第37怪 不可解な世間の反応

 寝苦しいな。瞼を開けると、

「――っ!?」

ロトの女神のごとく美しい顔が目と鼻の先にあり、心臓が飛び出そうとなる。

 俺の首に顔を押し付けてきて、壮絶にくすぐったいのと同時に、奇妙な心地よさも感じていた。

 暫くは起こさないように我慢していたが、遂に耐えられなくなって、脇にロトを置く。

「むにゅ、どっち?」

「何がだ? 寝ぼけてんのか?」

「その口調はエージなのかしらっ!」

 俺の首にさらに抱き着いてそのまま動かなくなってしまうロト。暫く、ロトの奇妙なリアクションに首を傾げながら、その頭をそっと撫でる。イヴもこうしてやると大体は落ち着くし。

 ロトの頭を撫でながら、ぼんやりと今の現状について考えを巡らせていたが、鴉の襲撃により皆の命の危機に会ったことを思い出し、飛び起きた。

「ロト、あれからどうなった? 鴉共は無事に撃退できたのかっ!?」

「撃退したのかしら!」

 満面の笑みで親指を向けてくるロトに、ほっと胸を撫でおろす。

 そんなとき、扉が勢いよく開いてエミが入ってくると、

「エージ、いつまで寝てると……」

 言葉が続かず、代わりに顔が真っ赤に染まり、ブルブルと小刻みに震えだす。

「エミ? どうかしたか?」

 背筋に冷たいものが走り、咄嗟に聞き返すが、

「朝食よ! 早く降りてきなさい!」

 近くある枕を俺の顔に投げつけると、全身で怒りを表現しながら部屋を出ていく。

 

 顔を洗ってロトともに食堂に降りていく。

 エミからの情報では、まだツムジちゃんたちの契約成立組は眠ったままのようだ。

 ツムジちゃんのおやっさんと叔母さんはツムジちゃんの近くにいたいということで、部屋で家族で朝食をとるらしい。

 食堂にはアルベルト、その奥方マリエ、エミを初めとする白夜のメンバーが既に席に座っていた。

 どうやら、俺たち白夜の面子はエルドラの客人扱いらしい。

 俺とロトも腰を下ろす。

「それで、尾部勉三おぶべんぞうの件は解決したのか?」

「ああ、現に見た方が早い」

 食堂に置いてある超大型テレビをつける。

 テレビは、尾部勉三おぶべんぞうと坊主にサングラスをした大男を映し出し、ある特集をしていた。それは、魔導省、警察庁、英雄同盟日本支部の三者の前代未聞の不正行為について。

 贈収賄、人身売買、臓器売買、売春斡旋、違法賭博、違法薬物、それらの犯罪に権力者が手を染めていた。いくら怪人が害虫扱いされていると言っても、限度がある。臓器の売買などは、一発違法だ。

 しかし、疑問もある。確かに被害者には怪人でもないものを怪人認定して非人道的な行為を行っていたこともあったが、多くは怪人で占められていた。怪人は基本害獣。何をしてもマスコミや世間は今まで全てスルーしていた。それが、今回に限りマスコミの報道が、この外道行為に対する一切の反対の意を示す。

「エミ、これってどういうことだ?」

 この中で一番素直に答えてくれそうな奴に尋ねていた。

「きっと、下手に怪人を害獣扱いして、尾部たちのようになるのが怖いんでしょうね」

「尾部たちのようになる?」

 俺がそう聞き返すと、背後で控えていた女性の騎士の一人が口元を押さえて蹲ってしまう。他の騎士たちも顔色が壮絶に悪い。

「怪人アビス、彼が発信したメッセージに、世界中が恐怖したのよ。結果、たった一日でこうなったってわけ」

「まったく説明にすらなってねぇよ。第一、怪人アビスって……なんだよ、その中二っぽい名前?」

 怪人アビスとの名を聞いた途端、顔を引きつらせる騎士、恍惚の表情で両手を組むローブ姿の女の魔導士と老人の魔導士、そして、陰と陽の混じった複雑の表情をするもの。

「ほんとにね」

 エミがさも可笑しそうにカラカラと笑いながら俺の感想を肯定する。

「一から、料理を食べながら説明するよ」

 アルベルトが促して、俺たちはナイフとフォークを持って朝食を食べながら、奴の説明に耳を傾けた。


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