着とけ、セーラー服!〜じゃないと全裸下校〜

白井ムク

プロローグ ち●事件発生

01.目先のおっぱ…偉大な先輩を目指して!

「周斗くん、その程度のやる気で、私に届くと思ってるの?」

「ぐおぉおおおーーーっ!! あと少し、あと少しなのにぃーーーっ!」

「まったく……なんでそんなに必死になれるの?」

「だって、そこに柚葉先輩の『おっぱい』があるからぁーっ!」

「バカね……」


 冷ややかな声が、湿った空気の中に響いた。


 外はまだ春の冷たい風が吹いているが、ここは違う。

 室内プール特有の湿気と、わずかに塩素の匂いが混じる温かな空間。水面には天井のライトがぼんやりと反射し、まるで春の霞がかった空のように揺れている。


 伊勢崎いせざき周斗しゅうとは、水をかく手を止めることなく、必死に前へと進もうとした。


 水面が激しく波打つ。

 冷ややかな視線を向けられているのも気にせず、目の前の標的を追い続ける。


 そこにいるのは、水泳部の部長、三年の鷹宮たかみや柚葉ゆずは


 すらりとした手足に、締まったウエスト。そして——競泳水着の上からでもはっきりとわかる、その圧倒的な二つの膨らみ。


 柚葉は周斗を意に介さず、一定の距離を保ちながら、水中を悠然と前へ進む。


「ほら、もっと前進する意識を持って」

「そんなこと、わかってるんですって!」

「なら、手と足をバランスよく使うの」

「言われなくても! ……っていうか!」

「なに?」

「だって俺が進んでも、先輩が動くからぁーーーっ!」


 全力で水をかいているにも関わらず、一向に距離が縮まらない。泳ぐスピードが柚葉の歩く速さにすら劣っているから仕方がないのだが。


 周斗が、まったく泳げない状態から入部して、約一ヶ月——。


 その間に泳げるようになった距離は、わずか五メートル。それに要する時間は二分。つまり、現状「二分で五メートルしか進めない水泳部員」ということになる。


 これは由々しき問題だ。

 高校生にもなってまともに泳げないというのは情けない。


 そこで彼は、


『泳げるようになりたい! (あわよくば、海でのナンパに使いたい)』


 から、


『柚葉先輩のおっぱいにタッチできるようになる! (そのために泳ぐ!)』


 に、目標を変えたのだった。


 柚葉は最初、呆れた顔をしていたが、今では仕方なく協力してくれている。言い換えれば、周斗のスケベ根性には一定の評価をしているということだろう。


「くっ……今日こそはッ……! 先輩のおっぱいにぃーーーーーー……」


 周斗は息を大きく吸い込み、渾身の力で水をかいた。

 次の瞬間、彼の手は空を切る──




「……バカ」




 水飛沫とともに、周斗は水中に沈んでいった。


「ゴボゴボゴボゴボ……っ!」

「終了」


 無表情のまま、柚葉は言った。

 周斗が「ぶはっ!」と水面から顔を出すと、柚葉が涼しい目で見下ろしている。


「えっ、ちょ、先輩!? まだ俺、全然泳げますけどっ!?」

「残念。時間切れよ。今日はもう終わり」


 柚葉はプールサイドへ上がり、水泳キャップを脱いだ。水に濡れたロングの黒髪を軽くかきあげる。その姿もなかなかセクシーだ。


 けっきょく、今日も目標達成はならず、無念のまま終わることになった。


「くそっ……今日もダメだったか……」


 周斗はプールサイドに手をつき、悔しさを噛みしめる。


 そうしているあいだにも、柚葉はさっさと部室へと向かっていく。


 その左右にプリンプリンと揺れるお尻を眺めながら、いつかはその尻にもタッチできるようになってみせると、周斗は意気込みを新たにした。


 と、そこに——


「——今日もダメだったかぁ」

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