第35怪 八番目の魔王
いつも騒々しいはずの
ロビーにはカタカタと小刻みに震える身体の音と、ガチガチと嚙み合わされる歯が鳴り響いている。
「ぐっ⁉」
「ずいまぜん!」
涙を浮かべながら、口を押えてトイレに駆け込むべく走り出す二人の警察官。
その皆の視線の先あるのは、人とは思えぬ造形の二つの生き物。その二つの生き物は、涙と鼻水を流しながら、何度も助けを懇願している。
皆が顔色に血の気が失っている中、突如、
『始めまして、警察諸君、私は怪人アビス。この現魔導省の副大臣
一方的に話すと、ケタケタと笑い出す。そしてその直後ピタリと笑み止むと直ぐに正気に戻る。
「どうやら、すこぶる厄介な事になっているようね」
スーツ姿の黒髪をポニーテールにした美しい女性が、腰に手を当てながら、そう独り言ちた。
「ふ、古戸部長、お疲れ様です!」
混乱の極致の中、律儀に黒髪ポニーテールの女性に敬礼をする制服を着た警察官。
「署長、本件は我ら特犯局が請け負います。英雄同盟と魔導省の方には我らの方から説明し協力を求めます」
「は! 承知しました!」
「二人を特犯局へ移送してください」
部下たちに命じて古戸も、あの人に電話をかけた。
特殊犯罪対策局――通称、『特犯局』、当初は、特殊犯罪対策課として超能力、魔術に、呪術、増え続ける様々な超常現象関連の犯罪に対応するために創られた部署であり、大した力はなかった。それが、あの合衆国による魔導宣言のあとの混乱期に、その権限が大幅に強大化して今や、特犯局は日本の魔導省とならぶ権限を持つに至る。英雄同盟、魔導省に次いで強力無比な魔術師を抱える巨大権力機構、それが警視庁特殊犯罪対策局だ。
その日本の警察機構の選りすぐりの頭脳たちが、会議室で聞かされた今回事件の報告を猫が猫騙しを喰らったかのような姿で微動だにせずに聞き入っていた。
報告が終わり、騒めきが巻き起こる中、
「二人から全ての聴取が終わった途端、元の人間の姿に戻ったと?」
白髪のスーツ姿の初老の男、
月城は元警察庁長官官房だったが、魔導宣言以後、特殊犯罪対策局を立ち上げて、初代局長となって指揮をとり、以後、警察内部で絶大の権勢をふるってきた人物である。
「はい。人ですらなくなっていた
里奈のこの発言におもちゃ箱を引っくりかえしたような賑わいが生じる。無理もない。
「超越的魔術、それは十中八九、八番目の『魔法』が観測されたということ。つまりだ。八人目の『魔王』が現れたということに等しい」
今の世界魔導学術院は、魔術や呪術を超える唯一無二の物理法則すら無視した奇跡を『魔法』、その奇跡を使える怪物を魔王と定義している。そして、魔導学術院が魔王と認定したものは、この世界にもたった七人のみ。
「よりにもよって此度の魔王は、怪人か……しかも、この残虐性。我らの敵とみてよいものか……」
検察官僚の一人がそんな頭の固いステレオタイプな発言をする。
「くはっ! 我らの敵は、残虐な行為をしたこの愚かな獣二匹だろう? 少なくとも自らを怪人と名乗った存在は、我らが成し得なかった獣どもの一斉駆除を強制的に成してしまったのだし」
月城がその言葉を小馬鹿にしたように否定する。
「月城局長、貴方は怪人を肯定するつもりか!?」
「くだらない質問をするな。私は怪人を否定も肯定もしない。国家にとって有益ならば手を取るし、不利益ならば排除する。少なくとも、怪人アビスの行動は国家の益になっている。故に、敵は欲に溺れた此度の獣どもであり、彼ではない」
アビスの声明を聞いた警察庁、英雄同盟、魔導省の三組織は、
しかし、その自白した奴らの非道は既にマスコミに流布されており、世界中から猛烈な批判にさらされる。結果、各組織とも本件の本格的な調査に乗り出し、次々に関係者が検挙されることと相成ったのである。
「局長はどうするべきとお考えで?」
ニィと薄気味悪い笑みを浮かべる月城を一目見れば、返答など聞かずとも自明というものだ。
「怪人アビスを我が組織へ引き入れる」
案の定、想定内でかつ、世界に混乱を引き起こす台詞を吐いたのだった。
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