第36怪 裏の事情

 尾部勉三おぶべんぞう野人ヴィルトリングの二者は、魔術の実験動物として徹底的に使い倒した。かなりエグイので具体的には思い出したくはないが、最終的には色々人間離れした容姿になってしまう。

 ただこれでは、このクズどもに真の意味で抹殺することはできない。そこで――。

 『すべて話し終えたとき、元の姿に回帰する。ただし、死刑以外の判決がでたときはその時点でドロドロの生きる肉塊へと変貌する』と念じて魔力を込める。時限条件付き魔力の効果の発現の操作。これこそが、今回のこのクズどもを実験にして得た成果だ。

 尾部勉三おぶべんぞうは、警察庁、魔導省、英雄同盟の幹部たちとの緻密な関係を喜んで話してくれた。そのあまりの笑ってしまう外道っぷりについては、既に、『野狐やこ』の資料で把握していたが、実際に奴の屋敷の中を目のあたりにして、心の底から実感した。

 尾部勉三おぶべんぞうとともに非道に手を染めたクズどもは、『野狐やこ』に調査させていたから、特定できていた。そのそいつの邸宅まで行くと『僕の忠告から12時間以内に自らの罪を自白しないと生きる肉塊になり、話せば元に戻る』と警告する趣旨の手紙を残し、その効果をそいつに付与する。

 全てが終わり、最後にあるマジックアイテムを作ろうと思っている。僕の能力ならば、大した労力ではないはず、そう思っていた。

 しかし、蓋を開けてみると、当該アイテムの作成は、想像していたよりもずっと難解だった。

「この魔法金属以外では僕でも作れぬ、ということか……」

 この金属は『野狐やこ』が奴らの屋敷を家探しして持ってきたもの。なんでも、ゲート内から発掘された特殊な黒色の金属らしい。

 ここで、ようやく僕の能力についてわかってきたことがある。

 僕がアルベルトの剣に効果を付与したのは、回復と結界、身体的魔力的強化の効果。そのうち、回復と身体強化は、身体強化と自己治癒などで既に手足のように使用できる魔術だ。魔力的強化は、いわば魔力量のブーストであり、これも【魔力増幅マジックブースト】の魔術でち密に制御できている。結界については、【捜索サーチ】を介して様々な効果を持つ領域を展開ができ、この魔術も僕はほぼ隅々まで把握している。要するにすべて、僕が現に認識している魔術の効果を付与したに過ぎないんだ。

 しかし、今回の目的の『人と人外の魂が共存できるようにするための調整』は、効果としても漠然としか理解できないし、どんな魔術を元にして為すべきなのかが僕には見当すらつかない。故に周囲にありふれている鉄などの一般の金属だけではどうにもならず、【捜索サーチ】のような触媒となる魔術や特殊な金属が必要となるのだと思う。

 この黒色の金属の名は、『霊王石』。『野狐やこ』の調査ではゲート内にある至宝とも呼ばれる金属の一つらしく、巷ではほんの僅かで数億はくだらない代物らしい。

 この金属に魔力的強化を行い、その耐久性を底上げした上で、『人と人外の魂が共存できるようにするための調整』の効果を付与して5個の指輪が出来上がる。どうやらこの僅かにあった『霊王石』ではこれが限界のようだ。

 まあ、いいさ。一つ、また僕の能力について明らかになった。

 できる事とできない事を知ることは、最も基本的な能力把握の方法だし。


 今は丁度、覚束ない足取りでエルドラの村の王族の屋敷に着いたところだ。今日は色々やったし、流石にこれで打ち止めだろうよ。

 僕が屋敷の玄関に入ると、飼い主を待つ子犬のような様子で玄関にいたロトが僕に抱き着いてくる。

 ロトは今回の仕置きには参加させずここに置いて来た。なにせ、僕と一緒に行動しなくてもロトの能力は使用可能のようだし、何より、ロトには此度の執行は少々刺激が強い。

 現に、僕の所業に『野狐やこ』や聖竜王、セイも、恐怖で顔面蒼白となっていた。ロトなら、きっと卒倒ものだと思う。ちなみに、あれから、さらにセイやヤコには恐怖の対象で見られているようであり、さらに恭しさが倍増している。

「アビス様、計画はいかになりましたでしょうか?」

 ロトとともに玄関に待機していたアルベルトが僕に問うてくる。

「まずまずだ」

 そう端的に返答する。さっきから頭がガンガンと割れるように痛い。それはまるで、頭蓋内に釘を直接打ち付けられているよう。はやく、自室に戻らねばならない。

「それは――」

「アビス、すごい汗よ! 大丈夫!?」

 僕が答えようとしたまさにそのとき、後ろで様子を伺っていたエミが僕の前に出てくると、血相を変えて尋ねてくる。

「大丈夫だ。私という意識が眠ろうとしているに過ぎん。いいか、この件の事情は全て『野狐やこ』にでも聞け。あいつに今後のことは全て委ねている」

 強さは兎も角、『野狐やこ』はその卓越した情報収集能力のせいか、分析能力にも優れており、僕の意図を正確に見抜いていた。まあ、僕ほど、ぶっ壊れてはいないから、終始、僕のやることに抵抗感はあるようだったが。ともあれ、奴に今後のことは全て委ねている。あとは上手くやるだろうよ。

 僕はふらつく足取りで自室までいく。そして【変装ディスガイズ】により、衣服を普段着に戻し、分厚い本をテーブルに置く。この本は魔力を1万ほど使用して僕の魔術に対する知識をこの本に転写して上書きしたもの。

「ロト、この本をもう一人の僕に渡すんだ。この危険な世界で生き抜く糧になる」

「わかったのかしら」

 ロトが頷いたとき、とうとう限界がきた僕はベッドに仰向けに倒れ込む。ロトも僕に抱き着いて胸に顔を埋めてきた。

「アビス、またすぐに会えるのかしら?」

「さあね、だが、僕がでてくるってことはこの身体の彼が危険だってことだからさ、すぐに会えないほうがいいかもな」

「……」

 思いつめたよう顔でロトは下唇を噛んでいたが、僕を強く抱きしめるとその唇を押し付けてくる。

「ちょ――」

 その意図を聞こうとした、まさにそのとき、僕の意識は真っ白な霧となって遠ざかっていく。

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