第5怪 完全敗北 ソフィア
あの白服どもの衣服は、
あの金髪の野獣の男が、この東京支部長の懐刀、
ポケットに手を突っ込んでいる坊主の男が、渋谷区区長、
白髪の女が
(甘かったですわ……まさか、東京支部の最高戦力が勢ぞろいするとは……)
いずれも東ジパングが誇る最強クラスのヒーロー。腐った政治家の欲望のために、たかが少女一人にこの面子が出張ってくるとは夢にも思わなかった。
政治家の尻尾ふりごときでこの面子は動くまい。十中八九、尾部勉三からの依頼は建前で他に理由がある。そして、それはこの面子を動かすだけの価値があの少女にあるということを意味する。
「……」
「なぜ、あんたらがここにいる?」
同胞である
「あーあ、お前の子飼いの獅子身中のクズ虫どもか。もちろん、全て処分したぞ」
左手を上げてパチンと指を鳴らすと、白服のヒーロー共の数人が
「ま、まさか……」
「
怨嗟の声を上げる。
「いいねぇ。その絶望と怒りの混じった顔。裏切者はそうじゃなくてはなぁ。なあ、お前らもそう思うだろう?」
隣の二人のA級ヒーローに同意を求めると、
「是! 怪人に組みするものは死。それは我らが人類共通不変の掟なりっ!」
「そうよねぇ。もうじきA級の昇格が決まっていたのに、まさかあんな生きる価値のない害虫を逃がして人生を棒に振るとは、本当に君ぃ、モノ好きねぇ」
氷姫が大きな欠伸をしながら、たっぷり侮蔑の籠った口調で返答する。
「つまりだぁ、
左手の人差し指を
「「「死刑っ!」」」
声をハモらせる。
「おい、ソフィア、そいつら、連れてさっさとこの国を離脱しろっ!」
ソフィアに意外極まりない指示をだしてくる。
「……」
状況が呑み込めず、茫然としているソフィアに、
「早くしろっ!」
「恩に着る! 姫様、彼らを連れて船まで戻ってくださいっ! 私が殿を務めますっ!」
混乱するソフィアの代わりに答えのは、側近のギプスだった。
「お前が殿ねぇ。全く、お目出度いねぇ」
「え……」
一筋の稲光が高速でソフィアの傍をすり抜けて、ギプスに直撃する。
ギプスは数度痙攣すると、仰向けに倒れてピクリとも動かなくなる。
「ギプス……?」
上手く思考が働かない。カラカラに乾いた喉で最も信頼する側近の名を口にする。
「貴様ら、ヘボ魔術師にこの俺を止められるわけねぇだろ」
肌が焼けこげて煙をだしているギプスに、唾を拭きつける
「貴様ぁっ!」
怒りで視界が真っ赤に染め上がる中、奴に疾駆し、その脳天に長剣を突き立てる。
しかし、長剣の剣先が奴の眉間に突き刺さる寸前で、
「――ッ⁉」
その長剣の剣先を
「ざーんねん――でしたぁ」
「ちっ!」
「
「もう一度言うぞッ! そいつを連れてはやく退避しろ!」
「りょ、了解ですわ!」
軽く頷き、ギプスに駆け寄り彼を担ぐと走り出す。
「無理っ!」
火柱が上がり、ソフィアに向けて突き進むと、ソフィアをグルリと取り囲む。そしてソフィアの行く手を塞ぐように佇んでいる
(あれはーーッ⁉)
『炎霊王イフリートッ! ソフィ! そやつはマズイぞっ!』
契約している守護天使、ルナエルが焦燥たっぷりの声を上げる。
「わかってますわ!」
言われなくてもあれは、魔導士なら知らぬはずがない。
――炎霊王イフリート。世界でも数少ない【最上級】の存在強度を誇る人外の怪物。存在強度が【上級】に留まるルナエルでは、明らかに分が悪い。存在強度はまさに、人外たちの存在の格。一つ違うだけで絶望的な差がでてしまう。少なくともソフィアとルナエルではここから離脱することすら、至難の業といえる。
「っ!」
突如、空中に多量の水が出現し、ソフィアを包囲していた炎を呑み込み瞬時に消火してしまう。
「テメエらの相手は、俺。そう言ったはずだ」
その
「くだらねぇっ!」
「児戯!」
そして、
「鬱陶しいわねぇ」
氷姫への水流はパキパキと氷結する。
「第一よぉ。お前、この俺様とやり合って余所見する暇あると思ってんのかぁ?」
かわ
「ちっ!」
舌打ちをすると、
幾度も青と金色の光が衝突し、アスファルトの地面がドロドロに溶解する中、
「
「逃がさなけりゃいいんでしょ」
顔を顰めながら、氷姫が右手で長い髪をかき揚げたとき、ソフィアたちの立つアスファルトの地面が瞬く間のうちに凍り付く。
「―ッ⁉」
咄嗟にルナエルの力で空中に退避するが、
「無駄ぁっ!」
「くっ!」
無我夢中でルナエルの力により高速飛行してその弾丸を躱すが、まるで生きているかのように炎の塊は不自然に向きを変えてソフィアに驀進する。
「がっ!」
全身がバラバラになるかのような凄まじい衝撃がソフィアを襲う。視界が地面と空を幾度も行き交い、固い地面に背中から叩きつけられてしまう。
「はーい、捕まえたぁ」
氷姫の声ととともに、ソフィアの全身は氷漬けとなって身動き一つできなくなる。
唯一動く顔により周囲を確認するが、全員地面に氷により、動きの一切が封じられてしまっていた。
「終わりだぁ!
勝ち誇った声をあげる
「はっ! 俺が武器を捨ててもどうせ殺すんだろっ!?」
「さあ、どうだろうなぁ。だがよぉ、お前が拒否すれば、こうなるなぁ」
断末魔の声をとともに、骨すら残らず、消し炭となってしまった。
「てめえッ!」
「次は、その女にでもするかぁ?」
舌なめずりをして、ソフィアに顔を向ける。その金色の眼を目にしただけで、心臓を鷲掴みにされるかのような、強烈な悪寒が走り抜ける。
「俺様の負けだ」
苦渋の表情で
「お前、とことん馬鹿だなぁ。こんな足手まといのカスどもなど見捨てて逃げていればお前一人なら助かったかもしれねぇのによぉ」
「ああ、まったくだ」
疲れたように
「で? こいつら、どうするのぉ?」
氷姫の疑問に
「もちろん、全て殺処分だ」
予想通りの台詞を紡ぐ。
「その女はエルドラの王族だ。勝手に殺せば、支部長にドヤされるんじゃねぇのか?」
「この女がエルドラの王族……」
「まあいい。怪人どもは全て殺処分。そのエルドラの王族の女は一応生かして本部の調査部に引き渡せ。そいつ以外は殺していい。
そんなソフィアにとって最悪に等しい返答をする。
「ふざけないでっ!」
「了解♬ じゃあ、君たち、ちゃっちゃと首を刎ねっちゃって♩」
ソフィアの反論の言葉など歯牙にもかけず、歌うように氷姫が白服たちにそう指示すると、白夜のものたちとソフィアの部下たちに近づくと剣を振り上げる。
冗談じゃない! この失態はソフィアの判断の甘さに起因するのだ。なのに、ソフィアのみがオメオメと生き残る? そんな恥辱、死んでも御免だ。
「止めろぉ!」
懸命に立ち上がろうとするが、やはり指一つ動かすことは叶わない。
「死刑」
氷姫の指示に白服たちの剣が振り下ろされる。
刹那、地上を黒色の炎が走り抜けて武器を振り下ろした白服たちを一瞬で塵に変えて燃やし尽くす。
「……」
瞬きをする間に、国際英雄同盟東京支部の精鋭、数十人の白服たちが塵と化したのだ。そのとても現実とは思えぬ事態に誰もが一言も発せられない中、地面に黒色のフードを頭から深く被った男が空から着地する。
「え?」
その仮面の奥から覗く紅に染まった瞳に貫かれて、ソフィアの口から漏れたのは小さな戸惑いの声。その吸い込まれそうな紅の瞳は、確かに今もソフィアに体中の血液が逆流するほどの恐怖を感じさせているのは間違いないはずなのに、奇妙な懐かしさと胸が締め付けられそうな切なさを感じていたのだ。
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