第46怪 ファミレスでの談話

 スマホのLINAで指定されたファミレスに向かうと、

「エージ! こっち、こっち!」

 ガラス越しに満面の笑みで両手をブンブン振るツムジちゃん。その隣には、制服を着ている女生徒がいた。くせっけのある肩まで伸びた癖毛に、若干眠たそうな目。もちろん、こんな少女、初対面の人物だ。

 ツムジちゃんって、とんでもないコミュ力しているからな。何もおかしな話ではない。

 もっとも、若干、コミュ障の俺としては正直苦手だ。

 ファミレスに入ってツムジちゃんたちの席に行くと、

「お疲れ、エージ! 早く座って」

 ツムジちゃんが自分の隣に座るように指示してくるので言葉に甘えて腰を掛ける。

「へー、彼がツムジのいうエージね。思ったよりパッとしないね」

 興味深そうに黒髪の少女は不躾にも俺をジロジロと観察してくると、よく言われる評価をされる。俺のような木っ端怪人にとって、目立たないという評価は、実にありがたいものだ。

「それはどうも、あんたは?」

「私は半田深雪はんだみゆき。この学園の一年生だよ。よろろ!」

 ヘンテコなポーズで挨拶をしてきた半田に、若干引きながらも、

朽木永司くちき・えいじだ。ま、合格したらよろしく頼む」

 感嘆に挨拶を済ませる。

 変な奴だが、せっかくツムジちゃんと仲良くなってくれたんだ。俺がぶち壊すわけにもいくまいよ。

「やっぱり、ツムジの言うほど強そうには見えないなぁ。魔力もほとんど感じられないしさぁ」

「そりゃあ、ツムジちゃんの場合は、明らかにバイアスがかかっているし」

 ツムジちゃんを横目で見ながら、そう答えると足先を踏みつけられる。

 今、ツムジちゃんの身体能力は人外と化している。そのせいか、本人は軽く踏んでいるつもりなんだろうが、滅茶苦茶痛い。痣くらいにはなっているかも。まあ、俺には自己治癒があるし、瞬時に癒せるから、どうってことないんだが。

 それにしても、この自己治癒の回復力、我がことながらドン引きした。

 何せ誤って切った指の傷が一瞬で跡形もなくなったくらいだからな。

「エージは強いよ。私なんかより、ずっと」

 そう断言するツムジちゃんは笑ってはいたが、妙な迫力があった。

「……ツムジより強いとなると、事実上学園でも最強クラスだってことだけど、うん、そういうことにしておくよ」

 多分、自分に嘘がつけないタイプなんだと思う。

「もう、深雪ちゃん、本当なんだってば!」

「ツムジちゃん、そうむきにならんでも」

 俺が横から宥めようとするが、

「わかったよ!」

 ツムジちゃんはそっぽを向いてしまった。あーあ、これは臍曲げちゃったな。

「飯を注文してから、話そう」

 メニューを手に取ると、少し遅い昼食の料理を選び始める。


「魔導科ってそんな授業なんだな。しかもダンジョンまであるとは」

 一般教養に加えて魔術の授業がてんこ盛りらしく、かなりのハードスケジュールだそうだ。特に実習は一般的な戦闘訓練から、基礎魔術に、さらにダンジョン探索もあるようだ。

 まあ、今のヒーローの一般的な業務は、ダンジョンから這い出てくる魔物から市民を守ることだ。その必要性は考えるまでもない。

 ただ、いくら必要だとしても、実際にダンジョンを保有、管理している高等学校などこの【慶皇館大学付属】くらいだろう。

 ダンジョン――俺たちのいる世界と繋がった異世界の総称だ。石造りの洞窟のような形態から、山や海、高原、荒野、砂漠まで様々なフィールドがあると言われている。そしてこれらのダンジョンは、アメーリア合衆国による魔導宣言と同時期に出現している。

「ここにあるダンジョンはノーマルダンジョンとは違い、コアダンジョンだから、そう簡単に消滅するものでもないのよん」

 ノーマルだのコアだのよく分からない用語も出てきたが、通常のダンジョンは、支配しているボスを倒すとダンジョンのゲートは消滅する。話しの流れ的に、コアダンジョンというのはゲートが消滅する条件が他のゲートとは違うんだと思う。

 ともかく、もしそんなダンジョンがあるなら、今の俺の修行にはもってこいだ。どのみち、B級以上のゲートに潜るには、一定の強さは必須だし。

 あとはこの学園に合格するだけだが、それが今一番の問題だ。

 とはいえ、もうすでに俺がどうこうできる段階ではない。結果を待つしかないさ。

「この学園の学生は、ダンジョンに潜る事ができるのか?」

「うん、この学園のダンジョンなら申請すれば入れるし、ヒーローの仮免許を取れば、すぐにでも国内の一定のダンジョンに入れるよぉん」

 そうか。ダンジョン内に潜れる術はあるのか……。

 悪いが俺は、アルベルトたちのように何年も待つつもりはない。【白月】の弟や妹たちはまだ英雄同盟に怪人認定されていないものがほとんどだ。直ぐにでも普通の人間として暮らせるようにしてやりたい。ようやく、俺がやるべき道が見つかったんだ。俺にはもう止まるわけにはいかない。

「仮免か……」

「それもこの学校に入れたらだけど。肝心要の試験はどうだったの?」

 気にしていることをズケズケと聞いてくる奴だ。だが、気を使われるよりはずっといい。

「一般教養はできたんだがな、魔術の記述は、あまり自信はない」

「実技試験は?」

「多分、そっちは何とかなったと思う」

 俺の返答にしばし、目を見張っていたが、

「編入試験での実技ってクソ陰険幾島がいるから、かなり難易度が高かったはずだけど?」

 身を乗り出して問うてくる。

「ああ、あの眼鏡の優男か。槍を持った真剣勝負だったからな。手加減せずにやったら、気絶させてしまった。マイナスの影響がなけりゃあいいんだがね」

 やっぱり、あの幾島って『くそ陰険』っていうカテゴリーなのね。

「幾島を気絶させた? 君が?」

 オムライスを掬っていたスプーンの手を止めて唖然とした表情で深雪は尋ねてきた。

「まあな、だが、魔術ではない純粋なる武術の話しだぞ」

「それって本当?」

「俺に嘘を言う意味がないな。ミウとかいう教官に聞いてみればいいんじゃないのか?」

「現役D級ヒーローを戦闘で気絶させた? いやいやいや、ありえない! そんなの無理だよ!」

 自分の世界に入ってブツブツと呟き始める深雪に、

「そうよ! エージはすごいんだから!」

 胸を張るツムジちゃん。

「ごめん、少し用を思い出した」

 深雪は用事があるといってオムライスを残したまま退席してしまう。

ツムジちゃんと顔を見合わせながら、昼食を食べると帰路につく。

 

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