第43怪 測定試験
午後の実技試験の前半は、各種の測定だった。
まずは、魔力測定。魔力は巨大な測定器で測ったわけだが、怪人の再審査のときと同様、エラーが繰り返しでることになる。怪人再審査のときには、審査官は魔力が図れないほど低いと判断したようだったが、今回の男性試験官も同様に判断したようだ。しかも、今回は2回のエラーでそう判断された。
次が筋力、握力、跳躍力、持久力などの身体能力の測定。
素の身体能力と魔術を使用した状態での身体能力を見る。魔導科だけあって、単なる体力測定にとどまらず、魔術の行使も考慮にいれるようだ。
無論、俺は怪人と言っても身体能力に特化などしておらず、素の運動能力は一般人に毛が生えたレベルに過ぎない。案の定、他の体力自慢の受験生たちよりもずっと平凡だった。ただでさえ、魔術の学科の試験は手応えがなかったんだ。ここである程度挽回しなければ俺は不合格になる。この編入試験に落ちれば計画は頓挫する。それは【白月】の弟や妹を見捨てることに等しい。それだけは避けねばならない。この実技の試験は落とすわけにはいかないんだ。だから、他の受験生の強化系魔術の行使をじっくりと観察して対策を練ることとした。
現在、俺は膂力の測定試験の列に並んでいる。この試験は、地面に置いてある各重さの鉄球5t、1t、500kg、400㎏、300㎏、200㎏、100㎏、80㎏、60㎏、40kgを強化の魔術を使用することにより、どの重さまで持ち上げることができるかを測定するものだ。
いかにも体力自慢というゴツイ体格をした受験生が200㎏の前に行くと、
「ᛟᛟᛁᚾᚪᚱᚢᚴᚪᛗᛁᚤᛟ, ᚥᚪᚱᛖᚾᛟᚾᛁᚴᚢᛏᚪᛁᚾᛁᚴᚤᛟᚢᚴᚪᚾᛟᛏᛁᚴᚪᚱᚪᚥᛟ」
早口でそう詠唱をする。直後、その受験生の身体が淡い光に包まれる。
受験生が200㎏の鉄球を持ち上げると、周囲から驚嘆の声が上がった。
俺と言えば、著しく混乱していた。
受験生は強化系魔術に例外なく詠唱を唱えている。あの魔導書にはそんな詠唱については一切記載されていなかった。というより、強化系の魔術を詠唱をするという発想自体がないといったらよいか。
さらに同じ詠唱のはずなのに、受験生により効果のばらつきが著しい。今日は調子が悪いと悔しがっている受験生も結構な数いたから、受験生の魔術適正とかいう問題でもないんだと思う。
詠唱の内容に鑑定をかけてみると、『大いなる神よ、我の肉体に強化の力を』という翻訳結果が得られた。
おそらく、この魔術を行使することにより『大いなる神』とやらに該当する異界の生物がランダムで選択されて、効果を発現しているんだと思う。その『大いなる神』とやらが特定されていないから、その人や状況によって効力が薄くばらつきがあるのだ。これではまったくの運であり、再現性が確保しえない。
もちろん、俺はこんな詠唱をしなくても、問題なく【身体強化】の魔術を行使しえる。
ただ、全受験生がこの詠唱魔術を使用していることからも、この試験はこの魔術を使用することが前提になっている可能性が高い。要は、無詠唱魔術のみを行使しても、評価されない懸念があるとういことだ。
「受験番号44番」
遂に俺の番となる。
前提となっている不完全な詠唱魔術だけでは、俺は確実に勝利することができない。
だから、無詠唱の通常の【身体強化】の魔術を行使しつつ、詠唱魔術も使用することにした。無詠唱の【身体強化】の魔術と併用することが禁止されているとは、試験官から説明はされていない。もし、注意されたら、わからなかったと言ってやり直せばいいだけだ。
さて、実際の【身体強化】の魔術だが、これは今俺が行使しえる数少ない術の一つ。
【身体強化】の魔術単独でも、今見た受験生の中では十分トップを取れそうだが、今後俺と同じような発想の奴が出てくれば簡単にひっくり返る。魔術の記述試験が思わしくなかった今、俺は崖っぷちなのだ。だからこの測定試験での失敗は絶対に許されない。
【
「ᛟᛟᛁᚾᚪᚱᚢᚴᚪᛗᛁᚤᛟ, ᚥᚪᚱᛖᚾᛟᚾᛁᚴᚢᛏᚪᛁᚾᛁᚴᚤᛟᚢᚴᚪᚾᛟᛏᛁᚴᚪᚱᚪᚥᛟ(大いなる神よ、我の肉体に強化の力を)」
詠唱しながら5tの鉄球まで行くとその穴に指をはめる。
「ちょ、ちょっと、それは――」
試験官が俺に何かを言いかけていたが、構わず5tの鉄球を持ちあげた。
「どっこいしょ!」
体感的には少し重い荷物を持ったくらいだろうか。
「これで、もういいですか?」
試験官に尋ねると、
「……」
女性の試験官はポカーンと半口を開けていて答えやしない。
「試験官さん!」
「は、はいっ! 問題ありません! 鉄球下ろしていいです!」
弾かれたように叫ぶ試験官に、首を傾げながら、鉄球を下ろす。
静まり返る室内にポツポツと雑音が混じり、喧騒へと至る。
これでこの種目はぶっちぎりの合格点だろう。
他の種目、垂直飛びは詠唱を唱えつつも、【
同じく握力は握力系を破壊し、持久走では他の全ての選手を数回周回遅れにした。
他の受験生がやる気を失っているのを目にして、自分が流石にやり過ぎた事を自覚したとき、
「貴方、強化系だったってわけですね?」
セシリアがそんな聞いた事もない話を振ってくる。
強化系? 身体能力強化に特化した魔術師ってことだろうか?
「おそらくな」
これは偽りではなく俺も素直にそう思う。なにせ、【
「次は私が勝ちます」
やはり、セリシアからもすごい形相で睨まれてそんな宣言をされてしまう。
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