けた。そんな事を想像するが、なぜか頭に違和感がチラついた。
折手メアの膝に乗った赤ん坊。
「この子はね、本当なら生まれてくる事もできなかったの。それを、あの少年は助けてくれた。
「………………ま、さか」
いる。
折手メアは知っている。
その条件に該当する者を。
「この子の名前は
──
「くだらない探り合いはやめにしようぜ、女子高生。覚えているんだろう?
「まさか……キミも⁉︎」
「もちのろんよ。こちとら
アリス・アウターランド、彼女の母親。
つまり、
「六道伊吹はこの世界に存在しない。異能のない世界では、異能によって生み出された彼は誕生しない。一方で、この世界にある技術じゃ生まれてすらいない彼を助ける事はできない。異能のない世界では、六道伊吹を救えない。……
「……いいや、待て。そうだ、キミの言う通りだ。
「そ、
「な、に……⁉︎」
越智椿姫は畳み掛ける。
衝撃の事実、そんなモノは前提に過ぎないと。
「
前提がひっくり返る。
真なる異能者。第一摂理による偽物の異能ではない、世界の摂理に真っ向から反する本物の異能を有する怪物。
それはアリス・アウターランドだけの話ではなかった。
「ありえ、ない」
「あり得るよん。不思議には思わなかった?」
「ある訳がない! そんな強大な力をボクが持っている訳がない‼︎」
「異能が消失した因果改変直前、女子高生の幸運が六道伊吹を縛り付けた。……いやいや、そんなバカな事があるかって話よ。
「…………っっっ‼︎‼︎‼︎」
「女子高生の大好きなゲーム……えーっと、テンプレート何とかって世界に転生したってのも可笑しな話じゃね。あ、ゲームの世界が実在してるのがあり得ないって話じゃあないよ? 人間の想像力が有限なのに対し、存在する世界は無限。だったら、人間が想像し得る程度の世界なんて存在していて当たり前なんだからさ」
「………………………………、」
「でも、無限に存在する世界から目当ての世界を引き当てるなんて可能かね? 無限に匹敵する長い歴史の中から大好きな少年に出会える時間軸に転生するのは可能かねぇー? ほんの僅かな可能性はあっても、おねーさんには不可能に思えるなあ。何せ、世界は無限にあってもアリスは無限の世界に一人しかいないからね。たった一人の我が娘とたった一つの世界が衝突する瞬間を偶然にも引き当てた、なんて……
「………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………、」
何を言えなくなった。
アリス・アウターランドと同じように、折手メアという魂は誰よりも異常だったのだ。
「単なる幸運ってのも違うかなあ。ほら、女子高生って毎回毎回因果応報の裁きを食らってた訳じゃん。って事は、因果を手繰り寄せるって方向かね。幸運だろうと不幸だろうと、可能性が少ないほど実現してしまう。予想外な事象であるほど起こってしまう。
それが折手メアの真なる異能だった。
アリス・アウターランドが有する異能、全知全能の力──
「何というか、迷惑極まりない異能だけど……
「……どうしろって言うんだよ。ボクの予想外に事が進むって事なんだろう⁉︎ だったら、ボクが計画を立てていぶきを救おうとしても全部無駄って事じゃ──」
「──
「なんっ⁉︎」
「これはおねーさんが前世で使ってた真なる異能の残骸。
「は? え? は???」
「ちょっと、早く早く。急ぎだから」
「え、いや、どうやって???」
「
頭が真っ白になりながら、必死で六道伊吹を想像する。
何というか、折手メアの得意分野だった。頭の中に六道伊吹を思い描くのは、この世界の……いいや、無限にある世界の誰よりも得意だった。
「お、いいねぇ。来てる来てる。いや、おねーさんは少年の姿形とかあんまり覚えてないけど。ねぇー、
「あう」
「おお! 合ってるぽいね、オッケー! よく出来ました☆ いいこいいこー」
「気が散る‼︎‼︎‼︎」
ともあれ、六道伊吹の肉体は完成した。
髪の一本一本から掌の皺まで六道伊吹の全てを再現できたと自負している。
「(内臓とかまで再現してるのおねーさんでもドン引きだわ。もしかして無限のループの中には少年を解体した周とかもあったの???)」
「何か言った?」
「え、いや、何も?」
ちなみにえっちな事をした周もあったので、再現率は服の下まで完璧である。
「……気を取り直して、次は少年の魂の確保ね。ま、これはもう済んでるけど。おねーさんのファインプレーだよ。褒めてくれても良いんだぞ?」
「え?」
「覚えてない? 因果改変直前、女子高生と少年は心中みたいに地の底に落ちてったけど、途中で止まった……つーか、おねーさんが止めてあげたでしょ。ほら、お礼は?」
「あ、ありがとうございます?」
「女子高生達がいたのは世界と世界の狭間。ちょうど良い所に行ったもんだと思うよ。世界の内側じゃあ因果改変に巻き込まれる。でも、世界の外側まで行ったら手が届かない。そのどちらも避けて魂を保護するってんなら、やっぱり世界と世界の狭間は最・適・解!」
「……それもボクの真なる異能のせいなのかな」
「かもね。まあ、何でもいいさ。必要なモノは揃ったんだから。じゃあ、あとは──」
これで肉体と魂は揃った。
ならば、残る工程はただ一つ。
「────
用意した肉体に魂を宿す。
この世界に存在しない六道伊吹を呼び寄せる‼︎
「世界と世界の狭間、あの場所でまだ少年の魂は保護されている。そして、あの時の少年と女子高生は鎖に縛られていた。
「……もしかして、今も?
「そゆこと! さぁ、踏ん張りなさい! 鎖を引き寄せるのだよ、女子高生‼︎」
「ど、どうやって⁉︎」
「え? …………さぁ?」
「オイ‼︎‼︎‼︎」
「いや、おねーさんに訊かれてもねえ。自分の異能でしょ? 狙った世界の狙った体に転生させるなんて、確率が低すぎるからこそ女子高生ならイケる気がするんだけど……」
ぐぬぬぬ‼︎ と力を入れるが何も起こらない。
真なる異能なんて初めて知ったモノをどう使えば良いのか分からない。
ぐるぐるの頭が焦燥感でいっぱいになる。
あと一歩、あと少しなのに届かない。
六道伊吹と折手メアの運命が交わらない‼︎
(因果? 繋がり? 分からないよ! 人間の頭でそんな曖昧な概念なんて理解できるもんか!)
六道伊吹との目に見えない繋がり。
折手メアはそれを意識する事ができない。
そう。
そのはずなのに。
「────────
目に見えない繋がり。
分からない。理解できない。
因果改変が夜明けの光になったように。
異世界へ続く道が底なし穴になったように。
目に見えない、繋がり。
それを、世界にありふれた形で解釈する。
「
折手メアは六道伊吹の電話番号を覚えている。
この世界では通じない、何の意味もない11桁。
だが、それに意味が生まれる。全ては世界観、解釈の問題だ。
「頼む。出ろ。出てくれッ、いぶき!」
プルルルル、と着信音だけが響く。
応答はない。電話が繋がらない!
「引っ張る力が弱い……? 女子高生のそれはある種、人と人の縁を使ってた相手を引き寄せているようなもの。たった一人の縁じゃ、人間一人を引き上げるには頼りないのかも……」
「
右手で電話をかけ続けながら、左手で越智椿姫の携帯電話を奪い、どこかに連絡を始めた。
電話は一瞬で繋がる。回線の先にいる人物に向かって折手メアは叫んだ。
「頼むっ、
栗栖裕也だけじゃない。アドレイド、ブレンダ、栗栖椎菜、二万人のクローンだって。
高校三年間、折手メアは前世の知り合いと交友関係を築いた。あるいは前世よりも深い仲を。その縁を辿る。
彼ら彼女らは六道伊吹の事を知らない。誰の記憶にも六道伊吹は残っていない。
だから、もしかしたら、無駄かもしれないと諦めが脳裏に過ぎる。
でも、それでも。
頭に残ってなくても、六道伊吹を知らなくても、
「逃げられるとでも思っているのかい? このボクからッ、逃す訳がないだろうが! いぶき‼︎」
当たり前の世界の力。
人と人を繋ぐ、普通の日常の力。
それが六道伊吹を引き寄せる。
そして、最後に。
ダメ押しとばかりに小さな手が携帯電話に触れた。
「あう」
ぷつ、と。
着信音が途切れる。
「
そして。
そして。
そして。
そして──────
目を、覚ます。
段ボールで埋め尽くされた部屋。
なぜか下半身に赤ん坊が乗っている。
落としてしまわないように慎重に体を起こすと、目の前には泣きそうな顔の
「っ」
少女は何かを言おうとして口を動かす。
だが、それは声にならない。
はくはく、と息が空気を潤す。
気まずい沈黙。
赤ん坊は興味がなさそうで、その保護者らしき女性はニヤニヤと笑っている。
誰も少女を慰めようとはしない。どうやら、俺が慰めるしかないようだった。
「あー、なんつーか」
仕方がないか、と少女を抱き寄せた。
空気を読んでか、赤ん坊は下半身から退いてくれる。
少女を泣き止ませるため、ゆっくりと頭を撫でながら言う。
「
「──