第17怪 案内と屋敷の主との談話の開始

 応接間らしき場所に入ると、

「エージ!」

 見知った声が響き、俺に抱き着いてくるウィローグリーンの髪の少女。

「ツムジちゃん、よかった。無事だったか……」

 俺の何気ない言葉に、

「ねぇ、お腹の傷、大丈夫!? 刺されてたよねっ!」

 俺の全身をパタパタと触れてくるツムジちゃんに、

「お腹の傷? 刺された?」

 オウム返しに聞き返す。

「うん、沢山血がでてたもん!」

 焦燥たっぷりの声を張り上げる。

「大丈夫だ。ほら、この通り」

 腹を出すと、近くでマジマジと確認するツムジちゃん。

「ホントだ。傷がない……」

 安堵の表情を浮かべていたが、

「うー、マスターから離れるのかしらっ!」

 後ろにいたロトが俺とツムジちゃんの間に割って入ってくる。そしてツムジちゃんを歯を剥き出しにして威嚇する。

「マ、マスター? エージ、その子、誰?」

 ツムジちゃんは暫し、目を見開いていたが、半眼を浮かべながら俺に問い詰めてくる。

「こいつはロト、えーと、訳ありでオヤジから預かることになった奴だ」

「叔父さんから?」

 ツムジちゃんがエミを横目で見ると、エミはあからさまに視線を逸らした。そのいつになく不愛想なエミの様子に、大きな溜息を吐くと、

「あーあ、よーく分かったよ。また・・、そのパターンなんだね」

 そう呟くと笑顔で俺の足を踏みつけて、加茂芽かもめの叔父さんたちのいるソファーの元へ行き、腰を下ろす。

「どうやら我らが王は、極めて微笑ましい体質のようだ」

 初老の金髪の男性アルベルトがそう呟くと、隣の美しい年配の女性に腹を抓られた。

 室内に僅かな笑いが起こる。エルドラの連中に先ほどまで絶えずあった俺に対する強烈な恐怖の感情が消失している。

「悪い。事情がまったくつかめないんだ。説明してもらいたんだが」

「もちろんですとも。では王よ、こちらに!」

 アルベルトの右手の先には真っ赤な絨毯。その上にはいくつもの真っ白の柱に挟まれるように、美しい装飾の為された椅子が座していた。

 それはよく漫画などでみる王座というやつ。

「冗談をいうなよ」

「急ごしらえところは、どうぞお許しを!」

 微笑を浮かべながら、そんなふざけた事を宣いやがる。しかも、この様子、こいつ、俺の反応を楽しんでいる。どうやら、完璧にからかわれているようだ。

 俺はツムジちゃんたちが座るソファーへいくと腰を下ろす。ロトも大慌てで俺の隣に座って俺の右腕に抱き着く。あんな椅子に座るなど、羞恥プレイも甚だしいし、これはこれでいい。もっとも――。

「……」

 ツムジちゃんは遂に頬を膨らませてそっぽを向いてしまった。あーあ、ツムジちゃんもエミと同じ、これは機嫌が直るまで手間と時間がかかりそうだ。

「説明を求めるぜ」

 改めて俺が求めると、

「王の御意思だ。我らも席に着こう」

 アルベルトも頷き、部屋にいる者たちに穏やかな口調で促す。

「し、しかし……」

 言い淀む青色の軍服を着た中肉中背のイケメン青年に、

「これは王のご希望でもある。いいね?」

 口調は変わらないが、逆らえない雰囲気を醸し出だすと、渋々イケメン青年たちも、俺とは対面の長いソファーの後ろに両手を背中で組むと直立不動で待機する。

 その様子に小さなため息を吐くとアルベルトは俺の対面の席へと座った。

「何から話せばいいですかな?」

「俺は途中から記憶がない。だから、初めからこの状況を全て説明してくれ。もちろん、そいつらについてもな」

 ソファーの傍で俺に跪き首を垂れる緑色のドレスを着た美女と、今も跪いた状態でガタガタと震えている炎の二つの大きな角を持つ赤膚の青年を一瞥すると、俺の要望を伝える。

「もちろんですとも」

 弾むような口調でアルベルトは俺に頷くと、口を開き始めた。





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