歴史総合を通じて強力な思考力を
――「歴史総合」を学ぶ上で大切にしたい点は何でしょうか?
大きく三つあります。
一つ目は、史料・資料に慣れること。全部読めなくても、必要な情報を読み取っていけばいいのですが、これはある程度の「慣れ」が必要です。この力は受験に限らず、仕事をする上でも大事な力だと思うので、「将来の準備」だと思って取り組んでほしいですね。
歴史総合の問題を考える上で一つの参考になるのは、慶応義塾大経済学部の世界史の問題です。これまでも史料・資料を多用し、時間も80分と長く、断トツで良問ぞろいです。歴史総合は、慶応・経済の問題を追いかけているのではないか、とすら感じています。
二つ目は巨視的な視点を持ち、時代と国を行き来することです。例えば憲法であれば、ドイツ帝国憲法のコピーが大日本帝国憲法であり、ワイマール憲法のコピーが日本国憲法です。日本の憲法は両者とも、ドイツの憲法のコピーなのです。これは、ドイツと日本が同じような歴史をたどっているからです。
三つ目は抽象と具体を行き来すること。例えば、「民主主義は、外部に対して過酷なことをする」という一般法則があり、その具体的な事例として、インディアン強制移住法、アヘン戦争を考えてほしいです。そうした勉強を積み重ねれば、抽象的な「議会立法による政策等を以下から選べ」といった問題に対応できます。ちなみに、こういった問題は、早慶の入試問題で合否を分ける問題として、すでにあります。
             憲法について解説するゆげひろのぶさん=2021年10月、東京都豊島区
        憲法について解説するゆげひろのぶさん=2021年10月、東京都豊島区
――歴史総合に期待することは?
こちらも三つあります。
一つ目は、大きな思考力を得られるということです。この歴史総合という科目が適切に展開されれば、演繹的・帰納的思考を駆使できるようになり、知識だけでなく、極めて強力な思考力を手にすることができると思います。教える側の力量の問題や、抽象度の高い問題を作ることの難しさなど、ハードルはいくつもありますが、大いに期待したいです。
二つ目は、日本のことが、本当に分かることです。正直、今までの「日本史」という科目では、日本のことは分かりませんでした。しかし、歴史総合は諸外国と比較することができ、例えば、「わが国は、革命を起こしたことがない」「日本は、とてつもない識字率を誇る」ことやその理由が分かります。
三つ目は、歴史総合、世界史を勉強することで、未来が読めるようになることです。例えば、「日本史」であれば、関東大震災のときに、朝鮮半島出身者が井戸に毒を入れたとのデマが広がり、多くの人命が失われた……で終わりです。しかしながら、隣人を虐殺・弾圧するときは一定の法則があります。対外的緊張があるときに「裏切り者を殺せ!」となる傾向があり、北爆にさらされた中国の文化大革命、ソ連の原爆保有に恐怖したアメリカのレッドパージ、対仏大同盟におびえて殺しまくった恐怖政治などがその例としてあげられます。「日本史」だけでは、あまりにもサンプル数が少ないですが、「歴史総合(世界史)」であれば、その多数の具体的事例から、一般的法則を多数導けます。
歴史総合を通して、生徒たちに未来を見せてあげられるよう、自身も尽力したいと思います。