第9怪 思い出せない再開

 混濁した意識の中、瞼を開けると俺は辺り一帯が全て白と赤のチェック模様でできている広大な部屋に立っていた。

「俺は……?」

 何も思い出せない。今なぜここにいるかの理由はもちろん、自身が置かれている状況、さらには己が何者かも頭に霧がかかったように微塵も思い返す事はできなかった。

「でも、ここ、どこかできた事があるようなんだけどな……」

 この果てがないほど続く赤と白の床と天上。この異様な光景を前にも一度目にしたことがあるように思えたのだ。

『君には本当に恐れ入ったよ……』

 背後から声をかけられて肩越しに振り返ると、8~9歳くらいの眠そうな目つきの少年が敵地に足を踏み入れたような険しい顔で佇立していた。

「お前は?」

 この子供にも俺は一度会ったことがあるような気がしていた。

『やっぱり僕を忘れているのか……』

 子供は顎に手をあてて、ブツブツと独り言を呟き始める。

「おい! お前は誰だっ!?」

 俺の叫びに白髪の少年は顔を上げて僕を見据えると、

『僕はコツガ。君の半身であり、君の力の源……のはずだ……』

 困惑した表情で、そんな意味不明な事を言いやがった。

「半身? 力の源のはず?」

『君が混乱するのも無理はない。僕だって目ん玉が飛び出んばかりに驚いている。おそらく、前提が間違っていたのさ』

「前提が間違っていた?」

『そうっ! 当初、君の潜在する魔力マナが貧弱だから記憶が承継されないと思っていた! でも、違った。違ったんだ! もしそれなら、意識は前世から常に連続していなければおかしい! 君という意識が今ここにいる事自体、あり得ないんだよっ!』

「悪いが、お前の言っている意味がこれっぽっちも理解できねぇんだが?」

『それだよ! なぜ、君は覚えていない!? 八界すら全て踏みつぶす力を得ているのに!? 要するに、僕の推測は全て誤りで、君の記憶と意識が連続しないのは全く別の理由からだっ!』

 相当動揺しているのだろう。白髪の少年コツガは、心の高ぶりと焦りを抑えきれない乱れた音声でそう捲し立ててくる。

「喚くなよ! 耳がキンキンすらぁな」

『……ともかくだ。色々想定外な事が起こった』

 コツガは何度も深呼吸をして、そう僕に告げてきた。

「想定外なこと?」

『ああ、前に僕は前世と後世は完全に独立しており、互いに影響しないといったけど、もう一人の君が解放したあのふざけた力により、世界のことわりそのものが歪んでしまっている。そのせいで、世界根幹に根ざしたテーゼは今や必ずしも確定的なものではなくなってしまった。ここから先は、もはやどうなるのか術を発動した僕にすら予想もできない』

「前世? 後世? だから意味不明だとさっきから――」

『今後は前世で君が何をしたかによって後世は変わっていく……可能性がある。君が今生きるこの世界に大きな変化がないのは、君がまだ前世で表舞台に出ていないから。そうも考えられるのさ。まあ、もしそうなら、もう一人の君のバケモノ具合なら変貌するのも時間の問題だろう』

 コツガはそう早口で口にすると、パチンと指を鳴らす。

「うぉっ!?」

 真っ白霧により崩壊していく白と赤の部屋に、思わず驚愕の声を上げる。

『世界すらも捻り潰せる力は、君の身体の中で一時的な眠りにつく。もっとも、それも――』

 崩壊が進むにつれてコツガの声は次第に小さくなっていく。

「お、おい!」

『いいかい、君ともう一人の君は同じ魂。本質は全く変わりやしないのさ。だから君のその出鱈目な強さも、他者を虫けらのように蹂躙する狂気ともいえる気性も、プライドの高い八界のものたちをほんの僅かの間で従えるそのカリスマも全て君自身が保有している特質だ』

「意味が分からねぇって、さっきから――」

「願わくば……と君のこのゲーム、悔いの残らぬものにならんことを!』

 そのコツガの台詞を最後に俺の意識は、ゆっくりと薄れていく。

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