第15怪 いつも、妙に女の子から懐かれるんだから

 バンに乗って、エミに今のこの鉄火場のような状況の説明を求めるが、逆に困惑気味な顔をされるだけで一切答えてはもらえなかった。俺の車内での一連の発言に、水蛇みずちも考えこんでしまって口を開かなくなってしまった。

「で? その子、誰?」

 エミの問に隣に座るロトが慌てたように俺の左腕に顔を押し付け抱きついてくる。きっと、俺がこの世界には恐ろしい奴らばかりだと脅かしたせいで、エミ達が怪物のように見えているのだろう。

 それにしても、この短期間でロトの俺に対する態度が、かなり軟化している。俺に敵意がない事だけは理解してもらえたのかもしれない。

「ロトだ。それ以上は俺にもよくわからねぇ」

「あんた、また・・訳ありってわけぇ? いつも、妙に女の子から懐かれるんだから」

 運転しながら口を尖らせて愚痴をいうエミに、

「くはっ!」

 後部座席の右隣に乗る水蛇みずちが吹きだす。

「なんだよ?」

「いやな、昔、似たようなことがあった、と思ってな」

「そうかい。それで、ツムジちゃんたちは無事、エルドラへ出航できたのか?」

 悪いが、今は敵である水蛇みずちの昔の人間関係などどうでもいい。それよりも、なぜ、その敵である水蛇みずちと一緒にいるのかを含め、聞きたいことが山ほどある。もっとも聞きたい事の筆頭が、ツムジちゃんだ。水蛇みずちとソフィアとの戦闘以降、俺の記憶はスッポリと抜け落ちてしまっている。

 ロトに彼女が保護されたという事だけは聞いている。でも、あくまでエルドラに保護された蓋然性が高いというだけで、確実とまでは言えない。さっきから、気が気じゃなかったんだ。

「「……」」

 エミと水蛇みずちから奇妙な沈黙が生じる。

「どうしたっ!? まさか、ツムジちゃんに何かあったのかっ!?」

 身を乗り出して尋ねる。エルドラに保護されているなら、もう心配いらないと勝手に思っていたが、そもそも何でもありのヒーローどもが国際法を守るとは限らない。

「ツムジは心配いらないわ。エルドラが保護して、今しかる場所に待機中よ」

「待機中? ツムジちゃんたち、まだ日本にいるのか?」

 敵は英雄同盟とあの尾部勉三おぶべんぞうだ。もし、英雄同盟に捕縛されれば、怪人認定をちらつかされて、死か尾部勉三おぶべんぞうの玩具になるしか道はなくなる。普通に考えれば、ツムジちゃんは日本からは早急に脱出すべきなのだ。

「状況は一刻一刻と変わる。そう父さんから習ったでしょう?」

「ツムジちゃんたちの受け入れ先が見つかったってのか?」

「まあ……ね」

 エミの微妙な返答からも、受け入れ先が見つかったのは本当だろう。でも、問題もまたあるってことか。

「何があった!?」

「それはむしろ私の方が聞きたいところ。エルドラの船舶で待機していた軍人さんたちの全員があんたに会わせろとの一点張りなのよ。それまでは梃でも動かないってさ」

「お、俺に、会わせろぉ?」

 思わず素っ頓狂な声を上げていた。当然だ。なぜ、ツムジちゃんの受け入れの話に、俺が関係するってんだ?

「そうよ。エージ、あんた、彼らの前で何をしたの?」

「何もしちゃいない……と思う」

 実際に記憶がないうちにロトを無理矢理召喚したわけだし、絶対ないとまでは言い切れない。それにしても、俺っていつから『召喚魔術』なんていう高等魔術使えるようになったんだ? 少なくとも今の俺には絶対に無理だ。いつの間にか意識を失って、眠っている間に秘められた力を使って高等魔術を使用し、危機を乗り切るなんて、コミックかよ!

「まあ、いいわ。エージ、事情は後でたっぷり聞かせてもらうから」

 そう一方的に告げると、以降エミは口を閉ざす。

 面白そうに俺たちの会話を伺っていた水蛇みずちも同じく一言も話さなくなった。



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