第30怪 獲得魔術、水刹の性能分析実験

 真っ白となって微動だにしないソフィアたちを尻目に、僕は的の練習場まで移動し、獲得した水刹すいさつの性能分析実験を開始した。

 試しに水刹すいさつをイメージして魔力を込めると水が空中に出現し、その水を細く針のようにして高速で回転させて近くの的へと高速で伸ばす。

 ――プシュン!


 的は貫かれる。間髪入れずに、細く高速回転している水を左右上下に動かすと、的がバラバラとなって地面へ落下する。

ふむ、中々使える能力ではないか!

 水を僕が認識した場所に出現させて、自在に操ることができる。その操作は僕の思考に左右されて、際限なく細くもできるし、回転させたり、圧力をかけたりすることもできる。さらに、水で空中に絵文字すら書くことができた。

 どうやら、これがこの水刹すいさつのマスタークラスだ。

念のため、鑑定で調査してみると、操る水に破魔や溶解の力、修復の力を加えることができるようだ。なお、この修復の力には毒や麻痺などの状態異常の回復も含まれる。

 引き続き、リブロースからいくつか魔術を放ってもらって同様な従属契約をしようかと思っていたが、途轍もなく身体が怠い。これは普段の私ならあり得ない事態。もしかしたら、あのときもロトと契約をしたから、この身体のエージという青年に変わってしまったのかもしれない。

 少なくとも今日はもう打ち止めと考えていいだろう。いや、無理をすればやれない事はないが、すぐに意識を失うことを覚悟しなければならなくなる。

「ア、アビス、さっきの巨大竜は?」

 私の水刹すいさつの実証実験が終わり、固い表情で問いかけてくるエミに、

「さっきのは、私の能力の一つだから気にしなくていい」

 お決まりの返答を口にする。

「気にしますわ! 今のは何なんですのっ!?」

 金髪縦ロールの女が、唾を飛ばしながらやかましく声を張り上げる。

「企業秘密だ。説明することはできない」

 そりゃあそうだ。なにせ、使用した僕にだってこの能力はよく分かっちゃいないんだからな。

「妾達と契約したのもその能力のせいかしら!?」

 ロトも彼女には珍しく難しい顔で質問をしてくる。

「そうだ、とだけ言っておこう」

 もう何を聞かれても一切話さぬと口を堅く閉ざしたとき、

「やはり、私の見立ては間違ってはいなかった! 貴方は、明らかに器が違う!」

 アルベルトが興奮に顔を上気させながら、浮かれたような声を張り上げる。

「そうかい。私は今ので少々疲れた。少し休みたいのだかが、構わないか?」

 まだ、『野狐やこ』からの情報がまだだ。ここで無理をして意識をあの何の力のない青年に渡すわけには断じていかない。

「もちろんでございます。リブロース、君も異存はないな?」

「は、はいぃーー!」

 僕の前にきてしゃがみ込んで両手組んで拝んでくるリブロース。

「彼はどうしたんだ?」

 号泣しながら僕に祈りの言葉を早口で捲し立てているんだ。内心を独白すると、彼のあまりの異様さにドン引きしていた。

「さっきのアレをみれば魔導士なら、誰もがそうなりますわ」

 金髪縦ロールの女がそんな冗談を言ってくる。

「んなわけあるかよ」

 とはいったものの、こいつらの驚きの理由もなんとなく推測はつく。なにせ、メフィスト・フェレスから受け継いだ魔導書は魔術の根幹をなす部分について、誤って記載されていた。

 系統魔術の詠唱による発動は、その根拠となる異界の生物の力を借りて実施している。この法則を知らないで、漫然と呪文を詠唱したり、纏った魔力を変質させたりすることが魔術の発動の仕方だと考えてでもいるんだろう。それなら、さっき僕がやったことは彼らにとっては異常極まりない事態だろうよ。ま、魔術の真理を教えるほど僕は優しくもなければ、お人よしでもない。このままスルーするつもりなわけだが。

「アビス様、どうぞ、精一杯のおもてなしをさせていただきます」

「いや、結構だ。少し休めれば十分――」

「それでは、ご案内いたします」

 アルベルトは全く、僕の返答など聞く耳すら持たずに歩き出す。随分に強引な事だ。

 しかし、事態が急を要する以上、今はこいつらともめるわけにはいかぬ。それに、リブロースに魔術を見せてもらった礼はせねばなるまい。元より、そういう約束だったしな。

 私も大きな溜息を吐くと、アルベルトの後についていく。



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