第45怪  模擬試験

 ミウ試験官が他の試験官を呼び出して、以降はその試験官が試験を進行することになった。俺たちは怪目付け役のソフィア同伴で、最後の試験であった模擬戦に移る。

 試験場を離れるとき、セリシアから親の仇のような眼で睨まれてしまう。理由はさっぱり不明だが、相当嫌われてしまったようだ。

 次が教官との模擬試験であり、個室の競技場へ連れていかれる。

 そして、俺の前には、眼鏡の優男が槍を持って佇んでいた。

「あくまで現在の戦闘技術を見たいので、殺傷能力の高い魔術は禁止です。強化系の魔術に限定してください」

 ボブカットの女性試験官がそう俺に指示を出すが、

「それもやめておいた方が良いですわ。まだ、エージは自身の力をよく分かっていませんからそれでは彼死にますわよ」

 ソフィアが有難迷惑な忠告をしてくる。相手は仮にもこのヒーロー育成する学園の教員。下手なヒーローよりは強い力を持っているのは間違いない。もちろん、俺にそんな大した戦闘技術はない。身体強化をしなければあっさり敗北するようなレベルに過ぎない。

「おい、あんた、この俺がこんな怪人モドキに負けるとでも⁉」

 怒気を込めて至極まっとうな台詞を吐く。

 おそらく、発言からもこの教官、俺が『準人間』であることを知っている。もちろん、経歴書を出しているから、別におかしな話はないわけだが。

「ええ、貴方ではどうやってもエージには勝てない。かなり重たい枷をエージに課してかろうじて勝負が成立するかの話しですわ」

 ソフィアの言葉に、

「貴様、この俺を誰だと――!」

 怒号を上げようとする眼鏡の優男を、

「幾島先生! 少し黙ってて!」

 ミウが左手で制する。そして刺すような視線をソフィアに固定すると、

「ソフィア、この試験を通じて彼に自身の力を自覚させるつもり?」

 有無を言わせぬ口調で尋ねる。

「流石ね、ミウ。その通りですわ。その理由くらい貴方なら予想くらいつくでしょう?」

「……」

 しばし、ミウは腰に手を当てて考えこんでいたが、

「わかりました。44番、魔術は一切なしでお願いします。幾島先生は好きに戦って」

 そんな理不尽極まりない指示を出してくる。

「ふざけないでくださいよ! そんなの俺に勝てるわけないでしょ!」

「初め!」

 俺の抗議など考慮することなく、ミウは模擬試験開始の号令を出す。

「くく……くははは! ここまで舐められたのは生まれて初めてだ!」

 槍の先を俺に向けてくる。

 ちくしょう、奴の眼、本気だ。本気で俺を殺そうとしている。確かに俺は所詮、名誉人間、仮に正式な模擬戦で命を落としたとしても、社会は碌な捜査もせずに無罪放免になる可能性が高い。

 冗談じゃない! こんなところで死ぬ事はできない。俺が死ねば全てが水の泡だ。同時に、ここで魔術を使用すれば失格となり、この学園への編入は絶望的となる。そうなれば、俺の弟や妹は永遠に怪人のままだ。

「どいつもこいつも好き勝手言いやがって!」

 死んでたまるか! 負けてたまるか! 俺にはまだ成し遂げねばならないことがあるんだ!

 なぜか、一度もとったこともない構えをしていた。

 奴が槍を放ってくる。その妙にゆっくりと・・・・・と迫る槍の穂先を身体の重心をずらすだけで避ける。

「な、なぜ当たらない?」

「そうか……」

 やっぱり、こいつ俺に本気で当てるつもりだったようだ。通常の生徒に対しては絶対に持たぬ思考だろうよ。要するにこいつは俺が怪人だから、死んでも構わないと思ってこの試験に挑んでいるんだ。そう。まるで、ムシケラを踏みつぶすかのように!

 奴の槍の穂先を躱しながら数歩前にでると、奴の懐に潜り込んでいた。

「なっ⁉」

 幾島教官の無防備な鳩尾に回転をつけて左拳を叩き込む。

「ぐが!」

 弓なりに背中が反り上がり、同時に顎を右拳で故意に掠らせる。

左拳を眉間に、右拳を奴の左の蟀谷にブチ当てる。同時並行的に放っておいた右足を軸にした左回し蹴りをその顔面に叩きつけた。

 幾度も床をバウンドして床に投げ出される幾島教官。

 ビクンビクンと痙攣しているが、白目をむいており、瀕死の状態なのが伺えた。

「ちっ! やり過ぎた!」

 幾島教官まで走ると左手を当てて、【小回復リトルヒール】を発動させる。

 傷が瞬時に癒えていき、血色が悪かった顔が元に戻っていく。よかった。間に合った。

 しかし、どういうことだ? 俺は確かに幼い頃から戦闘訓練をずっとしてきてはいるが、あんな複雑な動きはできたことはなかった。いや、そういう問題じゃない! 俺は幾島教官の僅かな筋肉の動きを認識、分析して複雑かつ緻密で極めて効率的な肉体破壊の方法を選択してしまう。そして、その方法は僅かにも俺の記憶にはないが、身体自身が知っている。そんな奇天烈極まりない感覚。

「身体強化をすれば確実に殺してしまっていた……なるほどね。ソフィア、貴方言いたいことは痛いほどわかったよ」

 ミウが幾島教官の無事を確認すると、ソフィアに向き直り、噛みしめるように口にする。

「そ、そうね」

 なぜか、頬を引き攣らせながら頷くソフィアに、

「試験はこれで全て終わりです。結果は分かりきっていると思いますが、後日ホームページに掲載されます」

 ミウは一方的にそう宣言してくる。

「了解」

 やれることは全てやった。あとは、人事を尽くして天命を待つって奴だな。

 俺は踵を返してツムジちゃんとの待ち合わせ場所へ向かう。


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