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研究者の雇用不安 人材軽視では劣化を招く

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理化学研究所で計画された研究者らの「雇い止め」に抗議する労働組合の組合員ら=埼玉県和光市で2023年3月29日、山崎恵利花撮影

 日本の研究力を支えるには、安心して職務に打ち込める雇用環境の整備が急務だ。

 文部科学省が、大学などで10年勤務した研究者らの雇用状況を調べた結果、ほぼ10人に1人が定年退職以外の理由で契約を終了していた。「雇い止め」だった可能性がある。

 研究者は有期契約の期間が10年を超えると、無期契約への転換を求める権利を得る。2013年の関連法改正で導入された制度だ。雇用主は拒否できない。

 ただ、法施行から10年たった23年以降、契約更新できず雇い止めになったり、有期契約のまま働き続けたりする研究者が相次いだ。

 今回の調査では、全国の805機関から回答を得た。所属する全ての職員のうち有期契約は46%だった。

 雇用期間が10年を迎えた8230人の雇用状況を確認したところ、無期契約になった人は、前年調査より増えたものの、およそ6人に1人にとどまった。一方、有期で契約を継続した人が約7割と大半を占めた。

 無期契約が広がらない背景には、国からの運営費交付金の削減によってコストのかかる無期ポストが減らされ、公的な研究費も有期プロジェクト中心に配分されるようになったことがある。それに伴い有期ポストが増えている。

 有期の場合、短期間で成果を出すことを求められ、次の職場探しも同時に迫られるため、腰を据えて研究を進めることが難しい。

 雇い止めによって、時間をかけて育てた研究を続けられなくなった例もある。

 研究人材の新陳代謝には、組織の活性化やイノベーションの創出につながる効果が期待される。しかし、「駒」のように扱われ、本業に集中できなくなるようでは本末転倒だ。

 日本の研究力の低迷は深刻だ。20年前は引用回数の多い科学論文の数は世界4位だったが、現在は13位に沈む。

 身分が不安定な研究者の道を、若者が選ばなくなれば、研究力の低下に拍車がかかる恐れがある。

 政府や研究機関は、雇用の安定性を高めるという法律の理念を踏まえ、研究者の不安払拭(ふっしょく)に取り組むべきだ。

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