第11怪 固い誓い

 全員が退出した会議場の扉が勢いよく開かれて中に入ってきたのは、白色のローブを着た白髪の老人だった。

「ハツネ、イヴの手掛かりを得たとは、誠のことかっ!?」

「ええ、いくつか疑問点はありますが、手掛かりを得た事は本当です」

 この白髪の老人こそが、国際英雄同盟の最高戦力の一人、七英傑の一人バロン・オリベ。

「そうか……我が孫が生きておったか……」

 右手で顔を押さえて身を震わせるバロンに、

「あくまでまだ推測の段階です。あまり、ぬか喜びはされませんよう」

 静かにまるで自分に言い聞かせるかのように、ハツネは注意を喚起する。

「わかっとるわい! それで、今イヴはどこにいるんじゃっ!?」

「【白月】という孤児院で幸せに暮らしているそうです」

「なら、なぜ、すぐ迎えにいかぬっ! なんなら儂がっ――!」

「あくまで手掛かりを得たにすぎない。お爺様にはそうお伝えしたはずです」

「疑問点がある、と言っておったことか?」

「ええ、もしか彼女が本当に、イヴ・オリベならば、明らかに年齢がおかしいのです」

「……どういう……ことじゃ?」

 先程の歓喜に近い表情から一転、表情が化石のように青く強ばっていた。

「私があの子を産んだのは、十八年前、当然あの子は十八のはず。なのに、今のあの子は十歳にしか見えない」

「まったくの別人ではないか!」

 この世終わりのような顔をするバロンに、

「いえ、一度、実際に会いましたが、確かに、あの子は私の娘イヴです」

「なぜ、わかる?」

「母親の勘ですよ。お爺様」

「勘でもなんでもいい! 少しでも可能性があるなら、さっさと保護してDNAの親子鑑定でもすれよかろうっ! お主は我が子とともに暮らしたくはないのかっ!?」

「一緒にいたいですよ! 一緒にいたいに決まっています! でも、私はカツキと約束したんです! 絶対にあの子を幸せにするとっ!」

 そのハツネの言葉に、雷に打たれたようにバロンは身体を硬直させると、

「今保護しては、イヴのためにならぬ。そう言いたいのか?」

「ええ、一度お忍びであの子と話したことがあるんです。そのとき、あの子は今幸せだとそう私にいいました。あの笑顔がどうしても私には嘘だと思えません」

 バロンはハツネの顔をマジマジとみていたが、大きく息を吐き出すと、

「事情はわかった。今はお主に任せよう。じゃが、長くは待てんぞ」

 片目を開けてそう宣言する。

「お爺様、ありがとう」

「婿殿か……あやつが、腐れ怪人の凶刃に倒れさえしなければ、こんなふざけた世にはなっておらんものを……」

 『腐れ怪人』との言葉を口にするときに、バロンの眼の奥にある感情は、他のヒーロー達とは明確に異なっていた。即ち、己の全てを狂わせるほどの強烈な憎悪。

「お爺様、カツキの意思は――」

「婿殿の望むことは、頭では理解しておるよ。じゃが、やっぱり駄目じゃ。儂はどうして怪人というものを許すことはできぬ」

 端的にそう声を絞り出すと、部屋を出て行ってしまう。

 一人残されたハツネは、

「カッちゃん、まかせてよ! イヴのことも、貴方の理想も必ず私が叶えて見せる!」

 両拳を血が出るほど強く握りしめながら、誓ったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る