第10怪 ヒーロー会議

 国際英雄同盟東京支部は、東京新塾区のセンター街にある巨大ビルだ。そのビルのガラス張りの最上階の円卓には十数人の白服の男女が座していた。

「全滅……石王、炎魔人、氷姫はともかく、雷虎までですか?」

 赤い髪の前髪を切りそろえた美女が、目を僅かに見開いて報告をしてきた白服を着た大男に聞き返した。

 この無精髭を生やした大柄な黒髪の白服の男の名は、ドグマ・ジーザス、東京支部長であり、ジパングの英雄同盟の実務上のトップとして白服の英雄たちに君臨する英雄の一人。

「雷虎たちの働きにより、我らを裏切った水蛇を捕縛し、関東中心に行動する怪人組織白夜を壊滅寸前まで追い込みますが、自らをアビスと名乗る正体不明の怪人により、全てひっくり返されました」

「怪人アビス……ですか」

 赤髪の美女の呟きに、室内の至所からヒソヒソ声が聞こえてくる。そのほとんどは、報告された事実の疑義について。

「本当にたかが怪人ごときに我らがA級英雄ヒーローが敗北したのですか?」

 事務屋の幹部の一人から出た疑問の声に、

「負けた。石王と雷虎、炎魔人は不死化して死ぬこともできぬ意志ある肉塊と化す。唯一生き残った氷姫は、鎮静剤でどうにか正気を保っている状態だ。もはや、英雄ヒーローとしての再起は不可能だろうよ」

 ドグマは淡々と到底信じられぬ報告をする。この知らせに、今度こそ室内が鳥カゴみたいに騒めく。この反応もある意味当然だ。

 怪人とは、要は人にも人外にもなれぬ出来損ないのこと。その力も決して強いものではなく、英雄たちからすると、取るに足らない存在のはずだ。それが、英雄の中でも最高戦力であるA級ヒーローを複数打倒する。それは本来、絶対にあってはならぬことのはずだから。

「その怪人アビスなにがし、はどうなったので?」

 出席していた英雄同盟の幹部の一人が、跳ねた長いカイゼル髭を摘みながら、疑問を口にする。

「雷虎たちを壊滅すると、姿を消し、以来消息は不明だ」

「困りますなぁ、ドグマ殿ぉ、よりにもよって天下の英雄ヒーローが、怪人風情に敗北するとは、我らが聖女様の御尊顔に泥を塗るおつもりかな?」

 表情一つ動かさぬドグマに、事務屋の幹部たちが嫌らしい笑みを浮かべつつも、批難の台詞を口にし始める。

「まったく、その通りですなぁ。怪人は、悪党どもビランとは違う。いわば害獣。存在そのものが社会の不要物にすぎぬもの。よりにもよってそんな害獣に敗北するとは、この責任、どうお取りになるおつもりですか?」

 次々に出るドグマへの責任追及の声。それに顔色一つ変えずに、

「ならどうする? この私を解任でもするかね? 私はいつでもその用意はあるぞ?」

 ドグマは一同をグルリと見渡しながら、問いを発する。

「だ、誰もやめろ、とは言っておらん!」

「ならば、この場で土下座でもすれば満足か?」

 ドグマのこの台詞に出席していた他の高ランクのヒーローたちが一斉に殺気立つ。

「だから、飛躍するなと言っておるのだっ!」

 怒号を上げるカイゼル髭の事務屋の幹部に、次々に他の事務屋の幹部たちからも、支持の声が上がる。

 まさに一触即発の状況で、

「やめなさい」

 中央の席に座る赤髪の聖女から制止の声が飛ぶ。途端に嘘のようにヤジやら怒声がピタリと止む。

「ドグマ、私は貴方を信頼しています。その上で改めてお聞きします。そのアビスという新人類、貴方たちで止められますか?」

「必ずや、打倒して御覧にいれましょう」

 赤髪の聖女は、しばし、無言でドグマを凝視していたが、

「わかりました。引き続き、その新人類については、ドグマに一任いたします。此度、殉職した方々の家族には十分な説明と保障をお願いいたします」

 赤髪の聖女のこの指示に、室内の全員が一斉に立ち上がり、右の掌を胸に当てて頭を下げたのだった。


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