第47怪 編入試験委員会の判断

 【慶皇館大学付属】の魔導科、編入試験委員会のある会議室のドーナツ状のテーブルの各席には十数人の試験の委員がいずれも難しい顔で座していた。

「おい、朽木永司くちき・えいじのこの結果、本当なのか!?」

 プルプルと資料を持つ手を震わせながら、委員長である長髪のローブ姿の男性が声を張り上げる。

「はい。私がこの目で見ましたので全て真実です」

「この身体強化系の魔術の精度すごいですよ! 5tの鉄球を持ち上げ、垂直飛びでは天井に届き、握力系を破壊し、砲丸投げでは会場の天井にブチ当てて崩壊させている。控えめに見ても一般の身体強化の魔術のレベルを超えている」

「いや、これは精度どうこうの問題じゃない。詠唱魔術単独での限界を明らかに超えているからな。おそらく、無詠唱の【身体強化】の魔術と併用している」

 長髪の美丈夫のこの台詞に室内は騒めいた。

「無詠唱の【身体強化】の魔術……エルドラの秘術に属する魔術ですか。エルドラがよく教えましたね。それだけ、この受験生に入れ込んでいる、というわけですか」

 七三分けの男性委員の呟きに、

「エルドラが重視するのも十分すぎるほどわかりますよ。個別魔術実演試験では、あり得ない強度の水魔術と火炎魔術を行使してますし、模擬試験では幾島試験官を一方的に撃破。やり過ぎて幾島教官に負わせてしまった傷をヒールで瞬く間のうちに全快させていました」

 ミウのこの言葉に室内の至ところから驚愕の声が上がる。

「これで魔力が低いという結果はあり得ないな」

 長髪の美丈夫の委員長の噛みしめるような言葉に、

「そうですな。この度坊主が発動したこの超高度な攻撃とヒールの魔術は無詠唱。おそらくこの坊主の魂と結びついた固有魔術であり、凄まじい魔力量がないと到底不可能だ。だとすれば、あの測定器で測定できなかった以上、魔力総量150越えは確実でしょうよ」

 ムキムキのマッチョな委員が椅子に寄りかかりながら、ぼんやりと資料を眺めながら断言する。

「複数の固有魔術を持つ、魔力150越えの少年……ですか。はっ! それでは確かに幾島ごときでは手も足もでないですよね。でも、それって国内で10番目のS級ヒーローの誕生ってことじゃないんですか?」

「そう簡単にはいかぬ。この少年の経歴は知っているだろ?」

「彼は『準人間』、元怪人です」

「馬鹿馬鹿しい! この将来有望な人間が怪人⁉ 怪人にこんな無茶苦茶な力あってたまりますか! 再審査で暴走の恐れがないと判断された以上、彼は元より人工的な半人半魔ではなく、天然の『超人』だった! どう考えてもこれは英雄同盟のボンクラどものミスです!」

 委員の一人が皮肉気味に書類をテーブルに叩きつけると左の掌でバンバン叩いて怒りを表現する。

「その通りだ。この結果で元怪人など悪い冗談だ。だが、世間はそうは見ない。元怪人というレッテルはそう簡単にはがすことができない。この事実を仮に公表しても、今回の失態を演じた英雄同盟とその失態を見過ごしてきた行政はもみ消しに動くだろう。圧力を受けたマスコミもあからさまに無視するはずだ。なにせ、他にも似たような事件が多発している可能性を一般国民に気付かれる危険性があるからな」

 長髪の委員長の言葉に、

「腐ってる! だから、プライドだけが高い英雄同盟も、自己保身を図ることしか能がない役人どもも嫌いなんだ!」

 ミウが強い口調で吐き捨てる。

「で? 委員長、結局、この少年を合格させるのですか、させないのですか?」

「実技は文句なしの100点満点だ。これならよほど学科が悪くなければ合格だが、そこんところどうなんだ?」

 マッチョで坊主の委員が今まで一言も発言していない髪を七三分けにした眼鏡の委員の男性に質問する。

「一般教養試験はほぼ満点に近いです。魔術関連試験は……」

 口籠る七三分けの教員に、

「魔術関連試験の結果が悪かったってわけか。でも、一般教員試験は今回難しかったようだし、一般教養試験がそれだけとれているなら合格するだろうよ」

 他の委員が両腕を組んで頷きながら自身の予想を述べると、

「違うんです。いえ、確かに点数は悪かったのですが、少なくとも詠唱については間違っていたのは我らの解答の方でした」

 七三分けの委員は自らを落ち着けるように、眼鏡を外して胸ポケットから眼鏡拭きを取り出してそれを拭きながら、そう宣言する。

「間違っていたのが我らの解答の方? それはどういうことだ?」

 眉をひそめて問う長髪、美丈夫の委員長に、

「基礎魔術である【火球ファイアーボール】、【小回復リトルヒール】に関しては彼が書いた詠唱により、著しい効果の向上がみられました。それこそ、全く別魔法のように」

 七三分けの委員は真剣な表情で答える。

「そんな馬鹿な! あれは我ら魔術師に代々伝わってきた詠唱だぞ!」

「でも、事実です。【火球ファイアーボール】は蒼炎となって、私の意思で大きさを制御し、自在に動かすことができるようになりましたし、【小回復リトルヒール】に至っては【大回復グレイトヒール】並みの効果がありました。これだけで、正式な学会に提出すれば、上に下への大騒ぎとなるような内容です」

 こんどこそ、室内は喧騒に包まれる。その事実に半信半疑であり直ぐにでも確かめるよう主張する者、朽木永司くちき・えいじの実技試験の結果につき、合点が行ったと納得する者、気が早く自身の大学の研究室に招きたいと声高らかに叫ぶもの、三者三様のリアクションをする中で、

「アルベルトの奴め、これを狙って朽木永司くちき・えいじの囲い込みをしていたな……」

 長髪の委員長が犬歯を剥き出しにして憎々し気にそう呟く。

「彼を落とせばエルドラの一人勝ちになる可能性がありますよ」

「わかっている。配点の高い実技試験で満点、一般教養試験も満点に近い、さらに、その二つの詠唱を吟味し、見劣りなく発動できるなら魔術系問題に特別加点をつける。それで充分合格点に届く。皆もそれでいいか?」

 長髪の委員長は一同をグルリと見渡して問いかける。

「異議なし」

「俺も異議ねぇぜ」

「私もです」

 委員の皆が頷くのを確認して、

「では今回の編入試験の合格者は、朽木永司くちき・えいじと、セシリア・エル・スペンサーとする」

 委員長は立ち上がって、右拳を握って二人の合格者を提示したのだった。

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