第18怪 交渉
「はあ? 俺がヒーローどもに襲われているツムジちゃんを助けて、
俺の苛立ちも含んだ台詞を、
「エージ、全て事実よ。私は貴方が奴らを蹂躙するところをこの目ではっきりと目にしている」
エミが全否定する。
「エミ、お前は俺が力を隠して今まで生きてきた、そういいたいのか?」
怨嗟の声をあげながら、エミを睨みつける。この発言ばかりはいくらエミでも許すわけにはいかない。
俺が弱いばかりに数多くの仲間たちが命を奴らに奪われてきた。エミが言っているのは俺が、わざと大切な仲間たちを見殺しにしてきた、そう言っているに等しいから。
「まさにこれが証拠よ」
エミは指を俺たちの周囲に向ける。そこには無数の火の玉がプカプカと浮遊していた。
「これは……さっき、
「だそうだけど?」
エミに話しを振られると
「俺の魔術適正は水属性。火属性は初期の魔術でさえも使うことなどできやしねぇよ」
明確に俺の指摘した事実を否定する。
「じゃあ、この火の玉は何だよ?」
俺が叫ぶや否や、火の玉は一瞬にして全て消失する。
「炎球はエージ、貴方が無意識に出したのよ。いや、それも違うか。エージは認識していないし、そもそも、エージが無意識化であっても私に敵意を向けるわけがない。きっとさっきの炎球には独自の意思がある。そしてエージの様子から客観的に見てエージを守る必要があると判断して出現している」
エミには珍しく興奮でもしているんだろう。早口で捲し立てると、テーブルにある水を飲みほした。
「炎が意思を持つか。イフリート、それはあり得る話なのかい?」
アルベルトが今も平身低頭の状態で身じろぎ一つしない二つの角を持つ青年に問いかける。
『はっ! 我ら炎につらなる者どもの絶対なる神、カグツチ様の眷属、【ウィルオウィスプ】様のお力であると推測されまする』
震え声でイフリートはそう返答する。アルベルトの部下たちから一斉に驚きの声が漏れ始めた。
「八界の
「馬鹿な! 八界の
「偉業か……それはあくまで我ら人の理の中での話。じゃが、八界の
ローブを着た老人が長い顎髭をしごきながら、ぼんやりと呟くと、青色の軍服を着た中肉中背のイケメン青年に室内の視線が集中する。
「その御方は八界の王です。このブラスが保障いたします」
青色軍服のイケメン青年ブラスの傍迷惑な断言に、
「ブラス、その理由を皆に説明してもらえるかな?」
アルベルトの求めにブラスは大きく頷くと、
「バジリスクっ!」
声を張り上げる。床に生じた緑色の液体が地面から湧き出すと血色の悪い子供の姿へと変えて、やはり俺に服従の態勢を取る。
「この者は、バジリスク、その御方が不死化した幻獣の一体。部下に鑑定させたところ、本来の保有魔力量は100前後が精々のところ、1200ほどありました」
今度こそ室内は熱した豆が爆ぜたような喧騒に包まれる。
「保有魔力量が1200ッ⁉ 世界魔導学術院の定義では、魔力総量1000以上の超常者の存在強度は特級だ。それはもはやアンデッドではない、神話上の怪物クラスだぞっ!」
「それを実に簡単に作り出した……のか。確かにそれはまさに神の御業。八界の王の力なりっ!」
「では、アルベルト陛下は、王との契約を通じて――」
喧騒は自然に静まり、俺とアルベルトへと集中していく。
「王よ。我らの陣営にいるソフィアの契約天使ルナエルとこの度、ギプスと契約した火の精霊王イフリートにお力を頂きたいのです」
「力が欲しいも何も、そんな力、一怪人にすぎねぇ俺にあるわけがねぇだろっ!」
さっきから、好き勝手に話を進めやがって。そんな都合よい力があれば、とっくの昔に使っている。抗っている。だが、それができねぇから、俺はいつもこの手から大切なものを失ってきたんだ。
「貴方はツムジに自身で身を守れる力を与えたいと思っている。違いますか?」
「否定はしないが、俺にそんなは力はねぇ!」
ツムジちゃんをチラリと一瞥しつつ、返答する。
「儀式場は我らが用意いたします。貴方は何もしなくて構いません。そして、もしこの件を引き受けていただけるなら、ツムジの保護と白夜への今後の全面的支援をお約束いたします。何より、もし成功すればツムジの精霊にも同じ儀式をすればよいのです」
なるほどな、エミがこうも素直にこの場所に俺を連れてきた理由がわかった。確かに、白夜への今後の支援が関わっているなら、俺にとっても悪い話ではない。
しかし、悲しいかな。俺に奴らが言うような力などない。このままでは、あとで間違いなく撤回される。ならば――。
「白夜への支援の件、本当だろうな?」
「魔術的誓約も致しますれば、もし破れば我らは破滅いたします」
「もし、あんたが望んだ結果が得られなければどうなる?」
「これは誓約です。結果如何にかかわらず、効力は有します」
それなら、白夜に損はない。俺にはイヴがいる。【白月】の兄弟姉妹たちがいる。白夜へのエルドラの支援はまさに渡りに船。おまけに、話の流れ的にツムジちゃんを保護することにもつながるらしい。ならば、躊躇う理由はこれっぽっちもない。
「了解だ。その儀式とやら受けるぜ。エミ、お前もそれでいいんだな?」
「ええ、ごめんね、エージ」
すまなそうな顔をしてくるエミに、
「いいさ。俺が白夜の力になれるなら、望むところだからな」
俺はそう力強く言い放ったのだった。
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