第12怪 帝王同士の潰し合いの予感

 ドグマ・ジーザスが東京支部支部長室へ帰り、窓際に置かれた机に備え付けられた椅子に座る。

 ドグマの前には、数人の白服たちが跪いていた。角が生えていたり、犬歯が長かったりと明らかに人間の姿とは逸脱している者たちも多数含んでいたのだ。

「その怪人アビスと名乗った男は、八界の王で間違いないのか?」

 抑揚のない声で尋ねるドグマに、

「切ったものをアンデッド化する武器を創造し、一瞬で多数の人間の欠損部分すらも癒し、精霊王イフリートの頭を鷲掴みにして投げて一時的に再起不能にする。そんな真似、王でもなければ不可能です」

 眼鏡をかけた美青年が、恭しく答える。

「この世界へ顕現した初めての八界の王というわけか……八界の反応はどうだ?」

「未だに動きはありませぬ。ですが、時間の問題かと」

「であろうな……特定の王のこの最弱の世界への介入は八界の王たちにとっては明確な協定違反。これ幸いと理由を付けてこの世界へ影響力を行使しようとしてくるに決まっている」

 ドグマは顎に手を当てて、そう独り言ちる。

「どういたしましょう?」

「どうもしないさ。混沌は我らがあるじの望むところ。むしろ、都合がよいというものだ」

「では、傍観するのですね?」

「無論だ。王同士が衝突している隙に我らが漁夫の利を得る」

「怖い、怖い、本当に怖い御方だ」

 心の底からの言葉なのだろう。眼鏡をかけた美青年は、今も表情一つかえないドグマに身震いをしながらそんな感想を述べる。

加茂芽旋風かもめつむじはどうなった?」

加茂芽かもめ一家とともに、エルドラに保護されましたが、出航せずに日本にとどまっている様子です」

「王との契約のためか?」

「おそらくは……」

 初めて跪く白服たちに明確で濃厚な恐怖の感情が沸き上がる。

「いかがなさいましょう?」

「王同士の潰し合いになるなら大いに結構。させておけばよいのだ。当面、奴らから手を引いて様子をみよ」

「承知いたしました。この件で、尾部勉三おぶべんぞうが、再三面会を求めてきておりますが、いかがいたしましょう?」

「自ら進んで火中の栗を拾に行くとは、人間とは実に愚かで救いのない生き物だ……ま、よかろう。尾部勉三おぶつべんぞうには、|我らは何があっても手を出さぬから好きにしろとのみ伝えろ」

「は! そのように処理しておきます」

「これからこの世界は八界の帝王どもの争いの場と化す。我らの陣営の力も十分増強しておけ」

「「「「は!」」」」

 白服たちが深く頭をさげると、全て煙のように姿を消失させた。

「ハコツ様、ようやく貴方様が待ち望んだ戦乱の世が始まります。このドグマが貴方様の愛したこのゲーム版を地獄へと変えて御覧にいれましょう」

 両腕を広げて、ドグマはそう叫んだのだった。

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