第2怪 心配するな。すぐに死にたくなる


「次は――どいつだ?」

 僕が玖珠クスと大蛇に視線を向けた途端、

『ひいーーーーっ!』

 悲鳴を上げて一目散に僕から逃げようとするバジリスク。

「バジリスク、待ちなさいっ!」

玖珠クスが焦りに焦った声色で制止の声を上げるが、バジリスクは振り向くことすらせずに私から遠ざかっていく。

「めでたいねぇ。逃げられると思っているのか」

 さっそく先ほど奪った魔術の実働実験には丁度いい。【腐蝕ふしょく】を発動すると、無数の紫の球体が僕の周囲に浮かぶ。

「なるほど、球体の数や操作は自在にできるってわけか。ならば――」

 無数の球体を集めて合体させて剣をイメージする。眼前に紫色の剣が形作られていく。その剣の柄を握って眺め見る。

 透き通るような紫の細い刀身に、奇妙な形態の鍔。こんなけったいな形の剣など見た事もない。おそらく、僕の想像というより、この術を支配する腐り土姫とやらの思考が影響しているんだろう。

「いい! いいね! これは最高だっ! あとは、肝心要の効果だ!」

僕はその剣を今も疾走するバジリスクの頭上に出現させると高速で落下させる。

『ぎゅえっ!?』

 幾つもの紫色の大剣はバジリスクの脳天、胴体を貫き固く冷たいコンクリートに縫い付ける。

『ぐげげげげげげ――――ッ!』

 壊れたラジオのように何度も身体を小刻みに痙攣させると、眼球が露出して皮膚が剥がれ落ち、ドロドロに溶けていく。紫色の大剣が消失したとき、バジリスクのゾンビ化は完了していた。

『我が偉大なる主よ。ご命令を』

バジリスクは深く僕に首を垂れる。

「バ、バ、バケモノォォーーーーーーっ!」

 腰を抜かして床に水たまりを作りながら身を小刻みに震わせる玖珠クスが、僕にとって褒め言葉以外の何ものでもない絶叫を上げる。

 僕はゆっくりと奴まで歩き、見降ろしながら、

「その通り。私は怪人、悪の執行者だ。お前らのような全てが己の意思通りに動くと信じている救いのない自己陶酔野郎を奈落に叩き落すのを常としている。要するにだ。お前の行先は既に決まっている」

 奴にとっての死刑宣告をする。

「行き先?」

掠れた声でオウム返しに問いかけてくる玖珠クス

「ああ、お前のその貧相な想像力を働かせて、自分の最悪の末路を想像しろ。誓ってやるさ。その数十、いや、数百倍の苦痛と絶望をお前は味わう」

 僕は右手にゾンビ化の効果を有する紫色の小剣を顕現させながら、懇切丁寧に説明してやる。

「いひいっ!?」

 顔を恐怖一色で染め上げて這いつくばって逃げようとする玖珠クスの脛に、ゾンビ化の効果を有する紫色の小剣を突き立て、コンクリートに縫い付ける。

「呪いの効果を調整しておいた。すぐにはゾンビ化することはないし、痛みなどの感覚はしっかりある。ゆっくりジワジワと己の身体が腐り果てていくのを噛みしめながら朽ちていけ」

「い、いやだぁーーっ!」

 涙を流しながら獣のような声を絞り出す玖珠クスに、

「心配するな。すぐに死にたくなる」

 爽やかな笑みを浮かべつつ親指を立ててやる。

「ゆずじてくだざい」

「我がまま言うなよ。世の中はお前が考えているほど優しくはできちゃいない。あー、だがもし、お前が私の質問に素直に答えるなら、気が変わってスパッと殺してやるかもしれんぞ」

私は奴にとって最後となる救いとなる偽りの言葉を投げかける。

 

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