2025/3/13

【朗報】AI時代にも営業は必要。ただし、〇〇に限る

NewsPicks Brand Design 編集
異業種への転職によって自らの可能性を広げる人が増えている。営業人材もその例外ではない。優秀な人材ほど、メーカーからSaaS企業へ、金融機関からコンサルティングファームへと、フィールドを変えても軽やかに活躍を続けている。
では、異なる業界でも活きる営業の強みとは何か。テクノロジーが進化しても変わらない、営業の本質とは。
キーエンスで「伝説の営業」を目の当たりにしてきた田尻望氏と、doda事業本部採用ソリューション事業部で全国の営業組織を掌管する和久井剛氏が語り合う。
INDEX
  • AI時代でも営業職はなくならない
  • 見習い剣士=御用聞き営業だからつまらない
  • 現場で知った「生々しさ」が営業の強み
  • 「スーパー営業」の秘密を科学する
  • 信頼関係をつくるのも「センス」じゃない

AI時代でも営業職はなくならない

和久井 昨年12月の求人倍率を見ると、全体平均2.82倍に対し、営業職は3.19倍です。
企業が営業職を重要視している状況はずっと変わらず、転職サービス「doda」 で求人が最も多いのも営業職。ですが、「営業は潰しがきかない」という誤解によって、営業という仕事に夢を持てない人がいるのが残念です。
田尻 おっしゃる通り、さまざまな知見を持っていて、ソリューション提案やコンサルティング提案ができる営業は強い。
逆に、単なる「御用聞き」のようなスタイルの営業は、誤解ではなく本当に潰しがきかない。今後はAIに取って代わられる危険性が高いでしょうね。
和久井 たしかに、飛び込みメインで、とにかく数をこなす根性論の営業は、だいぶ減りましたが、まだまだ残っています。
今はWEB上でサービス概要や価格が調べられて、比較することも容易ですから、飛び込むだけでは売れなくて当たり前。むしろそれ以外が本当に営業が必要とされているところですけどね。
田尻 AIの進化を見ていると、AIにこそ頼りたいことが出てきた一方で、やっぱり人にしかできないこともある。
単純なデータが欲しいだけなら、もはやAIに聞いたほうが早いです。「こんな課題を抱えているけど、どんな人を採用したらいいか」なんて質問にも、AIが答えてくれますから。
でも、「その課題を解決した先、どんな企業になりたいですか」とか「どんな夢を叶えるために経営しているんですか」とAIから聞かれても、「なんだ、こいつ?」って思いませんか。
和久井 やっぱり人は人に話したいので、そこは人が介在する意味がありますよね。
その人が気付いてなかったり、言いにくかったりする部分を引き出したりして、「それなら、こういう解決策がありますね」「こういう人材が必要ですね」と提案するのは、まだまだ人にしか担えない部分です。課題を実際に解決することも、まだ人にしかできません
AIでなくとも、顧客から「〇〇がうまくいきません」と相談されたときに、ヒアリングをして、課題がどこにあるかを探って答えること自体は結構簡単です。
ただ、その企業や組織の中で実際に起きている事象に向き合って解決するのは、また別の問題で、そこが営業の力の見せ所でもある。モノやサービスを売るのではなく、解決することにこそ営業の存在価値があるわけです。
「営業」って実はなんでもできるんです。それをもっとたくさんの人に知ってもらいたいです。

見習い剣士=御用聞き営業だからつまらない

田尻 御用聞き営業って、ゲームでいうと「初期ジョブ」なんですよ。最初、「見習い剣士」としてスタートして、そのままクリアできるゲームなんてないじゃないですか。
そこから「剣士」になるために何が必要かというと、営業の基礎活動を覚えること。
身なりもちゃんとして、商品知識を覚え、相手のニーズを聞くだけじゃなくて、深掘りする。深掘ったニーズに対して、「御社にとって価値がありますから、やりましょう」と価値のプレゼンと勇気付けができる。
ここまでやって初めて、一定の確率で買ってもらうことができるんですが、この基礎活動が意外とできていないんですよ。
和久井 わかります。「営業スキル」と言うと、「その人独自のやり方」みたいな捉え方をされるかもしれませんが、大部分の定石は解明されています。
その意味で、実は営業支援ツールを使いこなすことは非常に重要。ですが、「自分流」ばかりでツールを軽視する人は少なくありません。ツールを使いこなした人がパフォーマンスを上げていることは、いろいろな結果から明らかなんですけどね。
田尻 そうですよね。SFA(セールス・フォース・オートメーション)って、営業を科学的に分析して、押さえるべきポイントをちゃんと押さえられるように設計されている。
そういったツールにいろいろな情報を入力するのって、実際、面倒なんですよ。面倒なんですが、記入することで、顧客が購入するまでの流れを作れるようになっているから、それを理解している人は、ちゃんと継続的に入力します。
正しくツールを使ううちに、「こうやってフェーズが進んでいくんだ」「意思決定の仕組みってこうなってるんだ」と、営業に関する知見も溜まっていく。
和久井 自分自身の強みや課題も見えてくるし、どんなスキルを身に付けなきゃいけないかもわかります。一方、自分流で「なんとなく」営業を続けても、何が足りないのか、何を学べばいいかわかりません
それだと、いつまでも「見習い剣士」のままで、最初に出てくるモンスター相手にもギリギリの勝負しかできない。
田尻 ゲームと一緒で、ちゃんと売れる「剣士」になって、トップセールスを上げる「剣豪」になったら仕事が楽しくなるのに、もったいないですよね。

現場で知った「生々しさ」が営業の強み

田尻 「剣豪」で終わりでもないんですよ。営業という「剣」の道に通じたあとに、それ以外の知識も得て、マーケティングもできる「魔法剣士」になるとか、全体を見られるコンサルという「賢者」になる道だってある。
和久井 営業から営業への転職って、だいたい50%くらいなんです。営業以外だと、一番多いのが企画・管理。
営業を経験した人は、相手が何を喜ぶのかを知っている。「もっと売れるようにするには、もっと営業がやりやすいようにするにはどうしたらいいか」がわかっているということなので、この転身も納得です。
田尻 企画しか経験してこなかった人は、外部との接点がない。すると、大抵の場合「生々しさ」がないんです。理屈上は正しいのかもしれないけど、相手に決断を促すだけの力がないものが上がってくる。
似たような弱点を抱える企画職の人をたくさん見てきました。営業出身なら、それが克服できます。
和久井 実は弊社の企画職でも同じような話を聞いたことがあります。
現場の近くにいたときには、営業を通じてお客様の顔色も声色も感じながら、本当に困っている部分が何なのかを感じ、深掘りすることができた。
それが、営業から企画に転身して、大手町のオフィスで机に張り付くようになると、自分優位、会社優位の戦略設計や販促ばかりしてしまうようになる、と。
田尻 現場の感覚を忘れてしまうと、そういうことにもなりますよね。
たとえば、製造業において、高いモノの価値を認めて「買いたい」と一番言ってくれる人は誰か。経営者じゃありません。現場の人です。
だって、現場の人は高いものが使いやすいことを知ってますから。それに、高いものを買っても、自分の給料には何ら影響がない(笑)。そして、購買の人は「現場がいいなら、予算もあるしいいですよ」と言う。
経営者だって、現場でストなんか起きたら嫌じゃないですか。だから現場の人が「絶対これがいい!」と言えば、大抵は折れます。そういう生々しさを知っている営業が、その後、フィールドを移しても活躍するのは、当然と言えば当然ですね。
和久井 これは営業に限らない話ですが、異業種に転職した人の65%が、転職して給料が上がった、というデータがあります。
特定の職種や業種に縛られないポータブルスキルを身につけていることが、ちゃんと評価される時代なんですよ。

「スーパー営業」の秘密を科学する

田尻 ちゃんと営業を科学したら、スキルも身につくし、「魔法剣士」にも「賢者」にもなれる。だけど、たまに『キングダム』で言うところの「龐煖(ほうけん)」みたいな、スーパー営業が出てくることがあるじゃないですか。
和久井 いますね。普通の人の3倍くらいデカくて、めちゃくちゃ強い、みたいな(笑)。
田尻 キーエンスだと、著書『シン・営業力』でも知られる天野眞也さんがまさにそうでした。それまで絶対に落とせなかった相手と、いつの間にか友達になっているとか、何千億円企業の役員と「あ、飲みに行ってきます」と気軽に言う。
「どうやって関係を作ったの?」って、僕ら一般剣士にはまったく理解できなくて。
和久井 龐煖みたいな人も、ある程度は科学できると思うんですけどね。
田尻 できるんですけど、難しいんですよね。
たとえば天野さんって、めちゃくちゃ自己肯定感が高いんです。目の前の人が裏切るとは思わないし、目の前の人を奮い立たせることしか考えていないんです。だから一緒にいると、何だかよくわからないうちに気持ち良くなっちゃう
和久井 龐煖は単騎で強いから、周りを奮い立たせるという意味では、王騎のほうが近いかも。
田尻 そうかもしれません。天野さんが営業すると、300万くらいの予算だったはずが何千万に変わっていく。
商品の良さを説明した結果じゃないんですよ。天野さんと話していて、勇気づけられた相手が、それだけ投資しても、見合ったリターンが得られると確信してしまう。
王騎が矛を掲げるだけで、兵士が「ウオオオオ!」と盛り上がるようなものです。営業って『キングダム』でたとえると話が早いですね(笑)。
和久井 科学するのは難しいかもしれないけど、理屈としては納得できますね。
市場だって株価だって感情で動くし、機嫌がいいときと悪いときでは、財布の紐の堅さも違う
田尻 意思決定にはエネルギーが要りますからね。どれだけ良さそうな商品だったとしても、元気ないときは「えー、お金払うのか」という気分になる。逆に、お酒を飲んで気分が良いときにコンビニに入ったら、いらないものまで大量に買っちゃったり。
ワケがわからなくなるほどテンションが上がるのはマズいけど、結局「○○さんがいるとチームが明るくなるよね」って、すごく大事なことなんです。それこそが能力というか。
組織全体が前向きになったら、間違いなく行動量が上がる。つまり、他社よりもスピードが速くなる。他社よりも速く商品を出せたら、勝てるに決まってますからね。

信頼関係をつくるのも「センス」じゃない

和久井 懐に潜り込むとか、周りを鼓舞するとか、そういうことができる営業は、営業スキルのベースになる信頼関係構築がうまいんでしょうね。
田尻 まさに。営業って、仮説を立ててから話を聞きますよね。でも、信頼関係ができていないと、仮説が当たっていても「別に大したことじゃない」みたいな顔で流されることがある。
和久井 嘘をつくわけじゃなく、信用されていないから、扉が閉ざされている状態ですね。
田尻 営業って、相手企業とタッグを組んで、一つの課題を解決するプロジェクトなんです。特に大企業相手になると、たくさんの部署の人たちを巻き込みながらやっていかないといけない。信頼関係がない相手に、ペラペラと内情をしゃべってはくれませんよ。
和久井 よく「コミュニケーション力がないから営業に不向き」という人がいます。誤解されがちですが、営業は向き不向きではなく、大半が後天的に身に着けられるスキル。個々のスキルと同じで「信頼関係構築力」も鍛えることはできます。
田尻 できますね。だから「あの人はセンスがあるから」と逃げちゃダメです。運動神経がいい人だって、練習するからこそ上達するのと同じです。
実は僕、営業トレーニング用に「AI田尻」というアバターを作ったんです。年商5億、従業員50名の会社社長である「AI田尻」に対して、コンサルティングセールス研修を売る。
過去の実績から、ROIを示して、コストが上がらないこと、従業員モチベーションが下がらないことを見せて、導入プロセスを説明しないと、「AI田尻」は納得しません。僕も「AI田尻」に営業してみたんですが、結構苦戦しました(苦笑)。
和久井 AI田尻ですか。すごい時代になりましたね。でも、AIによるトレーニングは、「このスキルを伸ばそう」と自分で決めて、トライ&エラーを繰り返すにはもってこいでしょう。
「AI田尻」(写真右)に営業する田尻さん(写真左)。時代はここまで……。
田尻 和久井さんの言うように、「営業は苦手」「自分には無理」という人はたくさんいます。でも、実際にはみんな、赤ちゃんのときから「営業」を経験しているんです。
赤ちゃんって、泣くじゃないですか。それは、相手に何かしてもらいたいからです。それこそ「営業」の土台ですよ。大人になって苦手になるなんて本来はあり得ないんだから、練習して思い出せばいいんです。
和久井 仕事も転職も、さまざまなツールが生まれ、今やいろいろなデータが明らかになっています。目の前の仕事を頑張りながら、スキルを身に付けることも容易になったし、キャリアの選択肢から最適なものを選ぶための情報も出回っているという意味で、とてもいい時代です。
自分自身のキャリアを自身で決めていく「キャリアオーナーシップ」を推進する当社としては、今後もさまざまな支援を通じ、市場に「はたらいて笑おう」を広めていきたいと思っています。
田尻 調子のいい業界、悪い業界の推移はあるけど、信頼関係を構築して、相手先と一緒に課題を解決するという営業の本分は、業界・業種に左右されません。
歴史に名を残す大将軍にはなれないにしても、「魔法剣士」や「賢者」として人生を輝かせてほしい。僕は「はたらいて、笑おう。」って、そういうことだと思います。