第28怪 諜報指示
話したのは大まかに次の通りだ。
僕はこの身体の持ち主とは全くの別人であり、原因不明の偶発的な事情によりこの身体に乗り移ってしまった。この身体では意識が長く保てないこと知った僕はある誓約付きの魔術を発動した。それは、『僕か寝ている間にこの身体が危機的な状況に陥ったら、僕の意識が戻る』ということ。今僕の意識がこうして戻った以上、当該魔術がその誓約に基づき、もうじきここに危機が迫っていることを私に知らせているということ。
「恐れながら、貴方はいずこの王なのでしょうか?」
アルベルトが慎重に言葉を選びつつ、そんな頓珍漢な事を尋ねてくる。
「何度も言っているだろう。私は王なんぞでは断じてない。ただの一介の悪の怪人Aだ。不快だから、二度とその疑問を私に聞くな」
大人気もなく、苛立ち気に声を荒げてしまっていた。
孤高の怪人A、それが僕の原点であり、憧れ。そのために僕は日々努力してきた。
ただでさえ、こいつらにこうして関わっている行為そのものが、モブであらんとする、怪人六か条第3条、『怪人たるもの悪を執行するとき以外、決して目立ってはならない』に真っ向から反する事態なのだ。例え信念に反することになろうとも、このままなにもせず、この身体の男に全てを委ねれば、十中八九、僕は死ぬ。
我が身可愛さで六か条を破るなど、実になさけないし屈辱だが、こんなわけのわからぬ場所で死ぬわけにもいかぬという事情もある。だから、僕の最も大切な信念すら曲げてこの者たちに僕の情報を漏らしている。だからこそ、このタイミングで僕が最も嫌悪する存在とみなされることだけは我慢がならない。
「こ、これは失礼を!」
僕の嫌悪たっぷりの言葉に、アルベルトが慌てて僕に謝罪し、室内にも緊張が走る。
ダメだ。ダメダメすぎる。こんな横柄な振る舞いは僕の理想の悪の怪人Aではない。それは、僕が最も嫌悪していた薄汚い権力者どもと同じだ。
「いや、今のは――私が悪かった。だが、先ほど伝えたように私はその手の発言を好まぬ。以後、控えてもらえれば助かる」
「重々承知いたしました」
ピリついていた空気が若干弛緩し、周囲がほっと胸を撫でおろす中、
「アビスの話したことが事実なら、今私たちに危険が迫っているんでしょう?」
エミが脱線した話しを元に戻してくれる。
「そうだ。この私の意識がこの場にある事自体がその証拠ともいえる。ただ、その肝心要の危険の原因の情報が何もないのも事実」
僕が【
『我が偉大なるマスター、この下僕めに、どうかご命令を!』
歓喜の混じった声を張り上げる『
「今この私の周囲にある危難を調べ上げろ。どんな些細なことであってもだ」
指示を出す。
『御意に!』
真っ黒な霧となって消える『
「あ、あれは、
ロトが狼狽を隠そうともせずに、問いかけてくる。
「そういや、そんなのが大ボスだったな」
「
「多分、最初呼び出したとき、かなり反抗的だったから、少々脅したし、そのせいだろうよ」
「脅した? 『
「ああ、以来、奴はあんな感じだぞ」
「具体的に何をしたのかしら?」
「魔力を込めた炎で奴を取り囲んで、従わねば燃やすと忠告したら、大人しくなった」
「……」
ロトは僕の顔をマジマジとみていたが、僕が嘘偽りを述べていないと知ると、
「信じられないのかしらっ! 契約ではなく力押しで己の主神たる
ブツブツと爪を噛みながら呟き始めてしまう。
あと、数時間で『
「君らは魔導書を持っているかね?」
僕がメフィスト・フェレスから受け着いた魔導書は、【
この世界はどうやら、魔術が当たり前の世界らしいからな。エルドラは魔導先進国を謳っているようだし、持っていてもおかしくはない。
まったく、私の意識が維持できるなら、まさに私の理想の世界といえるんだが……。
「生憎、臨時の訪問ゆえ、魔導書は持ってきておりませぬ」
それもそうか。魔導書は僕の人生を根幹から変えるほどのものだった。おそらく、国の至宝に属するもの。部外者に見せるわけもないか。
「なら、使える魔術を見せてもらうだけでも構わんのだが、どうだ? 礼は私ができる範囲で支払おう」
「それなら可能です。リブロース、君に頼んでもいいかい?」
アルベルトの頼みに、
「も、もちろんですっ! ぜひやらせてください!」
ローブを着た如何にも魔法使いという外観の老人、リブロ―スが、身を乗り出して了承する。
よし! これで新たな魔術の獲得ができる。
「『
はやる気持ちを悟られないように、ゆっくりとした口調で尋ねると、
「は、はい! では、こちらへ!」
リブロースは上ずった声で大きく頷くと歩き出したので、私も彼の後をついていく。
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