第3怪 現状認識

玖珠クスは実にあっさり、仲間を僕に売り渡した。結果、いくつかのことが判明する。

 今までなぜか違和感が微塵もなく気付かなかったが、この身体は僕、城戸きど香月かつきのものではなく、白夜という悪の組織のメンバーのものだということ。この身体の年齢は17,18歳くらいであり、長身。小柄な僕とは声も体格も全く違う。どうして、今の今までそれをすんなり受け入れていたんだろう? 改めて考えても、それ自体がよほど異常だ。

 まあそれは後々じっくり時間をかけて考察すればいい。それよりも、今はもっと考えなければならないことがある。

 どうやら今いるこの世界は僕がいた2046年から20年後の2066年であり、英雄ヒーローという偽善者どもが支配している。一方、僕らは怪人として迫害の対象となっているようだ。

「怪人が迫害? くはっ! くくっ……」

 笑ってしまう。怪人が迫害? まったく腹がよじれそうだ。僕が目指す怪人Aは、悪の中の悪。純粋に悪を極めし執行者であり、この世の全ての恐怖の対象。間違っても誰かに迫害されるような弱い存在ではないし、あってはならない。

「どうやら、この時代の愚鈍どもに怪人が何たるかを思い知らせる必要があるようだ」

 人工的に異界の不思議生物と同化させたものを怪人と呼ぶ? アホか! 怪人とは心。そんなちんけな身体的特徴などでは断じてない。

「なあ、お前もそう思うだろう?」

 腐臭がする肉塊へと笑顔で問いかける。こいつは、玖珠クス。生きたまま溶解しているうちにこんな姿となってしまった。

『ごろ……じで』

 涙を流しながらそう懇願する玖珠クスに、

「否、断じて否だ!  言ったろう? お前はこの私を不快にさせた。精々、ゆっくりと人以外のものになる感触を味わいながら落ちていけ」

 自分でもぞっとする声色で告げると奴に背を向けると、ウィローグリーンの髪の少女と中年夫婦を担いで歩き出す。


 少女たちを担いで遠方に停泊されていた真っ白の流線形の船舶まで運んでいく。この白色の船はエルドラの国章がペイントされている。玖珠クスからの情報では、この少女たちはエルドラに亡命するために、あの船に乗り込むことになっていたそうだ。

 僕が大きく跳躍して白色の船の甲板に乗り込むと、エルドラの軍人と思しき者どもに取り囲まれ銃口やら剣先やらを向けられる。彼らの各々の手に持つ武器は小刻みに震えており、その顔には濃厚な不安が顔に汚点のようにくっついていた。おそらく、僕らの戦闘観戦でもしていたのだろう。完全武装しているところからも、もしかしたらこの少女を助けに向かうつもりだったのかもしれない。

「白夜の……ものか?」

 躊躇いがちに僕に尋ねてくる中肉中背のイケメン軍服の青年に、

「そう怯えるな。今はお前たちの敵ではない。少なくともこの少女たちに危害を加えなければ、だがな」

 ぐるりと取り囲む奴らを見渡しながら、念のための保険を掛けて置く。

「そうか……」

 小さく安堵の息を吐くと青色の髪の青年は右手を上げる。取り囲んでいた奴らは僕に向けていた武器を下ろして戦闘状態を解除する。

「まだ、お前たちの仲間の亡骸がある。彼は命を賭して大切なものを守ろうと奮闘した漢だ。船に乗せて丁重に葬ってやってくれ」

 あのクズを尋問した結果、頭部が切断されている死体の男は娘を人質に、裏切りを強制されていたらしい。しかも、その娘は既にこの世にいない。クソヒーローどもめっ! 反吐がでるほどの外道の所業。悪としてこの落とし前はしっかりとつけてやるさ。

「感謝する」

 苦渋で顔を歪ませながら、青髪の青年はそう声を絞り出す。

「バジリスクッ!」

 僕が叫ぶと緑色の液体が地面から湧き出すとアンデッドの大蛇の姿となって、僕の前で首を垂れてくる。

「バ、バジリスクッ!?」

 裏返った声を上げる青髪のイケメン青年の声を封切に騒めくエルドラの者どもを尻目に、

「この娘とそこの夫婦の保護を最優先。余裕があったら、こいつらの船も守ってやれ」

『御意に』

 僕はバジリスクの了承の台詞を聞くと同時に船の甲板から跳躍してもう一つの戦場へ向けて走り出した。

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