第25怪 一時的な目覚めと僕とロトとの出会い 

 僕が意識を取り戻したのは、見知らぬベッドの上だった。

 アビスの衣装を着たままだったので、【変装ディスガイズ】を発動して、いつもの黒色の衣服に替える。

 そうしているうちに、ぼんやりとしていた意識がはっきりとしてきた。

 僕はこの身体の持ち主に有りっ丈の魔力を込めて『僕が真に必要と認識したとき、一時的に僕の今の意識と交換する』との効果を付与した。

 魔力自体は回復しているようだし、行動に支障はあるまい。あとは、状況の確認だ。

 今の僕の有りっ丈の魔力を込めたのだ。僕の意識がこの場にある時点で、今のっぴきならない事態に陥っているのは間違いない。情報収集は必須だろうよ。

 この部屋、相当な金がかかっている。いわゆる豪邸って奴だ。とすると、この身体の持ち主は相当な資産家の息子か何か? だが、そんな息子がこのヒーローどもが跋扈する社会で、怪人側につくものか? 益々わからんね。

 とにかく、わからないなら、聞いてみればよい。

 部屋を出て観察を開始する。床に敷かれた真っ赤な絨毯に、壁に飾られた高名な絵師の絵画や、職人の腕を凝らして作られたであろう装飾。豪華だとは思っていたが、ちょっと、レベルが違う感じだ。一言で言ってみれば、よく映画にでてくる西側諸国のお城の中だろうか。

「マスター!」

 歓喜の表情を浮かべて、トコトコとこちらに向けて走ってくる紫髪の少女。少女は僕のお腹に抱き着くと、顔を押し付けてくる。

 彼女は覚えがある。確か――。

「お前、確か【腐り土姫】だったよな?」

「……――!?」

 紫髪の女は暫し、半口を開けて僕の顔をマジマジと見つめていたが、すぐに何かを思い当たったのか、僕から飛びぬくと部屋の隅まで退避する。

「心配するな。今更、お前に危害を加えようとは思わんよ」

 この身体の持ち主への懐きようから言って、相当大切に扱われたようだしな。敵意のない女をいたぶる程落ちちゃいない。

「本当……かしら?」

 恐る恐る尋ねてくる紫髪の女に、

「ああ、誓おう」

 強い口調で大きく頷く。

「私は――アビスとでも呼んでくれ。お前は? まさか、【腐り土姫】が名前ではないんだろう?」

 思わず本名を言いそうになったが、名乗っても僕にメリットはない。特にさして面識もない者に対してならば猶更だ。

「妾はロト……」

「ロトか。いい名前だな」

「うん! お父様がつけてくれたのっ!」

 先程とは一転、元気よく声を弾ませる。うーん、どうにも普通の少女にしか見えないな。八界の生命体は皆、魔物とばかり思っていたが、人間とは違う異界に住む知的生命体か何かなのだろうか。

「繰り返しになるが、今の私はお前の敵ではない。事情を知るものがどこにいるかわかるか?」

「……少し待ってるのかしら!」

 パタパタと小走りに去っていってしまうとすぐに、ロトは赤髪のポニーテールの女を連れてきた。

「あなた、エージじゃないのね?」

 赤髪の女は躊躇いがちにそんなことを聞いてきやがった。

「ああ、私は怪人アビスだ。どうやら少々厄介な事が起きているようだ。その旨も説明するから、事情を知る者を集めてくれないか?」

「……」

 両腕を組んでしばらく赤髪の女は考え込んでいたが、

「わかったわ。少しの間、貴方の部屋に戻っていて」

 僕に早口で伝えると一階へ小走りに去っていく。

「部屋に戻るか」

「ロトも……」

 距離をとって僕の後ろをついてくる。警戒はしているんだろうが、僕の傍を離れない。中身が自分を瞬殺した相手だとわかっても一緒にいたいか。相当、この身体の持ち主を信頼しているんだろうよ。

 部屋について扉を開くと、ロトも入ってくる。

 私がソファーに座ると、

「……」

 ロトは扉の前でドレスの裾を掴んだまま、突っ立っている。

 まいったな。どうにも気まずい。別に僕も好き好んで敵を作りたいわけじゃない。

 この部屋に設置されている冷蔵庫を開けると、冷凍ピザが入っていた。それを備え付けられているオーブンレンジで焼く。同時にオレンジジュースをコップに次いで、さあ出来上がり。

「食べなさい。お腹、減っているんだろう?」

 皿に料理を乗せるとソファーに促す。

 ゆっくりとそして慎重に僕の傍にくすると向かいのソファ―に座り、テーブルにあるビザを手に取る。そして興味深そうに眺め回すと、カプリと齧り付く。

「ーーっ!」

 一瞬、驚いたような顔をしたが、すぐに目を輝かせて夢中で食べ始めた。


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