パチンコ遊技「全面的禁止“案”」浮上も、警察があえて選ばなかったワケ…約70年前の“マル秘”資料が示す経緯
「全面的禁止」も規制の選択肢に
警察当局はとるべき処置として次の五つの選択肢を挙げている。 ①ぱちんこ遊技の全面的禁止。 ②賞品(景品)を認めない。 ③ 玉の発射速度が著しく速いものは認めない。オール15(編注:いわゆる「オールもの」の一種。どの入賞口に玉が入っても、15発の出玉が払いだされるという台で、ほかにもオール20などが存在した)以上を認めず、賞品については一品100円以下とし、同時に賞品の現金化を防止する。 ④オール15以上を認めない。賞品は一品100円以下とし、同時に賞品の現金化を防止する。 ⑤遊技機、賞品は現在通りとし、もっぱら賞品の現金化防止に努める。 以上の選択肢の中で最終的に決定されたのは③である。②④⑤は現状では効果が薄いという判断を下している。
「明日への意欲を奮い立たせたこともあった」
そして注目すべきは、①の全面禁止は世論や一部有識者に賛成がありながらもあえて選択しなかったことだ。 正村(編注:正村竹一氏のこと。正村ゲージと呼ばれるくぎの並びを考案した。現代まで続くパチンコ機のベースとなったことから、パチンコの神様とも称される)式が全盛だった昭和26、7年、老若男女が集まり、みなが一様にパチンコを楽しんでいた時代が警察幹部の脳裏にまだあったのであろう。その理由を文書ではこのように表現している。 「ただ、懸命に働いた後のつかれた身体、またすさんだ心は適当な娯楽またはいこいを要求するのであって、人間はこれによって明日への生命欲、生活意欲を保持向上させることができるのであろう。敗戦という有史以来の大打撃を受け、経済的、精神的に暗澹たる無気力な状態にあるとき、ぱちんこ遊技が多くの人のリクリエーションとなり、娯楽となって、明日への意欲を奮い立たせたこともあったと思われる。 また、ぱちんこ遊技が射こう心をそそるおそれのある遊技であることはいうまでもないが、人間に射こう心というものがある限り、射こう心をそそるおそれのある遊技を全廃することは不適当であり、ぱちんこが健全な方法で人間の射こう心を満たすものであれば、禁止する必要はないと思われる」
溝上憲文