第39怪 憎悪という名の芽の成長
どうやって自室に戻ったかは思い出せない。気が付くと、あてがわれた部屋のベッドに横になってぼんやりと自室の真っ白な天井を眺めていた。
エミの言う通りだ。俺が一時の憎しみに身を任せて逃げれば、【白月】の子供たちはいつまでも社会の目から怯えながら生活しなければならない。それだけは俺は許せない。そのためには俺の気持ちや屈辱など心底どうでもいい。
そうだ。俺はイヴと【白月】の子供たちのためなら、悪魔にでも魂を売ると誓ったはずだ。そのためなら、憎い
「エージ、どうしたのかしら?」
ロトから俺の背中越しにそんな疑問の声が聞こえてくる。
「なんでもない」
所詮俺の気持ちの問題だ。弟や妹たちの安否に比べればクソのようなものに過ぎない。そのはず――なのに、どうしてこんなにも心が痛いんだろう。もしかしたら、俺は奴らへの憎しみの強さを少し舐めていたのかもしれない。俺が全てを失ったあの日から、俺の憎悪という名の芽はゆっくりと成長していたんだと思う。
「そのヒーローとかいうのになるの、そんなに嫌ならやめたらいいのかしら」
事情を知らぬロトらしい提案をしてくる。
「そういうわけにもいかないさ。答えはとっくの昔に決まっている。ただ、少し心の準備が必要なだけだ」
「……」
背中に生じる女性特有の柔らかな感触に、その行動の意を尋ねると、
「元気だすのかしら」
ロトの言葉と温もりに満たされる暖かな気持ち。
「ロト、ありがと」
そう謝意を述べて瞼を閉じると、意識は安堵感とともにゆっくりと薄れていく。
次の日には、精霊や幻獣と契約した者たちも、全て眠りから覚めていた。
驚くべきことは、ソフィアや
ツムジちゃんだけがあまり変わらなかったように見えた。本人に感想を求められてそれを本人に伝えたら、頬を膨らませたから本人的には劇的変化があったんだと思う。
俺たち全員が、今会議室のような場所に集められている。
「エージ君、答えを聞かせて欲しい」
「昨日も言ったろ? 事は弟や妹の命に関わる事だ。俺に選択肢などない」
俺の返答にアルベルトは満足そうに頷く。
「これから我がエルドラは英雄同盟に加盟する。そして、エルドラ所属の
「
「英雄加盟に加盟するといっても今すぐ、どうにかできるわけではない。数年の準備が必要だ。その間に、君らに
「ちょ、ちょっと待って! 【慶皇館大学付属】ってあの、慶皇館ッ⁉」
ツムジちゃんが目の色を変えて身を乗り出した。
確かに【慶皇館大学付属】ってどこかで聞いたことがあるな。怪人の俺は学校というものからは大分遠ざかっていた。そんな俺でも耳にしたことがあるくらいだ。相当有名な高校なんだろうよ。
「ああ、【慶皇館大学付属】はソフィアの母校でもある。いい学校だよ」
「そんないい学校なら、入るのも難しいんじゃないのか?」
俺の当然の疑問に、
「ツムジは我が国が【魔導騎士】と認定したと伝えると、あっさり高等部一学年に編入が認められたよ」
「うそ……」
「真実だよ」
ツムジちゃんは暫しプルプルと震えていたが、
「やったぁ!」
大はしゃぎを始める。
「で、俺は?」
この話しの流れ、俺は別とみてよい。
「エージの場合は過去に怪人認定されている。このルートは使えない」
「そうだな」
「だから、君の怪人認定の再測定を裏のルートを使って要望した。それで怪人が否認された後、改めて【慶皇館大学付属】、魔導科の編入試験を受験してもらう」
俺の怪人の再測定はその指輪を使用して通過するんだろう。だが、【慶皇館大学付属】の魔導科の編入試験はどうやっても無理だ。なにせ――。
「俺はマジで魔術なんて碌に使えねぇよ。編入試験なんぞ、受かるわけねぇだろ」
「大丈夫、あの学園の教師陣は良くも悪くも優秀な魔導士だ。君を落とすようなボンクラはいやしないよ」
アルベルトの妙に自信たっぷりの台詞に、若干の疑問を抱きながら、
「過剰評価じゃねぇことを願うぜ」
そんな他人事のような負け惜しみの台詞を吐いたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます