第21怪 水蛇の信念とその理由

 朝食が終わり、エルドラの幹部である白髪の老人に儀式場へ案内される。

そして儀式場の祭壇のような場所で、ソフィアの契約天使ルナエルとこの度ギプスと契約したイフリートの二者と契約する。

 エルドラが主催した契約の儀式自体はさほど難しいものではなかった。だだっ広い儀式場の中にあるこの祭壇のような場所で、俺の血液と契約する人外の血液をエルドラが用意した武器に付着して、指示された呪文のようなものを唱えるだけ。それで、契約はあっさり終了した。結果、魔力保有量につき、ルナエルが1,500、イフリートが1300ほどにもなる。

 聞いたところ、本来ルナエルの方がイフリートよりも存在の格は低いはずだが、それが高くなったのは、ルナエルと契約しているソフィアの影響が大きいらしい。ようは人側の才能の差という奴のなのかもしれない。

 ルナエルとイフリートはもちろん、ソフィアとギプスにも大きな悪影響がないことを確認し、ツムジちゃんの半魔であったジンと契約する。

 水蛇みずちはどうやら当初から怪人たちや、今のヒーロー社会に見捨てられた者たちを助ける目的で国際英雄同盟に入って、虐げられているものたちを逃がすような行動をずっと秘密裏にとってきたらしい。

 エミ達仲間の強い要望により、水蛇みずちと契約しているウインディーネとヒュドラとも契約する。結果、それぞれの魔力総量はジンが1900、ウインディーネ1800、ヒュドラが1020ほどになる。

 今は契約が無事終了して、水蛇みずちから英雄同盟を裏切った経緯を聞いたところだ。

水蛇みずち、あんた、なぜ、そんな回りくどい真似を?」

「英雄同盟を変えるには、内部からと思ったからさ。そして組織に溶け込んで、気付いたこともある。ヒーローに強い憧れを抱いていた奴ほど、この現状に我慢がならなくなるということに。現に、俺の元には自然にそう言った仲間が集まっていった。もっとも、今回の俺の凡ミスで大勢死んじまったがよ」

 水蛇みずちの瞼に深い哀愁がこもる。

「そうか……同胞を助けてくれてありがとうよ」

 本来、水蛇みずちに俺たち怪人を助ける義理などない。むしろ、ヒーローである水蛇みずちは今のヒーロー社会の恩恵を受ける者たちだ。それをかなぐり捨てて怪人を救うなど例え俺が水蛇みずちの立場でも決してできやしなかっただろう。

「……エージ、お前に一つ聞きたいんだが、いいか?」

 水蛇みずちが神妙な顔で俺をみながらそう問いかけてきた。

「ん? なんだよ?」

「お前、グレムリンという名前に心当たりはないか?」

「グレムリン? 悪組織ビランか、何かかよ?」

 悪いが、そんな名前、心当たりなど皆無だ。水蛇みずちが気にするくらいだ。相当悪質な組織なんだろうがよ。

「……」

 水蛇みずちは暫く、感情の一切消した表情で俺を凝視していたが、

「いや、流石にありえねぇか。第一、あれから20年近く立っている。どうみても、30代にはみえねぇしな」

 そんな意味不明な台詞を口にした。

「それって、あんたのヒーローの原点である目指し帽のヒーローって奴かしら?」

「はあ? なんでもお前がそれ、知ってんだよ?」

 横から口を挟んで来るソフィアに水蛇みずちは眉をしかめて、逆に質問で返す。

「マイ先輩から聞いたのよ。昔、グレムリンっていう質の悪い半グレからあんたとマイ先輩を助けてくれたヒーローがいたことをね」

「マイの野郎……余計なことを……」

 苦虫を噛み潰したような顔で悪態をつく水蛇みずちに、

「あんたが、英雄同盟に潜り込んだのも、その彼に憧れていたからなのかしら?」

 ソフィアは片目を細めて質問を投げかける。

「馬鹿言うな。俺はそれほど純真無垢じゃねぇよ。俺がそうしたのは――」

水蛇みずちは何かを言いかけるが、

「止めておこう。契約のせいだろうが、今、途轍もなく眠い。暫く寝るとするぜ」

 言葉を止めると、右手を挙げて部屋を出て行ってしまった。

「確かに契約してからやたら眠いのよね。少し早いけど私も眠るわ」

 ソフィアも大きな欠伸をしながら、自室へ戻る。

「俺たちも部屋に戻るとするか……」

「うん、妾もマスターと行くのかしら!」

 今まで俺の指示で大人しくしちえたロトが、俺の腕にしがみ付きながら、声を弾ませる。

「「駄目に決まってるでしょ! 貴方は私たちと一緒!」」

 エミとツムジちゃんの台詞が見事にはもる。こいつら、なんだかんだ言って、気が合うよな。

「マスター~~」

 泣きそうな顔で情けない声を上げるロトの頭を撫でると、

「大丈夫だ。万が一お前らに何かあったらすぐに飛んでいく」

 そう断言する。

「……わかったのかしら!」

 右手を挙げて俺から離れると、エミの腕に抱き着く。エミは少し驚いて目を見張っていたが、小さなため息を吐くと、ロトと一緒に歩き出した。

「エージも、行こう!」

 ツムジちゃんに促されて、俺も寝泊まりしている屋敷へ向けて歩き出す。

 


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