第34怪 自業自得な顛末 野猿暴斗
「なんだ、この雑魚は? 魔力がまったく感じられねぇじゃねぇか」
軽薄な口調で雑魚評価を出した。
こいつがネクロマンサーであることはまずありえない。
驚くほど魔力を感じない。どうみても、コスプレ趣味の素人にしか見えない。
部下たちも同じ感想を覚えたようで、薄ら笑いを浮かべつつ、黒服の青年をゆっくりと取り囲む。
「ここを襲っているネクロマンサーについて教えろ。素直に吐けば、命だけは助けてやる」
もちろん、これは嘘八百だ。この
「ほう、私の他にここを襲っている奴がいるのか? 生憎、そいつは私とは無関係だな」
完全武装の屈強な男たちに包囲されているはずなのに、黒服の青年は怯えの表情一つ見せずに軽い口調で返答する。
「お前、状況わかってんのか?」
ドングリ頭の部下の一人が黒服の男に近づいていくとその鼻先に右手に持つナイフを突きつける。
「ああ、もちろんだとも」
黒服の男がニタァと口角を上げる。直後、背中をつららで撫でられたように悪寒が走り、部下たちを残して咄嗟に背後に跳躍して身構えていた。
「ごぼぅっ!」
ナイフを突きつけていたドングリ頭の部下の全身が水分に包まれて浮き上がる。
「ぐぼごごごがぁぁっ!」
水の中で必死にもがく部下の全身がその手にもつナイフごとゆっくりと溶解していく。
『わ、我が――崇敬のマスターに対する数々の不敬、万死に値するッ!』
和服姿の2メートルは優に超える髭面の大男が、怒声とともに黒の服の前に姿を現す。その髪を綺麗に剃った頭にはいくつもの血管が浮き出ており、首に身につけている数珠はまるでその怒りに呼応するかのように血のように真っ赤に染まっている。
「そ、そいつやべぇ――ごぼぅっ!」
悲鳴じみた声をあげながら銃器を構えようとした部下の全身が真っ青な炎を生じて燃え上がる。一瞬で骨も残さず燃え尽きてしまった。
「状況が少しはわかったか?」
黒服の男は暴斗たちをグルリと見渡す。少し、目があっただけで、心臓が凍り付く心地により、足の膝が震えだし、全身の汗腺がぶっ壊れたように多量の汗が噴き出してくる。
黒服の男は暴斗など興味すらないように、
相手にすらされないのだ。通常なら屈辱で怒鳴り散らしているところだ。だが、今は只管その事実に安堵していた。当然だ。暴斗は今のこいつがどういう存在かを理解してしまったから。そもそも、こいつは人ではない。また、巷に溢れている
超越種とも言われる八界の住人は、現世者たちの言葉で言い表せば、それは――神。最下級の眷属でも神の名に相応しい能力を持っている。その神の王だ。こんなのが一体でも現界すれば、この世界の文明などいとも簡単に滅び去る。そんな災厄に等しい存在。もはや、勝てるとか勝てないとかの問題ではない。
そんな暴斗達の気持ちなど知りもしないで、
「おい、
愚者はヒステリックな声で迷惑極まりない指示をしてくる。
「んー、お前が
どこか声を落としてそう口にすると、
『マスター、これら、どういたしましょうか?』
和服姿のスキンヘッドの大男が、黒服の男に確認をとる。
「あーあ、それとそれ以外、いらんから処分していいぞ。どのみち、あっさり戦意喪失しているようだし使い物にならん」
黒服の男が
一瞬で取り囲んでいた部下たちが皆殺しにされた、そのあり得ぬ事実に、
「ぎひいいっーーーーーーーー!?」
ようやく現実を理解した
「ぎぅ……」
暴斗の口から出たのは、言葉にならない絶望の声。
正直、相手は八界の王だ。頭ではこのくらいやるとは思っていた。それでも、実際に、さっきまで傷一つなく包囲していた部下たちが骨や血肉はもちろん、身につけている防具や武器を含めて残らず、この世から消滅してしまう。そう。まるで最初から存在しなかったかのように。その現実がどうしても受け入れられない。
「さーて、喜べ。お前ら二人は私が悪を執行する外道だと認定した。さっきの連中よりは少しだけ長く生きられるぞ。ま、エルドラとの契約では首謀者をあくまで回復して返すこと。五体満足で返せとまでは約していない。精一杯、使い倒してやるさ」
両手の関節を鳴らしながら、悪質な笑みを浮かべながら近づいてくる。
「く、くるな……」
「俄然いくさ。なにせ、悪を執行しなければならないからね」
その宣言とともに、アビスの全てが明確にそして決定的に変わる。その顔が狂喜に歪み、痛いくらいの殺気がまき散らされる。その怪物としか形容できない姿に、暴斗の口から小さな悲鳴が漏れて、
「あ、あ、悪を執行?」
震え声で奴を変貌させたその宣言の中心となる言葉の意を尋ねていた。それが決して聞いてならぬものであると感じてはいたが。
「怪人アビスとして宣言しよう。
まるでピクニックでもいくかのごとき、軽い口調から紡がれる言葉は、この世のものとは思えないほど悍ましくて、かつ、恐ろしかった。
「嫌だ……」
「我がまま言うもんじゃないさ。世の中はどうにもならないようにできている。君も僕もね。だから、悪を名乗る僕らは常に覚悟をしておかねばならないんだ」
「嫌だぁぁぁっーーーっ!!」
「だよね。君らに僕の悪道を話しても理解なんぞできるわけがないし、する必要はない」
大きく息を吐き出すし、肩を竦めるとアビスは暴斗に右手を伸ばしてくる。
絹が引き裂かれるような声が自身の喉から絞り出されるのを他人事のようにぼんやりと聞きながら、暴斗はこんな悪夢のような依頼を受けたことを強く後悔していた。
これが、きっと暴斗にとって人間としていられた最後の思考だったのだと思う。
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