「でも、きっと、生まれ変わった貴方がこの下界にはいる……。きっと貴方と、また巡り合える……」
「だから、次にあったときは――一万年分の恋をしよう、ベル!」
「…そうやって、最後の言葉を決めておきながら、生き残った気分はどうだい、アルテミス」
「とりあえず、ベルはともかく裸を見たヘルメスはこのまま川に流して、お婆さんにでも拾われてもらうと良いな」
「モガァァァ!!」
じたばたと顔を真っ青にして、暴れているのは簀巻きにされたヘルメス。
そんな彼の横にいるのは、ヘスティアに…アンタレスによって取り込まれ、そのまま一緒に消滅するはずだった女神アルテミスがいた。
アンタレス討伐の騒動も無事に終わり、オラリオに帰還したヘスティアファミリア達。
ホームである竈の館に帰還した中、その一室では神々たちが集まっており、救出されたアルテミスに対しての扱いに関して話していた。
囚われていた身の上だったとはいえ、一時はオラリオを危機一髪な状態にしてしまった身。
そのうえ、アルテミスファミリアの面子も既におらず、自身は0からの状態になっている。
ならばどうするかと議論を重ねた結果…ひとまず、しばらくの間はヘスティアファミリアにて、居候をしてもらうことになった。
期限を特に設ける気もなく、そもそも厄介事を持ってきたのはヘルメスと言うことで彼はオラリオの遊覧船でしばらく船首先の像の刑に処されることが決まり、問題自体はほぼ解決したと言って良い。
しかし、もう一つ増えた問題としては…
「…ああ、どうしよう。あれだけのことをしでかしたせいで、まともにベルに近づけない…本当ならこう、もっとつつましやかにすべきなのに…あああっ」
「どこかの何リオン君と同じような悩み方をするね、君…」
…オリオンの矢に残されていた残滓と、ベルとのやりとり。
それはばっちりと本体であったアルテミスにもフィードバックされていたようであり、天界では風紀委員会長のようなことをしていた初心な彼女からすれば、相当来るものがあったのだろう。
例えで言えば、この時間軸ではないどこかで深層でベルと過ごしたエルフの少女のような恋愛観を持っているがゆえに、羞恥に焼かれているのである。
ある意味、あのままアンタレスと共に消滅して、何もかもすっきりした状態で一万年後に再会したほうが楽だったかもしれない。
これももしかして、彼女に落とされた神罰ではなかろうかとさえ思ってしまうほどである。
「で、でも…うーーーっ!!」
ごろごろと顔を真っ赤にして転がるアルテミス。
その姿に、かつての天界での姿と比較し、本当に変わったなぁと良かったのかそれとも大事なベル君に好意を持つ女が増えて良いのか、物凄く複雑な表情をヘスティアは浮かべる。
「んん-!!よし、こうなったら決めた!!ベルに、私のオリオンにアタックしまくってはまだできないけど、その心の準備ができるまで、彼に近づく女の影があれば、それを追い払うことに注力を尽くそう!!」
「どうしてそうなるんだい、君は!?でも、その考えは同意できるけど、ああもう、何て言えばいんだこの感じはぁぁぁ!!」
…その日から、新たな神がオラリオに居つくことになった。
ファミリアの再建を目指しつつ、とある兎の団長を狙いつつ、その彼を狙う女の手からは守ろうとする一人の狩人のような女神が。
アタックを仕掛けようとして真っ赤になったり、あるいはどこかのエルフと意気投合したり、はたまたは彼を狙ったとある美神が尻に矢を受けるのを防ぐために鋼の貞操帯を注文して眷属を混乱させたりと騒動が増えたりもしたが…それでも、楽しそうなその姿が見られるのは、良いことなのだろう。
「ところでヘスティア、私の新しいファミリアが成長したら、彼を、オリオン…ベルをくれないかな?絶対に大事にするから!!」
「そんなことはさせないぞ、アルテミスーーーーーー!!」
…そんな微笑ましいようなやり取りが見られるようになったのも、ありえたかもしれない時間だからかもしれない…