第29怪 新たな魔術の獲得

 村の外れにある木製の高い壁で覆われた区画に、リブロースは私を案内した。

 そこは、複数の的のある射撃場のような区画や、広場のような区画があり、エルドラの軍人と思しき者たちが、魔術や武術の鍛錬をしていた。そのうちの広場のような区画につく。

 僕の動向が気になるらしくアルベルトと金色の髪を縦ロールにした女もついて来ていた。


「では、アビス様、何からお見せすればよろしいでしょうか?」

「そうだな、もし可能ならば、君が持つ最も高難易度の魔術を見せてくれ」


 禁術ならなお良し! だが、エルドラがそんな自らの秘宝をさらけ出すような真似などしやすまい。

 リブロースが了承を貰うべくアルベルトに視線を向けると、小さく頷く。


「アビス様、今から私の最大の魔術をご披露いたします! 危険ですので、どうかおさがりを!」


 僕は広場の中心に移動すると、


「私にその魔術、放ってくれ」


 魔術を発動すると危険ということは、補助魔術ではなく攻撃系に属する魔術。ならば、その魔術を支配するためには、それに触れる必要がある。


「い、いや……しかし……」


 躊躇うリブロースに、


「大丈夫だ。問題はないさ」


 とはいっても、彼は僕と異なり、生粋の魔導士のようだ。その魔導士の放つ最大の攻撃系魔術。今まで僕が呼び寄せた雑魚魔物とはわけが違うだろう。十分に死の危険性はある。だからこそ――面白い!


「リブロース、アビス様の命だ! やりたまえ!」


 未だに躊躇するリブロースに、アルベルトは有無を言わせぬ口調で指示を出す。


「わかり……ました」


 意を消したのか右手に握る杖の先を私向けると、長い詠唱を始める。

 即座に鑑定をかける。


 ――――――――――――――――――――――――――――

水刹すいさつ

・術の効果:破魔の聖なる水を操る。

・詠唱:わが偉大なる聖竜王の御使いが命じる。浄化せよ、浄化せよ、浄化せよ、あらゆる不浄を、清流となって洗い流せ。

・根源:聖竜王

――――――――――――――――――――――――――――


 詠唱の度に馬鹿馬鹿しい数の水滴が生じ舞い上がっていく。聖竜王とやらの姿が見えず、水滴だけが浮遊している。このタイプは触れねば、【全ての理を暴くものアポカリプス】を起動できないだろうよ。

 それも十分想定の範囲内だ。

 肉体的に傷ついても即死でなければ、すぐに復活できる。問題は状態異常だ。

 僕は【探索サーチ】で僕自身を覆い、そこに魔力を5億ほど使用し、『物理的無効』、『魔力的無効』、『状態異常完全無効』の効果を付与する。これでおそらく防ぎきれると思う。


『【聖なる水の弾丸ホーリー・ウォーターバレットっ!


 リブロースが叫ぶと、無数の水滴が僕に殺到する。

 水滴は僕の体に触れると一瞬で蒸発して湯気を上げる。やっぱりこれだけではだめだったか。

 僕は右手に捕獲の効果を追加付与して水滴を数個掴み取る。今度は、蒸発せずに水分を掴む事ができた。あとは――。

「すべて蒸発ぅ? この【聖なる水の弾丸ホーリー・ウォーターバレットっ!を?」

 驚愕の声を上げるリブロースを尻目に、僕は右手にある水滴を贄にして十分な魔力を込めて【全ての理を暴くものアポカリプス】を起動する。

 僕の眼前の上空に未だかつてないほどの巨大な魔法陣が浮かび上がる。その魔法陣から多量な白銀色の魔力が濁流のごとく生じて同心円状に津波のごとく吹き抜けていく。

「あばぁっ!」

 

 リブロースが白銀のオーラの波を浴びて仰けに反るなか、


「きょ、巨大な竜……?」


 縦ロールの女が怯えた震え声を上げて、


「馬鹿な……」


 茫然自失で、アルベルトが小さくそう呟く。

 細長い図体にその独特な顔。確かにジパングの絵画でよく出てくる龍にそっくりだ。すかさず鑑定をかけると――。


 ――――――――――――――――――――――――――――

【聖竜王】

・聖なる水を司る龍神の一柱。その聖なる水は他者を癒しもするし、滅ぼしもする。

・種族:竜種

・系譜:超神八皇の三、海神王ポセイドンの中位眷属

・存在強度:C(伝説級)

・限界魔力量:40,000,0

・恩恵魔術: 水刹すいさつ

――――――――――――――――――――――――――――


 癒しもするし、滅ぼしもするね。要はこいつの水は術者の意思一つで、回復と攻撃の二つを行えるということだ。中々使い勝手がいい術なんじゃないか。

 周囲も口をパクパクさせて硬直しているようだし、とっとと終わらせよう。


『この我――』

「時間が惜しい。屈服しろ。されば痛い思いをしなくてすむぞ?」


 最近、人外どもと似たようなやり取りばかりをしてきて、こいつが何を言おうとしているのかも、以心伝心でわかる。そして、こいつらがどんなリアクションをとるのかも。


『小さき者、貴様、この儂が誰であるか知っての発言か?』


 鼻をピクピクさせながら、低い声でそう問うてくる。


「誰って、空飛ぶ蜥蜴だろう? とにかく、私は忙しい。屈服するのか、戦うのかはっきりしてくれ」

『……』


 今度は眉のようなものをピクピクさせつつ、大口を開ける。口の先端に白銀色の光球が集まり渦を為していく。


「あーそう、戦うのね」

 

 僕は一億ほど魔力を込めて身体強化の効果を付与する。同時に跳躍して巨大トカゲの頭上に乗ると、踏みつけた。


 ――メキョッ!


頭部が陥没すると同時に口の先端が壮絶に爆発する。


『ぐおおおぉぉぉっ!』


 呻き声を上げて空中をのたうち回る蜥蜴の全身を走り抜けるとその尻尾を掴む。そして遠心力を利用してブンブンと振り回して、真上へ放り投げる。

面白い声を出して上空に消えていく空飛ぶ蜥蜴。僕は地面を蹴って一瞬で蜥蜴まで追いつく。

遥か雲の上で、僕は両拳を固く握りしめる。


『ちょ、まっ――』


 焦燥たっぷりの声で何かを必死に叫ぼうとしている奴の全身に僕は拳を叩き込み始めた。

 

 僕が地上へ降り立った時、空飛ぶ蜥蜴も重力に従い降りてくる。そのぼろ雑巾のようになった蜥蜴を右手で捕まえた。


  ――聖竜王の従属を確認。従属契約完了致しました。


 眼前の空中に予想通りの屈服の契約の完了の通知。直後、空飛ぶ蜥蜴の巨体が綺麗さっぱり消滅したのだった。


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